8 夕食とシャワー
午後6時。夕食及び入浴の為、テストは2時間の休憩となった。
私はまず食事を取ろうと食堂へと急いだ。
もしかしたら楽座さんがいるかもしれない。
楽座さんが居れば、私はゲーム内での素性を明かすつもりだ。
食堂へと向かうと……いた!
私は早々に楽座さんを発見。すぐさま彼女へ声をかけた。
「楽座さん……さきほどはどうも……!」
「え? 周防さん……さきほどはってことは、もしかして……?」
「はい。私がセージです」
周りには聞こえないくらいの音量ではっきりとそう告げる。
「なんだ……! 周防さんだったんですね。私てっきり知らない人かと……急にジロジロ見られたから睨み返しちゃった」
「すみませんゲーム内でも同じ格好をする度胸がなかったもので……」
「あはは、構いませんよ。私もキャラクリする時間がもったいないと思って現実と同じ見た目にしただけなんで!」
そういってニハハと笑う楽座さん。
「私、ゲーム内ではラクーザって名乗ってます。これまた名字の捩りなので簡単に決めちゃったんですけど……」
「いえ、良いと思います楽座さんらしくて」
「ありがとうございます! でも周防さんはなんでまたセージ?」
楽座さんがそう疑問を口にする。
「いえ、特に意味はないんです。昔から母が庭にセージを植えていまして、なんとなくその花が好きだったってだけなんですよ。それでゲームで名前をつけるときはいつもセージと……」
「なるほど……思い出のある名前なんですね!」
「そこまで言うほどのことではないのですが……まぁはい」
私が照れていると、楽座さんがパンっと手を合わせた。
「あ、お夕飯早く食べちゃいましょう。それでシャワーも! 早くしないとゲーム再開までに間に合わなくなっちゃうかも」
「そうですね。早く頂きましょう」
私達は食堂で各々好きなパッケージを手に取った。
私が選んだのは冷しゃぶサラダとご飯。
楽座さんはオムライスをチョイス。
レンジでの温めが終わり、わたしたちは席についた。
「はぁ……聞いてくださいよ周防さん。私達、午後ゲームにログインしてからすぐに2件目の殺害現場に居合わせた人たちに尋問したんですよ。でも全く犯人らしき人が見つからなくって! ログインするなり逃げ出す人とかもいて……!」
「それは大変でしたね……」
私がその場から逃げ出した内の一人であるということは気付かれていないようなので伏せておくことにした。
「尋問でも一応経験値は入ったので、レベルは少し上がったのが救いですよ……」
「へぇ……捜査で経験値も入るのですね」
「全員尋問してレベル5にようやくなれたくらいの微々たるものでしたけど、ないよりはマシですね」
楽座さんが言いながらオムライスを口に運ぶ。
そこへ私が口を開いた。
「ところで犯人なのですが、私の見立てでは近距離職ではなく遠距離職だと思います」
「ふぇ? なんでですか?」
オムライスをもぐもぐしながら楽座さんはきょとんとした目で私にその真意を問うた。
「森でPKに遭遇したって言ったじゃないですか。周りに本当に気配がなかったのに急に包丁で攻撃されてたんですよ。気配遮断を使っているにしても、あまりに気配がなさすぎでした。
あれはきっと遠距離からの投擲攻撃です。恐らく、スキル『投げる』を使っているのではと……」
「あぁ! ありましたねスキルに『投げる』!」
「はい。包丁を投げて致命傷を与えるなんてまるで往年のレトロゲームみたいですね」
私がそう言って笑うと、楽座さんは「レトロゲームですか?」と知らないようだ。
「はい。大昔のゲームに『投げる』で包丁を投げると大ダメージを与えられるゲームがあるんですよ」
「へーそれは初耳です。ツヴァイトレアルでもその仕様があるのかもですね……被害者は今のところ一撃で葬られているので……」
「うーん大ダメージを与えられているのは単に急所を狙っているからかもしれません。私が森で遭遇したとき、VITにステータスを割り振っていた方が一撃を耐えていらしたので……」
「それまた初耳です! ということは極限までSTRとDEXに振って『投げる』ことで急所狙いの大ダメージを与えているってわけですね……捜査に進展です!」
楽座さんは嬉しそうにオムライスを頬張る。その姿がなんだか少しだけリスっぽくて笑ってしまう。見た目は凄く綺麗な人なんだけれど、行動は元気活発勝ち気っ子なんですよね楽座さん。
「そう言えば、尋問では他に女性プレイヤーの方に出会わなかったんですか?」
「あー居たには居たんですけど、35階のプレイヤーの方でしたね」
「そうだったんですね。私もあと一人女性プレイヤーには心当たりがあるんですが、何階でプレイしているのかまでは聞けていないです。教会員クラスで教会にいらっしゃった方なんですが」
カナさんのことを話題に上げる。
すると楽座さんが「情報ありがとうございます! 教会に行くことがあれば聞いてみますね!」と応じてくれた。
そうこうしている内に夕食を食べ終え、一緒にシャワーに行くことになった。
え? 一緒にシャワーへ!? って最初は躊躇った私だったが、別に一緒にシャワーを浴びるわけではない。落ち着け私。とはいえ、脱衣所までは一緒だから裸を見られることになってしまうのではないだろうか。うーん、楽座さんに比較したら貧相な体つきの私は少しだけ恥ずかしい気持ちだ。
あーだこーだと考えている内に二人一緒に脱衣場へと着いた。
私は部屋から持ってきた新しい下着と着ていた服、そして受付証をロッカーへと預ける。
裸になった私はアメニティコーナーからリンスインシャンプーとボディーソープ、そして小タオルを手に取り、シャワールームへと足早に向かおうとしたのだが……。
「すーおーうさーん!」
という声と共に裸になった楽座さんに止められてしまった。
「……なんですか楽座さん」
「いやぁせっかくの裸の付き合いなんだし気楽に行きましょう気楽に!」
私は小タオルで胸だけでも隠すが、きっと隠す前に見られていたに違いない。
GかHはあろうかという胸を惜しげもなく披露しつつ、楽座さんがニハハと笑う。
「女性だけなんですし、何も隠さなくても」
「……それは貴方だからこそ言える台詞です……! どいてください。早くシャワーに行きましょう!」
小声で少しだけ語気を強めつつ私は楽座さんにそう言うと、あろうことか楽座さんは私の胸をタオルの上から揉んできた。
「うーん、C?かギリギリD?」
「な、なにするんですかー!?」
「いやぁ隠すものだから逆に気になっちゃってアハハ」
「もう……行きますよ!」
お気楽に笑う楽座さんを放置して、私はさっさとシャワールームへと向かった。
きっと私の今の顔は真っ赤になっているに違いなかった。
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