第10話 案内人ははっちゃけた
「すでに創ってしまったのなら仕方ない、現実世界には影響ないんだろ?」
「うん、影響はないよ」
「並行世界ってことはある意味異世界になるのかな~」
「言い方としてはそれで合ってるね。でも違和感は感じないでしょ?」
案内人は含みを持たせ、爺に言って来た。
「ん?」
「ここが、その並行世界さw」
「いや、草も生えんぞ」
すでにその世界へと案内された爺、頭が痛くなる案件だ。フと爺は気になる事が頭をよぎる。
「ちなみに、ちなみにだが、この世界の住人、生命はどうなってるんだ…」
「う~ん、今のところ知的生命体は存在してないよ。君のデータを元に、モンスターとか小動物なんかは存在しているよ。
あ、モンスターの分布は幻想世界そのままだから、初期街周辺は比較的安全だね」
「ちょっと待て、街って言ったか?言ったのか!」
「当然創ったよ、もっとも住人はゼロでもクエストは受けられるんだ」
案内人達は、当初現住人をつくる事を検討していた。だが、流石の案内人達でも知的生命体の創造には限界があった。
真っ先に想像されたのが、生命体でなないモンスター達。ゲームの設定では、その身体は魔素の集合体である。
幻想世界のモンスター、人型は人族を嫌悪し、動物型等は自然破壊を主としている設定だ。
その在り方は、どことなくダンジョンと似ている。
「比較的楽だったんだよ。動物や植物達に関しては、この惑星の生体遺伝子を利用したから、普通に食べられるよ。でもね~」
知的生命体については話が違う。地球人を元に、新たな人類をつくる事も考えたらしい。
「でもね~、この惑星の住人って、何て言ったらいいのかな~野蛮?暴力的?それが普通の生命体より強いんだ」
地球人の遺伝子利用は何が起こるか解らない。それならば創らない方がマシだと判断した。
「利用しても、安定するまでに1000年は必要なんだけどね。新たな人類も、2万年あれば出来そうだけど」
生命を誕生させている時点で、爺には頭の痛い案件だが、そこは彼らにとっての普通らしい。もう何も言うまい。
「ちなみにムー的な大陸だけど、緯度的に丁度良かったから、ジュラジュラした古代生物の楽園になってるからw」
もう、何も言うまい。言わないぞ。
再現された街に住人は存在しない、元々あったクエストについては。
「石造りの街に、3Dタッチパネルとか…無いわ~~」
「パネルに触ってYesNo、簡単でいいじゃない」
ちなみにクエスト報酬も出るらしい。
「この世界で手に入れた
「なんて?」
「Gは共通、OK?」
「まったくわからん…」
案内人にそう聞けば、理由は簡単、仕組みは全く理解できない。
「ムイがダンジョンを創ろうとしてたから、少し干渉したんだ。こうちょいちょいってね」
「いやいやいや」
「理由はどうあれ、君も助かるだろ。先立つものの心配をしなくて済む」
「ん?」
「フッフッフ、君が幻想世界で蓄えた貯蓄はどれ位だい?」
「24億7千万Gくらい…だったかな」
「今の為替相場は1G=2.5$、1$150円で、日本円だと約9262億円、君はそれだけの資産を、向こうの世界で持っている計算かなw」
「Oh…って、もしかして個人の特定も」
「僕達だね、ムイの思考にちょいちょいっと」
「その下りはもうやった」
「むぅ、君の退職金と年金、預金額総額を遥かに超えてるんだ、もう少し喜んでおくれよ」
理解の範疇を超えた金額を提示され、喜べと言われても、一般人には到底無理。
「相続税とか、国が喜びそうだな」
「それならこっちの世界に連れて来て譲渡すればいいよ、こっちの出来事は向こうの世界に繁栄しない。逆もまた然りでしょw」
無言になる爺。
ゆっくり手を差し出し、案内人と握手を交わす。
「伝えたい事はそれでいいのか?本題があるなら本題をを頼む」
「うん、そうだね。君はこれからもダンジョンを攻略していくのかい?」
「今のところ、その予定はないかなぁ。力加減を覚えたくてダンジョンに行ったくらい」
「ランク5ダンジョンを攻略しない、と」
地球の現状を改めて知ったばかりだ。
「いろいろ気になる事もある、話せるならばムイとも話をしてみたい。その為に攻略が必要であれば攻略はする、そんなところか」
「新しい冒険に興味は無いと?」
「めっちゃ興味津々」
無言で見つめ合う2人。
「はぁ~、力加減についてはそぐにでも解消できるよ」
「そうなのか?」
「うん、ジョブ設定をすればいいだけさ」
案内人の話では、今、爺はノージョブ状態である。
ジョブを設定する事で力のバランスが取れ、本来の力を発揮するという。
「孫を肉片にする心配は無さそうで良かったわ」
「……。で、ジョブ設定を進める理由はもう一つ在るんだ」
「ほう?」
「このまま行くとランク7ダンジョンからは違ってくる」
ランク6、おそらくLV60~70のパーティが対応するであろう、そう予測されるダンジョンだ。
