13 逮捕のその後

「それで? あの二人はどうなったの?」

「はい。ちょうど35階に2部屋空いているそうで、彼女たちのテスタールームを変更していただけるようです」

「そっか! それは良かった。たぶんこのお昼休憩時間に部屋の変更やるよね?

 それまでは一緒にいるから安心してね周防さん!」


 楽座さんはそう言って私の腕に自身の腕を絡めた。


 あの後、エレナさんヘレンさん達の収監を見送りお昼休憩に入った私は、自室のマイクから運営にリアルバレとゲーム内でのいざこざを相談。エレナさんとヘレンさんの二人は35階に部屋移動してもらうことになった。

 本当に良かったと安心する私。

 それから食堂へ来て早々に楽座さんに捕まった。

 私も楽座さんへのお礼の言葉を言いたかったところなのでちょうど良かった。


「楽座さん本当にありがとうございました。おかげで二人を捕まえられました」

「いやー今朝、周防さんが説明してくれたときはどうなるものかと思ったけど、PKを無事捕まえられて本当に良かったです! こちらこそありがとうございました」


 楽座さんは「私、PKの逮捕で5個もレベルアップしちゃったんですよ」と自身のレベルが17になったことを教えてくれた。私は自分のレベルが13のままなので、大分出遅れてしまったものだと少々焦る。


「良いですね……私はまだレベル13なので羨ましいです」

「あと尋問でもレベル上がりそうです! 先輩NPCの話によれば、逮捕後尋問は結構レベリングに良いらしくて~」


 楽座さんは本当に嬉しそうだ。

 と、運営と書かれた腕章をした女性に導かれ、エレナさんとヘレンさんの二人が部屋を移動するようだ。目があってしまった。


「ちっ」


 忌々しそうにこちらを見つめるエレナさん。

 私はぺろりとちょっとだけ舌を出して応戦する。

 一触即発の場面に思えたが、しかしそれ以上のことは起こらなかった。


「びっくりした。私何かされるのかと思ってめっちゃ睨み返しちゃいました」


 楽座さんがそう言って胸を撫で下ろす。


「きっとエレナさんもヘレンさんもテスターの日給が惜しいのでしょう。ここでトラブルになったらテスト中止になりかねませんから」


 私がそう言うと、楽座さんが「1日5万円ですものねー」と納得した。


「そう言えば、シノブさんでしたっけ? 彼女はどなたなんです?」


 楽座さんの問いに、楽座さんの後方の席でちびちびと食事を嗜んでいた服部さんがびくっとした。どうやら話は聞いていたらしい。エレナさん達との話を聞かれていた事といい、服部さんには盗み聞きの才能があるらしい。さすがは忍者の家系なのだろうか?


「シノブさんは……ええと……」


 私がどうしようかとシノブさんの方を見やると、シノブさんが立ち上がりその小さな体で大きく手を十字にしてバツマークを作っていた。そうですよね。さすがに自分もPKの内の一人だって楽座さんにバレるのは不味いですよね……。できることならば楽座さんとは関わらずにいたいのだろう。


「シノブさんは少々人見知りが強い方でして……また機会があればご紹介します」


 背後で私の発言を聞いていたらしきシノブさんはほっとするように席についた。


「そうなんですね! ゲーム内ではスラっとした長身の美人さんでしたもんね。でもこっちで今のところ見たことはないなぁ。会ってみたいなぁー」


 楽座さんが服部さんへ思いを馳せる。


「そうですね。いつか服部さんが会いたいと言ってくれたらご紹介したいです。

 それよりもご飯を食べてしまいましょう!」


 私がそう提案し、楽座さんと食事を取りに行った。




   ∬




 午後。ゲームにログインしてすぐに私は冒険者ギルドへ向かった。

 レアドロップらしきサーモナーの太鼓を処分しようかと思ったからだ。


「受付番号2番でお待ちのお客様ー」


 呼ばれ、私は受付へと向かう。


「お客様、こちら大変貴重なアイテムとなっていますが、本当に買い取りでよろしいですか?」


 と受付嬢に念を押されてしまった。

 私のインベントリ内では『サーモナーの太鼓』という説明文のみで具体的説明が全くなかったのだ。叩いても何も起こらず使い道もわからないし、装備しても攻撃力ゼロだったしで買い取りに出すことに決めたのだった。何か鑑定で分かった事があるならば教えて貰えるだろうか?


「その、鑑定の結果などを教えて頂いても?」

「はい。もちろん構いません。こちらの冒険者ギルドで一番スキルレベルの高い鑑定持ちが鑑定したところ、このアイテムは『水辺で使用すると、水棲系モンスターを引き寄せる』という効果があることが分かりました。どの程度の効果があるかは分かりませんが、それ次第では冒険者の狩りに非常な有用なアイテムになるかと思われます」


 受付嬢が丁寧に説明してくれる。

 そうか、水辺なら定点で狩りが行える良アイテムなのか。

 しかし、現状私にはパーティを組む相手が楽座さんくらいしかいない。

 ところが楽座さんはこの後は逮捕したPK達の尋問をするらしく、私とPTは組めないだろう。


 残り6日間の内にパーティで定点狩りをするとも思えなかったので、私はサーモナーの太鼓を手放すことにした。


「はい。私には扱いきれない代物のようです。買い取りでお願いします」

「かしこまりました。それではサーモナーの太鼓一点で買取額は50万エイダとなります」

「5、50万エイダですか!? お間違いでは?」


 私がびっくりして叫ぶと、周りの冒険者たちが何事かと私の方を見た。


「いいえ。間違い有りません。サーモナーの太鼓がこれだけの品質で手に入ったのは、ヤーントルクでは10年ぶりらしいので……」

「10年ぶりですか……?」


 私はゲーム開始して僅か2日なのに大層なことを言うものだと不思議に思う。

 まるでこの世界が遥か以前から存在しているかのように思わせる台詞だ。

 RPGなのだからそうでなければ困るのだろうが、NPCの高いAI性能と共にまるでこの世界が本当に存在するのではないかという錯覚をしてしまう。


「50万エイダいますぐお持ちいたしましょうか? それとも冒険者ギルドにお預けになりますか?」

「100エイダ金貨で支払いでしょうか?」


 私は100エイダ金貨だとインベントリを金貨の革袋で圧迫してしまうことになるのではと危惧した。


「1万エイダ大金貨50枚でのお支払いになるかと思われます」

「大金貨……そんなものがあるのですね。それではそれでよろしくお願いします」

「かしこまりました」


 受付嬢は背後に既に用意されていた金貨袋を手に取ると、私へと手渡した。

 開くと100エイダ金貨よりも1.5倍ほどの大きさの大金貨が50枚ずっしりと入っていた。誰にも見られない内にインベントリにさっとしまう。


 そして私はほくほく顔で冒険者ギルドを出た。

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