第12話 お前らが弱い理由 2

「全然LV上がらないね~」


「そうだな」


 前方では武器を振るい、一瞬でモンスターを倒すナデシコがいた。


「こうなると方針を変えないとかな」


 考えてみれば、爺のLVは全く上がっていない。考えられることは1つ、対象モンスターとLVが離れすぎていると経験値が入らい事だ。


 現在、爺と舞奈はPTを組んでいる状態。PTメンバーに高LV者がいると経験値が入らないのだろう。


「う~ん、俺って上位互換者のLVカンストだからなぁ」


 爺はすべての職業LVが100であり、ムイの上位互換である案内人に手を加えられている。

 

 現在設定しているジョブは道化の人形使い、当然LV100である。


 おまけにマスタークラスまで本人も装備も強化は済んでいため、その能力はLV135相当なのだ。


 ナデシコも最大まで強化済み、交差すればモンスターは塵となる。


「よし、方針転換しよう。舞奈ちょっと手を出せ」


「ん?こう」


 素直に舞奈が手を出せば、爺はその手を握る。




「”同調リンク”」




 爺がそう呟くと、ナデシコが此方へ顔を向けて行動で抗議していた。


「あ~突然だったな、すまんすまん、だが問題はないだろう?」


「(ガチャン)」


 一つ頷きを返したナデシコ、その場で数回素振りを繰り返す。確認を済ませると、少し先にいたモンスター目掛け飛び込んでいく。


 一閃、モンスターは塵となる。


「おお~流石ナデシコ」


「あれ?動きが遅くなったような気がするんだけど」


「まあ、気にするな」


 数度、モンスターとの戦闘を繰り返したナデシコが戻ってくる。

 

「あ!LVがあがったよ~!」


「おめでとう」


「ありがと~って、どうなってるの?さっきおじじがやった事関係あるの?」


「説明はできるが理解は出来んぞ、聞くだけ無駄だからそんなものだと思っておけ」


「むぅ~」


 爺がさっき取った行動はレベルの同調であった。


 高位LVが下位LV者と遊ぶ際、開きが有り過ぎて攻略がつまらない、そんな意見から運営が生み出したシステムだ。


「ちょっと試してみるか、ナデシコ挑発」


 少しは慣れた場所にいた人型モンスターへナデシコがスキルを発動する、するとモンスターは脇目も振らずナデシコへと突進を開始。


「反撃はするな、よっと」


 爺の意志をくみ取ったナデシコは、指示の途中で動き出しモンスターの攻撃を盾で受ける。その頭上、ジャンプした爺は空中で体をひねるとそのまま蹴りを放つ。


「一撃か…」


 やはり何かおかしい。


 リンク状態、LVは対等なはずなのに相手が弱すぎる。爺はそう感じていた。もちろんこれには理由があるのだが、案内人は敢えて説明していなかった。


「おじじ強~い」


 爺の洗練された動き、舞奈は思わずそう声に出していた。


「うむ、だがこれだと舞奈の練習にならないな。やはり手は出さない事にするよ」


「え~」


「そう言うな、楽してLVをあげても良いことは無いぞ。いざという時に動けないでは本末転倒だろ」


「うん、そうだね」


「モンスターの注意はナデシコが引き受ける。安心して殴り飛ばせって、ドロップがあるな」


「あ!魔法スクロール!いいな~」


「え、これ魔法関係のドロップなのか」


 拾い上げた巻物を見つめ考え込む爺、彼はモンスターのドロップ品に興味が無かった、なにせ金は持っている、生涯資金は余裕である。


「欲しいならやる」


「ありがとう」


 嬉しそうに受け取ると、舞奈はその場で巻物を開いた。


 光の粒子へと姿を変えた巻物は、そのまま舞奈の体内へと消えていく。


「よし!これで魔法使いに一歩近づいたよ~」


「え、それで魔法使いとやれになれるのか?」


「うん、成るというか名乗れるんだよ」


「あ~…おめでとう」


 ダンジョンで手に入るスクロール、使えば誰でも魔法を覚えることが出来る。だがそれで魔法使いと呼んでいいのか?爺はそこに疑問を持っていた。


 剣を持って戦えば剣士、魔法主体で戦えば魔法使い、それは冒険者たちが言っているだけ。


 舞奈は自分のステータス画面を開き爺へと説明している。


(これも不思議現象の一つだな)


 ステータス画面、自分の意志で確認可能な画面で在り、本来他者が見る事はできない。開示するかどうかは、ステータスの持ち主のみ決定できる。


 PTの設定も不思議だ。


 ダンジョン内でのみ設定が可能で、リーダーとなる人物に触れ、「加入」と言えばいい。それでPTに参加、加入した事となる。上限は6人まで。


 爺がやっていたゲーム世界と異なるシステム。


(ま、それも当然か。それに…)


「全く同じでは楽しみも無いからな」


「おじじ~、次行こう、次!」


 少し考え込んでいた爺は頭を切り替える。


「どうだ、この調子ならLV15まで行けるんじゃないか」


「今、すごく楽しいからなんだっていいよ~」


 孫と2人、こんな冒険も悪くない。








〇●〇●〇●〇●〇




 

 



「…はい、それでは配信はじめま~す。こんにちはリリで~す」


「えーっと、はい、こんにちはララです」


:こんにちは

:こんちは

:こんにちは

:こんこん

:って、珍しいねこんな時間に

:んだんだ、しかもライブ配信なんて

:だよね~動画じゃないなんて初では

:てか何でリリちゃんまでいるw

:中学卒業=進路確定

:ダンジョン機構も卒業間近だと緩いぞww

:なるほどw

:で、その仮面ってなに身バレ防止用?


