第13話 お前らが弱い理由 3

 デイツー。彼らが語ったモンスターの名前だ。


 そのモンスターと対峙して、死んだという話は聞いた事が無い。問題はその耐久性と攻撃の質にあった。


 とにかく痛いのだ。


 触れただけに見える攻撃は強烈な痛みを起こす、傍から見れば「え?なんで」と言った感じで痛がるのだ。


 HP的にいうのであれば100あるHPが99に減るだけ、だが痛い。強烈に痛い。


 追加効果もまた悪辣だ、気分が非常に憂鬱になる。それはもうお腹の奥にずっしりと鉛を喰らったかのように重くなる。


 攻撃を受けた女性冒険者は語った。


 まるで月一の二日目のようであったと…。




「うえ~ん痛いよ~重いよ~辛いよ~」


「っく、我慢しなさい」


「始まっても居ないのに二日目だよ~コレ何体目~」


 泣き言を言う孫達。


「だまって攻撃しなさい。こっちまで憂鬱になるじゃない!」


 二日目の辛さを知る2人、爺は何とも言えない顔だ。


「安心しなさい、どうしても気分が晴れないのであれば、お爺ちゃんを縛り付けて奴に差し出すから」


「あぁ~例の極刑ね~」


:こわw

:やめてくれw

:思い出しただけで寒気が…

:いや受けたんかいw


 女性冒険者に対し、その辛さを理解しない、空気の読めない男性冒険者が言った。言ってしまった。


 女性陣の怒りを買った男性冒険者の末路。


 一晩中デイツーの攻撃を受け、なお死ななかった男、死ねなかった男は……いや、語るまい。




「あ、いまのでLV14になったよ~」


「結構直ぐだったのね。ドロップもこれで2個、やっと解放されるわ」


 討伐対象LV11、LVが13あればソロでも討伐可能、だが1体倒すまでの時間が通常の3倍であり、攻撃の質、副次効果を考えると…。冒険者たちが相手にしない理由としては十分だ。


「で、お爺ちゃん。これが何になるっていうの?」


 そう言って、デイツーのドロップ品を掲げる麗奈。


 拳ほどの大きさ、見た目半透明な赤い玉。


 使い道は判明しておらず、加工手段も無い。それどころかダンジョンから持ち出すと消えてしまう。


「無用の長物、そう見える物にこそ価値がある。そんなものだろ」


 納得がいかない麗奈に爺はそう答える。


「では行くとするか」


「何処に?」


「もちろん…」


 爺が向かった先、それはダンジョン入り口であった。


「帰るの~?」


「違うぞ、ま…リリそのドロップ品をそこの石台に置いてくれ」


 ランク2ダンジョン入り口に必ず存在する石、その数6個。ベンチとして座るにしては高く、食事用のテーブルとして利用にしている冒険者も居ると聞く。


 石台の左右に石柱があり、その並びを見ると、まるでダンジョンへ送り出す通路であり、帰還を迎える通路でもあった。


 帰還する冒険者たちは、このオブジェクトが見えると安心する。


 ここまでくればモンスターに襲われることが無い。そう、ここは安全エリアでもあった。


「置いたけど何も変化ないよ~」


「ふむ、リリはダメ、と。じゃララ置いてくれ」


 やれやれといった雰囲気をかもしだし、爺に言われた通り石台へアイテムを置く。




 その変化は突然だった。




 地面から光る魔方陣が現れ麗奈を包む。


「ちょ、なにこれ!」


:ララちゃん!

:おいおいどうなってんだ!

:ララちゃん平気!?


「なるほど、条件はLV15と。ララ、何か変化はないのか?」





『祈りを捧げなさい』




 何処からともなく突然聞こえてきた声、当然麗奈は慌てふためく。


「えっと、え?祈りを捧げなさいって何?」


「ほほ~演出か、では祈りを捧げよ!」


 偉そうに支持を出す爺。


「もう!」


 石台に向かい、片膝を付く。指を組み、目を閉じ祈りを捧げる。


『祈りを聞き届けました、新たな力を選択しなさい』


:なんだこりゃ!

:見た事ないぞ

:聞いた事も無いw


 コメント欄も大慌てだ。


「ララ、どうなっている?」


「選択画面が目の前にある…、職業選択みたい」


:職業!?

:あったんかい!

:魔法使い(自称)


 表示された選択画面を読み込む麗奈。


「そこにはどんな選択があるのか聞いても?」


「うん、戦士、モンク、シーフ、白の魔術師、黒の魔術師、赤の魔術師とあるわ。

 戦士、強靭な肉体であらゆる武器を使える。

 モンク、己の肉体で戦い気功をあやつる。

 シーフ、素早い動き、罠を見破る、遠隔攻撃も得意みたい。

 白の魔術師は回復と強化魔法が得意。

 黒は攻撃、赤はバフとデバフ魔法かな、簡単な説明になるけどそんな感じ」


「なるほどなるほど、それで、れ…ララは何になる何になりたい?」


「そんな事急に言われても決められないよ」


 突然の出来事、いきなり決めろと言われても決められない。


 この選択が今回限りなのか、複数回可能なのか、現状誰も知らないのだ。


「安心しろ、これは俺の感だが後で何とでもなる、何度でも選べる」


「どうしてそう言い切れるの?理由は?」


「ランク4ダンジョン、その在り方だな」


「もっと意味が解らなくなったんだけど…」


「おそらくだが、LV30、そこで新たな職業が発生する」


「え?」


:は?

