9 楽座さんと一緒に

 シャワーを終え、アメニティコーナーでバスタオルと代えの支給服である白のルームウェアを手に取った。バスタオルで水気を取ったあとはすぐに下着を履き、ルームウェアへと着替える。と、少し遅れて楽座さんがやってきた。


「ふわー! スッキリした!!」


 肩にバスタオルを乗せている以外は開けっ広げの楽座さん。シャワーの熱でか、ほんのりと頬に朱が差し、シャワールームへ入る前よりも色気が漂っている。


「シャワーお疲れ様でした」


 私がそう挨拶すると、「うん、お疲れ様です! 一週間だけならなんとかなりそうですね」と、楽座さんは笑う。


 その後、楽座さんの着替えを待ち、備え付けのドライヤーで髪を乾かした私達は、まだゲーム再開まで時間があるのでお風呂上がりに一杯やろうということになった。


「ぷはぁー! この一杯の為に生きてるって感じぃ……!」


 楽座さんが食堂支給のエナジードリンクを飲んでそんな感想を漏らす。


「もう、お酒じゃないんですから」

「でもでも、お風呂上がりにエナドリ頂けるって結構最高ですよね!」

「それはまぁ……はい」


 出来ればフルーツ牛乳を……と贅沢は言えない。

 風呂上がりにエナジードリンクを飲んで英気を養うというのもなかなか乙なものだった。


「楽座さんはこのあとゲーム内でどうします?」

「うーん勤務時間は終わったので、森に少し狩りに行ってみようかなと……」

「お一人でですか?」

「やっぱ不味いですかね。PK出たって言ってましたものね」

「そうですね……知る限り3人とも被害者は男性に思えます。もしかしたら女性のPKで男性だけを狙っているのかも知れません」


 私が顎に手を当てつつ推理すると、楽座さんが「そうだったら良いんですけどね……!」と笑った。


「私、ディヴァインライトもないし、もしただの気配遮断持ちの犯行だったりしたら良いカモですよね」


 楽座さんは気まずそうに笑う。


「それでしたら、私がディヴァインライトを持っていますから、もしよろしければ狩りをご一緒しませんか? PT組んだ事がないので、PT補正も気になりますし」

「え? 良いんですか?」

「はい。よろしくお願いします」


 私はペコリと頭を下げる。

 すると楽座さんが、「それじゃあよろしくお願いします!」と嬉しそうに笑った。




   ∬




 ゲーム再開後、鍛冶屋で合流した私達二人。


「タケさん、勤務お疲れ様でした! 私達二人で森に行ってきます!」


 と、同じくログインしてきた男性警察官――タケさんに宣言。

 タケさんは「おう、気をつけろよ」とだけ私達に言った。


 楽座さんが今日の分の給料を取りに警察署へと寄り道し、その後に道具屋へと向かった。

 街を出て森に入るには灯りが必要だった。

 幸い私のディヴァインライトの灯りがランプと同じくらいだったので、道具屋で買ったランプは楽座さんの分の1個だけで済んだ。


 手持ちが200エイダしかない私はほっとした思いだった。

 なにせランプ1台につき300エイダもしたのだ。

 楽座さんは、「警察官のお給金は日給制なんですよ!」と嬉しそうにランプと消耗品類を買い込んでいた。どうやら普通に狩りをするのと同等以上の給料が、警察官クラスには支払われているらしかった。


「リボルバーの弾も署でたんまり買ってきたので、どんとこいモンスター!」


 楽座さんが楽しそうに森の奥へとずんずんと進んでいく。

 私は、安全対策としてスキルを覚えようとしていた。

 覚えられるスキルリストを眺める。


「遠距離攻撃のようですから、ルーン魔法の矢避けの加護か野生の直感スキルが有用そうですね……決めました!」


 ルーン魔法は消費MPが重そうだったので、野生の直感に決めてスキルポイントを3消費してスキルを獲得する。

 そちらの方が気配遮断と相性が良いと思ったからだ。

 New Skill表示が現れ、野生の直感スキルが獲得された。


 野生の直感……野生の直感で敵の動きや攻撃を察知できる。


 スキルポイントは残り6あったので、3を割り振って野生の直感のスキルレベルを2に上げた。そしてもう3を気配遮断スキルに割り振って、気配遮断のスキルレベルも2にした。


