第11話 お前らが弱い理由

「って事で、今日は舞奈まなにちと協力して欲しい」


「脈絡ないよ~、帰って来たと思ったら何なのかなぁ~」


 先週土曜の配信後、世界は驚愕に包まれた。


 氾濫を起こしていたモンスター達が突然消えたのだ。


 氾濫期間が終わっただけでは?


 人々はそう考えたが、消えたモンスター達の中には、発生当日、二日後の氾濫も含まれていた。

 ダンジョン機構はそのネットワークを駆使し、世界中の氾濫状況を確認した。


 そして、先日世界中からモンスターが消えた事、ランク5ダンジョンがクリアされた事を発表した。


「今朝もニュースはその話題で持ちきりだよ~」


「氾濫が消えたのなら、それで良いじゃないか」


「そうなんだけど…、誰がダンジョンをクリアしたんだろう」


 配信翌日の日曜午前中、突然現れた爺。自分達のが住む街から、ランク5ダンジョンまでの距離を考えれば、辿り着けない時間ではない。


 もっとも、それはダンジョンゲートの在る街からであり、ボスモンスターが居る筈のダンジョン最奥からではない。


 どう逆算しても、爺がボスを倒し、自分たちの住む場所へ来ることは不可能であった。


 ありえない時間に現れた爺を見た麗奈、SNSに即座に投稿した。


 ”昨夜配信を見て下さった視聴者の方々へ

 今朝、祖父が自宅へ来たことで、疑惑は核心となりました

 攻略が事実であれば、時間的に帰宅はまだまだ先になるはずです

 祖父の言動でご迷惑を掛け、申し訳ございません

 祖父には良く言って聞かせます。

 今後も三姉妹チャンネルをよろしくお願いします。”


 投稿を見た視聴者達は何処か安堵した。視聴後すぐ、日本各地でモンスターが消えたと速報が入ったからだ。

 視聴後の時点では、日本の氾濫情報しかなく、各国でどうなっているのか確認は出来ていなかった。

 夜のニュース番組は、日本各地で消えたモンスター達について、挙ってこの話題を持ち上げる。


 専門家たちは言う。


「確定ではない、ですがランク4ダンジョンがクリアされた、あの時と同じ現象」であると。


 期待と不安の日々を送っていた人々。数日後、ダンジョン機構からダンジョンクリアの発表があると、5年の安息を手に入れた事に安堵した。


 もっとも問題はそれからである、アメリカと中国がその関与を否定したからだ。


 では何処の誰がクリアしたのか?


 ニュースはその話題一色である。


 普通に考えれば、三姉妹チャンネルの視聴者が騒ぎそうなのだが、麗奈の投稿が関与を否定する。


 常識的に考えれば不可能なのだ。


「で、そんな中おじじに拉致されダンジョンに来たってわけで」


「何を言ってる」


「こっちの話」


「まあいいか。で確認しておくぞ、ステータスは持っている。間違いないのか?」


「うん、アタシは麗奈姉ちゃんと違って夏休みのダンジョン講習を受けたからねぇ、LVも2になってるよ」


「麗奈は講習を受けなかったのか」


「うん、当初麗奈姉ちゃんは冒険者になる気は無かったみたい。アタシもだけどね」


 数か月前に起こった出来事。


 その出来事を切っ掛けに2人は冒険者を目指す事となる。


「麗奈のLVは確か14だったか」


「今は15になってるよ」


「ふむ、それならだな」


「ん?15になにかあるの?」


「っふっふっふ、それをこれから検証するんだよ」

 

 腕を組み、そう答える爺。舞奈は爺の行動が理解できない、当然反論した。


「いや、これからなんか~い!」


「うむ、これからである。それでだ、舞奈君には今週中にLV15になってもらう」


「ムリデス」


「今週中にLV15になってもらう」


「聞けや、じじい」


 半眼で爺を睨みつける舞奈。


「なに、どうせ暇だろ?」


「受験生!アタシ受験生!」


「本命の私学は合格してるんだ。併願した県立高校はおまけだろ?暇じゃないか」


 舞奈の本命とする私学、そこには冒険者学級がある。


 冒険者を目指す舞奈は当然受験した、のだが。

 