 ステータス画面の横、配信開始と同時に流れたコメントを確認する二人。


 ダンジョン攻略配信を生業とする人たちが良く利用する機能だが、これについても原理は解っていない。

 ダンジョン内で配信しようとすると、突然現れる謎のボタン。「Yes」を押すだけで簡単に配信サイトとリンクしてくれる。


 ゴールド並みに意味不明な機能だ。


 何故か出来る、それだけである。それで納得するしかないのだ。


「えっと、この仮面についてですが。お爺ちゃんこれって何?」


:じじいいるのかw

:カメラマン?

:追尾式カメラは流石に値段がw


「追尾式カメラだよ~、おじじはカメラに写ってないだけ~」


:あ、でてきた

:爺も仮面だなw


「おいすぅ~はじめましての方ははじめまして、そうでない方もおいすぅ~」


:ジジイ前回音声のみやんw

:全員初めましてじゃいw


 日曜の昼間、視聴者の数は193人を指していた。


「仮面については当然身バレ防止なんだが、他にも意味はある」


:というと?

:なんぞ?


「貴様らに孫の可愛い素顔を見せるつもりは無い!」


:お、おう

:いきなりケンカか?

:言ってくれるじゃないかw


「おう、何だ?文句があるなら聞くぞ?やるか?やるんか?」


「…おじじステイ」


「ワン」


 配信慣れしていない爺は速攻で視聴者に噛みつくが、舞奈に窘められる。


:ケンカっぱやいなw

:爺は短気

:あおられ耐性0w


「普段3Dアバターだから、身バレ防止みたいです。それで、お爺ちゃん今日は何でこんな場所に来たの?」


:こんな場所=ダンジョン

:リリちゃんがいるからランク1くらい?

:いや、あの特徴的なオブジェクトは2でよく見る

:2でよく× 2に必ずある〇

:え~ランク2いけるんかw


「そうなの、ここってランク2ダンジョンなのよ。なんでリリが入れるかっていうと」


「がんばったよ~」


「だそうです…」


:ランク1クリアおめw

:おめでとうw

:今レベルいくつなの?

:1クリできるまで育ったのね


「うん、ナデちゃんと一緒にがんばったの~LVはなんと13で~す」


:ナデちゃん?

:リアル友達かな

:詮索禁止で

:13ってすごくね?w


「すごいよね、私なんて先日15に成ったばかりなのに…」


:落ち込まないで

:んだんだ

:妹が冒険者に向いてただけw


「ららねーちゃんは平日学校で、ダンジョン探索も土日のみでしょ。少ない時間の中で15まで上げたのはすごいと思うよ。アタシはこの1週間朝から晩までおじじとダンジョンに籠ってたから」


:なるほど

:15は十分凄い

:んだね

:問題は16からだしな

:15の境界線だな

:ソロとPTの境目


「境界線…、そうだねここから相手の強さが跳ね上がるから。まともに6人PTを組めない私だと厳しいのよね」


:そうなんだよ

:がんばればソロでも20までいける

:効率ダダ下がりやん

:安全は大事


 肩を落とし、そう語る麗奈。慰めるようにコメントが流れていく。


「そう、そこだ!そこなんだ、どうして強いんだ?」


:なんだじじい

:何がそこなんだ?

:16以降はモンスターが強くなる

:一般常識ですねw


「はっはっは、常識だと?それは誰が決めた?アレがそう定めたのか?」


:いやいや

:なにいってんだコノジジイ


「なあお前ら、ランク2ダンジョンに入って気が付いた事はなかったか?」


:只のダンジョンだろ

:そうそう


「さっきコメントしてたじゃないか。、同じ物があると」


:そういう作りだろ

:アレの発想力が無かっただけではw


「ふぅー、だからお前らは弱いんだ。

 まったく、疑問を放置して何が冒険者だ。いいか、ただダンジョンをクリアしたいだけならお前らは冒険者ではない」


:わー

:うぜー

:じじい消えて

:帰れw


「やれやれ、お前らは若いんだもっと頭を使えよ。先人が切り開いた道が正だとなぜ思った。それが全てだとなぜ考えた」


:説教いらんw

:まわりくどいw

:はっきり言え、はっきり


「モンスターが強くなった、それで人類は何をした?攻略人数を増やし、LVを上げた、それで攻略は出来た。出来ていた。

 でも違うだろ、違うと思わないか?

 帯なのに何故相手だけが強くなる?

 LVを上げて物理で殴る、それが通じたのはランク4まで、ランク5ダンジョンを人類は攻略できなかった」


「お爺ちゃん」


「いいか、お前達もだ。人のいう事が全てではない」


 孫に対しても、鋭い視線を向ける爺。


「16から相手が強くなる、ならば。そうは考えないか?俺はそう考えた。アレは確かに理不尽かもしれん、だがそこまで極端な理不尽を要求してこないと思っておる。

 であるならば、ダンジョンの在り方にも何か理由があるはずだ。

 で、でだ、俺はお前たち聞きたい事がある」


:いいだろう

:そこまで言うなら答えてやろう

:ふははは、聞くが良いw


「ランク2ダンジョン前半で、もっとも効率が悪く、質の悪いモンスター、ドロップ品がしょっぱいモンスターを教えてくれ」







:……なんて?

:なんじゃそりゃw



 




 

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