 これでPKに会っても、それが気配遮断であれ遠隔攻撃であれ楽座さんを守ることが出来るだろう。無論、一人で狩りをする際にも警戒は必要なのだから、別に楽座さんの為だけにスキルを取得したわけじゃない。


 夜でもワッシーは出るらしく、早速楽座さんがワッシーの額ど真ん中に拳銃の弾を命中させて一撃必殺をしている。しかし一角兎の姿が見えなかった。夜には現れないのだろうか?


「やったーlv6~」


 ワッシーを見かけるたびに拳銃で一撃必殺している楽座さんはとても楽しそうだ。

 PTを組んでいる状態での補正だが、取得EXPはおおよそ単騎時から80%ほど上昇している。狩るモンスターの数にもよるだろうが、群れが出る場所ではPT必須レベルのPTゲーになるだろう。その上レベルが下の楽座さんには更に補正がかかっていると見た。ツヴァイトレアルの仕様がまた一つ分かって嬉しい思いだ。


 森を進み、私達二人は昼間にPKが出た棺アイコンのある場所近くまで来ていた。

 ワッシーは大量に出現するが、やはり一角兎が出現する気配はない。

 一角兎は日中しか出現しない魔物らしかった。

 だがしかし、そうであれば夜だけ出現する魔物が居てもおかしくないのだが……。

 そう思っていたときだった。


 私の野生の直感に感があった。

 どうやら人のようだ。


「待ってください楽座さん。そちらに人がいるようです」

「え? こんな遅い時間に?」


 楽座さんがランプの灯りを人がいる方向へと向けると、薄っすらと人影が見えた。


「こんばんはー」


 楽座さんが声をかけつつ近寄るが返事がない。

 まさかPKだろうか。私がそう心配していると、人影はのっそりと一歩こちらへ歩みを進めた。ランプの灯りで表情が明らかになる。


「!? 楽座さん離れてください!」

「え?」

「相手はおそらくゾンビです!!」


 私がそう指摘すると、楽座さんもランプの灯りで表情が見えたようで恐れ慄くように一歩後ずさった。


「ひ、左目がない……!」

「はい」


 楽座さんの指摘に冷静に返事をする私。


「ちょ待って……! こないでください!」


 楽座さんが恐怖で混乱してかリボルバーでの狙いがそれる。放たれた弾丸は頭ではなく心臓のある辺りに命中したが、一撃必殺とは行かなかったようだ。


「楽座さん落ち着いて……頭を狙いましょう。たぶんそこが弱点です」

「そ、そうですね!」


 そんな話をしていると、ゾンビが「ヴアアア」と言いながら楽座さんへとその右手を伸ばす。


「ひぃいぃ! 私ホラーは駄目なんですー!」


 と言いながら弾丸を放つ楽座さん。

 しかし楽座さんの攻撃は惜しくも外れ、弾丸はゾンビの顔の右頬を掠める。


「仕方ありませんね……!」


 もう少しでゾンビに触れられそうになっていた楽座さんを後ろへと引っ張ると、私は前に出た。相手の動きは非常にゆっくりしているので、例えゾンビと言えども初心者向きのモンスターに違いはない。相手の動きを良く見て、そして鋼鉄の剣でその頭部を薙ぎ払った。


 鈍い音がしつつも頭部を切断はできたようだ。

 飛ばされた頭部が地面に転がるなり、ゾンビの体と頭部がシュパーンと弾けて光の粒子へと変わった。


 ドロップアイテムは、『ゾンビの歯』だった。


 『ゾンビの歯』……呪術に使われることもあるというゾンビの歯。


 それと同時に莫大な量の経験値が手に入り、私はレベル12へと2レベルも上がる。

 楽座さんも同様だったようで、「やった! lv10になったー!」と喜びの声を上げた。

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