「いや、でも…、お金掛かるし」


 そう、金銭面で躊躇っていた。


 姉の麗奈は県立高校へと進学している、冒険者を目指したのは進学後だ。


 ダンジョン講習、中学3年生を対象にし夏休みに行われる講習だ。氾濫から身を守るため、そんな理由で国が行っている。参加の有無は希望者のみ。


 内容はモンスターを倒しステータスを獲得する事。


 麗奈はその講習を受けなかった、倒すという暴力行為に忌避感を持っていたのだ。


 そのため、ステータス獲得の時点で躓いた。


 仲間を募ってダンジョンへ向かう事も考えたが、安全面を考えると踏み出せない。周りに同じ考えの友人も居なかった。

 そうなると、ダンジョン機構が主催する一般参加の講習しか無いのだが、講習費用が掛かる。


 生真面目な麗奈。


 講習費を得るため、家族に負担を掛けないため、バイトから始めた。 


 普通の高校に進学した麗奈のLV上げペースはかなり遅いのだ。


「麗奈には悪い事をしたと思っている、俺がもう少し早く戻って居れば…」


「仕方ないよ、おじじは何も知らなかったんでしょ」


「過去を悔いても仕方ない、これから思う存分甘やかすから安心しろ。でだ、舞奈の進学費用の心配もいらないぞ。爺ちゃんこう見えて金持ちなんだわ」


「数年間放浪していたおじじが言っても、使い切って帰って来たとしか思えないんだけど」


 孫の視線が冷たい。


 爺は放浪していた、そうなっている。ごく潰しにしか見えないのは仕方ない。


「ま、理由については追々語るとして、まずはLV上げをするぞ」


「だから無理だってばぁ~」


「無理?何故?」


「おじじ、現実を見てよ、ランク1ダンジョンを安全にクリアするのに必要な人数はLV10が最低でも3人だよ。爺と孫1人でクリアできないって。たとえランク1を攻略できたとしても、効率よくLVを15にするにはランク2ダンジョンの深部に近づく必要があるんだよ。

 でも、ランク2の後半からモンスターの強さが跳ね上がる、だからPTパーティーが推奨されているんだよ、2人じゃ絶対無理!」


 孫の真剣な問いかけに爺は答える。


「俺もいろいろダンジョンについて調べたからしっている。だがそれっておかしくないか?」


「何が?」


なのに、何故そこまで手こずる」


「…え?同じ…え?」


 戸惑う舞奈へ爺はさらに問いかける。


「舞奈、ダンジョンボスへの挑戦条件を言ってごらん」


「え~っと、ランク1ならLV6から、2ならLV16以上だったよね」


「そう、ちなみにランク3は26以上だ。なあ舞奈、ダンジョン攻略に必要な人数とは何だ?どうして6人も必要だと思う」


「みんながそう言ってるから」


「そう、その通り!では何故ランク4をクリアするのにあんな大部隊が必要になったんだ?

 何かが足りなかったからではないのか?

 ダンジョンの歴史は浅い、過去の人物が言った事が全てではない。

 理不尽すぎる試練は試練ではない、さすがのムイでもそこまではしないと思っている」


「ムイって何?」


 拳を握り、熱弁する爺。舞奈はサラッと受け流し気になった部分を聞く。


「俺が告げる者に付けた呼び名だな。みんな好き勝手呼んでいるんだ、別に構わんだろ」


「別にいいけど…、いいんだけれど。もう!おじじが何を言いたいのかアタシにはさっぱり解らない、解らないけど、やるんでしょ」


「やる。でもって今週末、麗奈を連れてダンク2ダンジョンでライブ配信をするぞ」


「マジでいってる?」


「おう、必要な部分は動画で残すぞ」


「あぁ~、とにかくおじじとLV上げすればいいんだよね?」


 爺の熱意に促され、そう覚悟を決めた舞奈。


「あ、ちと違うぞ」


「ん?」


「俺は戦わないぞ?」


「はぁ!?それじゃあアタシ1人でやれっていってるの!?」


 爺、参戦せず。舞奈が思わず叫ぶには十分な言葉である。


「あぁ~すまんすまん、これにも理由があるんだわ」


「どんな理由かしらないけど、孫一人に戦わせるってどうなのさ!」


「いいや、一人ではない。パートナーは用意してある」


「パートナーって…、ここにはアタシたちしか居ませんが?」


 思わず他人行儀な言葉になる舞奈。


「今から呼ぶから、少し待っていなさい」


「今からって、どんだけ待たされるのよ」


 舞奈の呟きを無視し、数歩あるき距離を置く。そして、







「ナデシコ戦闘モード起動召喚!」






 目の前に現れた2つの魔方陣。地面と空中、上下に現れた魔方陣が円柱を作り出す、円柱に薄っすらと人型の何かが浮かび上がる。

 

 突然叫んだ爺に驚いた舞奈は、その光景を目にしてさらに驚愕する。


「人…形?」


 ガチャガチャと音を鳴らし、敬礼をする。


 鎧と盾、槍を携えた人形、完全武装したナデシコが立って居た。




















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