「君のLVはMAXの100、でもジョブ設定をしないと、魔法どころかアビリティも使えないんだ。
今のままでも十分戦えるよ、おそらくランク9までは進めるだろうね。素のステータスだけも、十分君の能力は高い。
でもケガは増えていく。
ゲーム内のアバターとは違う、生身の肉体であれば、当然体力も減るしケガもする、睡眠や食事だって必要さ」
「当然そうなるか」
「ダンジョンに入らず、モンスターと戦わない。そんな生活するのであれば、僕たちは干渉しないつもりだったんだ。
でも君は選択した。トリガーを自分の意志で引いたんだ」
孫がモンスターを相手に戦っていた。戦う理由は十分である。
「君が戦うと決めたのなら、僕達は当然協力する。
なにせ僕達は君を復活させるために起動したんだ。もう運命共同体だよね」
「……(いや、好奇心に負けたってさっき言ってた)」
「もっともあまり心配はしていないんだ。
君があの世界で手に入れた力は相当だよ、再現する僕達も相当ソースを使っているんだ。
幻想世界、20あるジョブのマスターで在り、1つのジョブを突き詰めたレジェンダリー、伝説級の武器防具を装備した君であれば、ランク9ですら難なく突破できるだろうね」
幻想世界に存在する22の職業、LV100が到達点である。
ユーザーのほとんどがLV100になった頃、飽きさせない手段として公式が発表しのはジョブマスターへの道であった。
LVは100のまま、己を強化していく。それによりLV115相当まで強化できるシステムだ。
合わせて、ジョブ専用装備と、専用の伝説武器を発表。装備には強化要素があり、強化分だけステータスを上げる事ができる。
ユーザー達はこの情報に歓喜した。
その能力、実質LV135。
バージョンアップ後、ユーザー達はこぞってマスタージョブを目指す。
同時進行で伝説武器を造るための素材集め、専用防具を取得するためのクエストに励む。
すべてを揃えるまでに、最低3年は掛かるだろう。
運営はそう判断していたのだが、当時のユーザー達の熱は高かった。
1年後、最初の解放者が現れる事となる。
だが、この時を境にユーザー離れも起こっていた。
仕事も、家庭もあるユーザーにとって、ゲームに3年を費やす事が出来ないのだ。
急激に減少するユーザー。公式は収集素材とクエストの緩和を発表するのだが、すでに離れてしまったユーザーは帰ってこなかった。
残ったのはコアなヘビーユーザー達。
廃人、そう呼ばれるほどゲームに熱中する者達を満足させる手段として、後期のバージョンアップで誕生したのが『レジェンダリー』だ。
言葉にすれば条件は簡単、すべてのジョブをマスターにする。それだけである。
問題は時間であった。1つのジョブをマスターにするため、日中仕事や学校に行くユーザーだと、毎日ログインしてもおよそ2か月は掛かってしまう。
こちらも単純計算で2年近く掛かるのだ。
解放できるレジェンドジョブは1つのみ。その上で、レジェンダリー専用経験値を溜めなければならない。
『幻想世界のプレイヤーはマゾ。』
そう呼ばれるほどに過酷な内容であったが、残ったユーザー達にとっては関係なかった。
最高到達点、実質LV150。
コアなユーザー達は、幻想世界での頂点を目指す。
「言って良い?」
「何だ」
「プレイヤーっていかれてるの?wwww」
「っく、否定できん」
20年以上、そんな世界で過ごした爺。十分変t…ヘビーユーザーである。
「あ、ジョブ変更はホームへ戻らなくても出来るよう変更したよ」
「あ、助かる」
「最初の戦闘時みたいに、架空キーボードを使わなくても、口頭で出来るように全部変更したよ」
「口頭…」
「メインジョブ!セット1!サポートジョブ!セット2!、装備セット20!って感じw
あ、ジョブ番号は幻想世界のままだよ、装備呼び出しは設定したマクロ番号ねw」
「嫌がらせか!厨二くせぇー!」
「いいじゃないかw80代の中二病w」
「絶対嫌がらせだろ!」
「あ、冒険者のカバンも使えるから、荷物の持ち運びは楽になるかもね」
「ソレハ…アリガトウゴザイマス」
冒険者のカバン、1アイテム99個でワンセット、800種まで保管可能。いわゆるアイテムボックスである。
「あ、その他の注意事項とか説明しとくよ。それと…… 」
「それじゃ、そろそろ行くわ」
「うん、『良い冒険者ライフを』」
気が付けばダンジョン支部の外に居た。
時刻は夜明け間近。空はうっすらと紫色になっている。
「ふ~さて、これからどうするかな~……あ!」
爺は思い出した。
その出来事を。
「戦闘BGMって、どうすりゃ消えるんだ」
ダンジョン攻略中も、戦闘中鳴り響いていたBGMについて。
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