14 デパートと旅立ち

 50万エイダもの大金を手に入れた私は早速とばかりに、街で一番大きな商業施設であるヤーントルクデパートを訪れた。


 冒険者御用達のポーションや毒消し、麻痺対策の薬草などなど必要なものを一斉に買い込む。

 そしておしゃれ装備にまで手を出そうかと、何着か試着した。


 南の国原産という黄色のドレスに、赤色のレースドレス。そして青のチャイナドレスなど何を着ても店員が「お似合いです……!」と言うので、何が良いのかさっぱりわからなくなってしまい、結局、この国――共和国ライエスタ産の白のワンピースを購入した。

 無難オブ無難なチョイスである。南の国産のそれと違い、少しだけお安めの値段だったのも決め手だった。


 とは言え、冒険で着るわけにもいかないので、暫くの間はインベントリの肥やしになってしまうのが惜しかった。しかし、ゲームだというのに宿屋やフィッティングルームでなければ衣装変更が基本的に出来ないというのは如何なものだろうか?

 2番めの現実を目指すからにはそういう細かいところに配慮が必要だったりするのだろうか……。その場でぱっと着替えられたりしたほうが便利に思うけれど……。


「他のドレスを着た写真もスクリーンショットは撮ったので、まぁ良いでしょう……!」


 あとでスマホにデータ転送しよう。

 αテストでの得た情報は不特定多数の第三者に共有してはいけない規約なので、これらスクリーンショットが日の目を見る機会はない。ただの思い出でしかないがそれでもデータが欲しかった。


 デパートでの買い物を終えた私は、ついに最初の街であるここヤーントルクを出て、次の街へ向かうことを決めた。


 ヤーントルクの街を出て1時間ほど南西へと進むと、森の出口があった。

 途中ワッシーや一角兎を何匹か狩ることになりレベルは14へと上がっていた。

 森の出口から先には荒野が広がっていて、マップを開くと南に薄っすらと街が見える。


 ロードランド荒野……推奨レベル12、推奨PT人数1人


 私は荒野へと足を踏み入れた。

 暫く進むと初めてのエンカウント。


 敵はケラケラ蛇という、ケラケラと言う笑い声を響かせながら襲ってくる蛇だった。

 毒消し草はあったので一度は試しにとばかりに攻撃を食らってみようかとも思ったのだが、しかし猛毒で解毒できなかった場合を考えて、慎重にすべての攻撃を避けることにした。


 幸いなことに私の鋼鉄の剣の攻撃力はこの荒野でも高い部類に入るらしく、蛇の首元を狙い一撃で仕留めることに成功。

 とにかく急所を狙うとクリティカルで思っているよりも高いダメージを与えられるのがツヴァイトレアルの仕様のようだ。これからも急所を意識して戦おうと考え、傍らにあった大きな岩を通り過ぎようとしたところ、


「ウグァー!」


 という声と共にゴーレムが立ち上がった。

 どうやら岩に擬態していたらしい。

 獲物を見つけたとばかりに立ち上がったゴーレムには、荒野ゴーレムという名が付けられていてレベル14と私と同レベルだった。


 私はゴーレムの弱点が分からなかったので、慎重を期してまずは気配遮断で様子を窺うことに決めた。


 荒野ゴーレムは唐突に私の気配が消えたことできょろきょろと辺りを見回している。

 どうやら対ハイドの目は持っていないらしい。いずれはそういうモンスターにも遭遇することになるかもしれないからいくら気配遮断しているからとはいえ、今後も油断は禁物だ。


「あの胸の中心にある核のようなものが弱点でしょうか……? もしくは両目というところですね」


 私は荒野ゴーレムの挙動を観察し終え、弱点を割り出した。まずは気配遮断を解いて核に強力な一撃を加える。


「グララララァ!」


 という声と共に荒野ゴーレムが大きく怯んだ。

 やはり定番のようにゴーレムの胸の中心にある核が弱点らしい。

 核にはヒビが入った。核を狙えばあと一撃で倒せるだろう。

 しかし私はもう一つの弱点かもしれないゴーレムの両眼を狙うことに決めた。

 核が露出している荒野ゴーレムばかりではないかもしれないからだ。


「ワッシーや一角兎にも多少の個体差がありましたからね……!」


 言いつつ、私は荒野ゴーレムの抱え込むような攻撃を避け、目を狙い突きを繰り出した。

 突きは見事にゴーレムの右目を破壊し、荒野ゴーレムが倒れた。胸の中心にあった核がパキーンと弾け飛び、お馴染みのシュパーンというエフェクトで粒子となって消えゆく。


「ドロップは『荒野ゴーレムの割れた核』ですか……。どうやらこれが主な収入源になりそうですね。

 