:え?

:なんて?

:おいじじい!

:キャパオーバーですw


「取得条件は不明だが、何をどうすればどうなるか、そんな想像はできる」


「…聞いてもいい?」


「もちろん、例えば戦士をLV30にすることで上位職がでるとかだな、武器専門ならウェポンマスターなんか出てきそうだ。

 戦士に加え白の魔術師も30にするのはどうだ?単純に考えれば戦えて回復もできる聖騎士なんか出てきそうだ、複数の職業を上げる事で新たな職業が選択できる、であるならば何度でも選び直せる、そうは思わないか?」


:いわれてみれば

:白黒赤を30にして魔導を極めし者とか?w


「確定ではない、だが有り得ないとも言えない。

 そこでランク4ダンジョンだ。

 ランク4から複数のモンスターを相手どる事が多くなる、相手の役割が増えるなら、当然こちらも複数の役割が必要になる。そうは思わないか?」


:ジジイの言いたい事を理解した

:盾役、寝かせ役、足止め

:バフにデバフ

:なるほど

:ジジイすまんかった

:あなたが正しい


「それで、ララ、お前は何を選択する?」


:言い方がまるで魔王www

:命と引き換えかな?w


 尊大な態度にコメント欄が突っ込む。


「私は…、私ね、騎士になりたいの、皆とは言わない、大事な家族を守れる。そんな騎士になりたいの、だから私は戦士になる!」


 麗奈を言葉を聞き、にやりと笑う爺。


戦士だな!」


「うん!」





『戦士が選択されました、冒険者として、ここからが始まりです。ようこそダンジョンへ』





:うおおおおおおおおおおおおおお

:おおおおおお

:すげええええ

:って、ランク1はチュートリアルだった?w

:ランク2が本番だったかw


 沸き立つコメント欄。


「お爺ちゃん大変!!!」


 ステータス画面に表示された戦士という職業、嬉しそうに眺めていた麗奈が突然声を上げた。


「何だ!?」


「レベルがレベルが1に…」


:なっなんだってえええええええ!?

:え、マジで?

:どうなっとる?

:オイじじぃぃぃぃいい!!!!!


「なんだと!?ステータスは?ステータスはどうなっている!?」


「え?え~っと、うわ!?冒険者を始めた頃の2.5倍くらいあるよ!でもレベル1だよ!?」


「あ~なるほどな~…」


「え、何?何なにょ?」


 動揺しまくりの麗奈、語尾がおかしい事に気が付かない。


:にょ…

:たすかる

:じゃないwLV1ってwww


「落ち着けwいいか?LV1になりはしたがステータスは高い、そうするとどうなる?」


「LV1…」


「…爺ちゃん泣いちゃうぞ。でだ、今迄よりレベル上げ効率が上がる、そして、強化されたステータスでLVが上がればその割合はどうなる?

 戦士でLV16になったとき、ダンジョン後半のモンスターも単独で相手どれる、そう思わないか?」


「あ」


:あ

:あ

:あ

:ああああああああ


「お前たちはもっと冒険しろ、誰かの知識だけをあてにするな。

 冒険者とはなんだ?開拓し、新たな発見しろ。お前らが先駆けとなれ。

 試練の先に何かはあるだ。どうだ?これがお前らが勝てない理由、弱い理由だ。理解できたか?」


:っく

:納得だ…

:俺達は弱かった

:俺はモンクになるぞおおおおw

:俺はシーフだ!

:私は白の魔術師よw


「アタシは黒の魔術師になるぅぅぅぅぅうううう、今すぐLV15にしてえええええええ」


 放心状態から復活した舞奈が叫び出した。


「今からレベル上げするのぉぉぉ、15になるのぉぉぉぉ、おねぇぇぇえちゃんだけずるいいいいいい」


:幼児かな?

:幼児退行

:うはw

:気持ちはわかるww


「ええい!可愛いけどうるさいわ可愛いけど、れ…ララ、レベル上げは次回でいいか?」


「仕方ないなぁ」


「やったー!黒♪黒♪黒のまじゅちゅし♪」


「ってことで配信はここまでだな、チャンネル名を伏せて拡散よろしくw」


:いや伏せるんかいw

:拡散はもちろんするぞw

;独占欲かなw

:名声はいらんの?


「いらん!下手に有名になって孫に何かあったら」


:あったら?

:??


「ワシ、人類滅ぼすわw」


:Oh…

:こわw

:やりかねない…w


「それじゃ、まったね~♪」


「またお会いしましょう、では!」







 とはいえ視聴していたのは僅か200人ほど、情報が広まるまでに少々時間が掛かる事となる。



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