 他に『ケラケラ蛇の鱗』もドロップしているが、こちらはおそらくワッシーの羽根と同じ類のアイテムだろう。ヤーントルクのデパートにはワッシーの羽根外套も売ってはいたので、それと同様ケラケラ蛇の鱗も換金兼製作アイテムになるはずだ。


 その後、私はそれっぽい岩がある度にわざと近くを通って荒野ゴーレムを狩ることにした。理由は経験値が良かったからだ。数体の荒野ゴーレムを狩り、レベルは15へとアップした頃、私は初めて、荒野ゴーレムの両眼を潰して核は無傷なまま勝利することに成功した。

 するとドロップアイテムに変化があった。


 『荒野ゴーレムの核』……荒野ゴーレムの核。魔導具などにも使われる。


「これは……両眼を潰すことに成功した場合、核が完品で手に入るのですね……!」


 思いもよらない発見に目を輝かせる私。

 その後も3匹の荒野ゴーレムを時間はかかったが核無傷で倒しきり、荒野ゴーレムの核を3つ手に入れた。


 そうこうしていると、南に街が見えた。

 2番めの街、その名をコイシュテンというらしい。

 ヤーントルクには及ばないが、そこそこ大きな街だ。


 街の入口はヤーントルクと違って門番などはいないようで、ただ木の柵が入り口部分だけ空いているのみだった。

 私はドロップを換金する為、街の冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドは街の中心街にあり、すぐに見つかった。


「こんにちは。買い取りをお願いします」

「はーい。ただいま大変混み合っておりまして、1時間待ちとなっていますがそれでもよろしいですか?」


 どうやら大多数のプレイヤーが既にこの第二の街コイシュテンを訪れていて混み合っているようだ。


「はい……その間、出掛けていても?」

「はい、構いませんよ」


 強制ログアウトの時間に間に合わないだろうからそう聞くと、問題ないらしい。

 ゲーム内時間はゲームサービス時間外でも流れているということだろう。

 今度からはギリギリまで狩りをして、それから冒険者ギルドへ駆け込むことに決めた。


 私は買い取りにドロップを預けると、まだ少し休憩まで時間があったので依頼掲示板を流し見ることにした。

 今のところ依頼はやったことがないからだ。どんな依頼があるのだろうか。


・Fランク依頼……ヤーントルクまでの荷物の運搬

・Fランク依頼……荒野草の採集

・Eランク依頼……西の洞窟でのモンスター掃討

・Eランク依頼……月齢草の採集


 依頼掲示板にはこの4つが張り出されていた。

 どれも簡単そうな依頼に見える。月齢草の採集は夜に行われる採集依頼なのだろう。


「夜にしか花を咲かせない野草だったりするのでしょうか?」


 ゲームでは定番の夜のみ採集可能依頼にワクワクする私。

 今夜受けてみようと考えつつ、私は冒険者ギルドを出た。


 次は鍛冶屋か道具屋を探そう。

 そう思って街を歩き始めた時だった。


「セージさん!」


 背後から声をかけられ、振り向くと一枚の黒布を身に纏ったプレイヤー、シノブさんがいた。


「シノブさん! こちらへ来られていたのですね」

「はい。無事に1時間ほど前に到着しました」


 シノブさんは「まだこちらへはヤーントルクの警官の手が及んでいないようです」と続け、ほっとしたような仕草を見せる。


「それは良かったです……今頃は楽座さんがエレナさん達に尋問して、PKを一人取り逃がしていることに気付いているかもしれませんね」


 私がフフフと笑うと、シノブさんが「そうかもしれませんね……!」と応じる。

 黒布で表情は見えないが、笑っているようだった。


「セージさんはこれからどちらへ?」

「はい。鍛冶屋か道具屋へ行きたいと思っていたのですが……」

「それでしたら鍛冶屋は中央通りを左に入った位置に、道具屋は冒険者ギルドの裏手にありますよ」


 シノブさんが親切に施設の場所を教えてくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、シノブさんと別れると私はまず道具屋へと顔を出すことにした。

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ツヴァイトレアル 成葉弐なる @NaruyouniNaru

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