6 PKとの遭遇
叫び声のしたらしき辺りへ駆けつけると、既に人だかりが出来つつあった。
「おい、誰か魂呼びの魔法使えないのか?」
髭面の男が一人、他に集まってきていた3人に厳しい表情で呼びかける。
「俺はないね……教会員でもなけりゃ持ってないだろう」
バンダナを巻いた男がふるふると首を振り、周囲のプレイヤーもそれに同意する。
「それよりこの剣とかって貰って良いんだよな? PvPドロップみたいだから早いもの勝ちだろ?」
そう現場を指し示す痩せっぽちの男。その先には棺アイコンが表示されていて、血塗れの包丁、一振りの長剣、そしてワッシーの羽根や一角兎のホーン、それに貨幣の入っているらしき革袋が無造作に散乱していた。
「あぁ……それは構わないが……最初の発見者なんだろ? ならヤーントルクの警官に知らせにちゃんと行けよ」
「えぇー! かったりぃなぁ。
森の中での死亡なんだし、奴らの管轄外ってやつじゃないのかよ」
ドロップ品を拾い集めつつ文句を言う第一発見者らしき痩せっぽちの男。
まだ周囲にハイドしているPKが潜んでいる可能性もあるのに良い度胸をしている。
ハイドしている私に気付く素振りも見せないし、ハイド対策スキルなんて持っていないのだろう。周囲を警戒する様子がないプレイヤーたちに呑気なものだと思っていると、
「うぐっ!」
人だかりの最後方にいた屈強そうな男がそんな声を上げて私達の居る方向へと倒れこまんとする。
しかしギリギリのところで耐えたようで足を踏ん張った。
その背中には包丁が突き立てられていた。
一撃必殺を免れたように見える。
「くっそが! VITに振ってなかったら死んでたぜ……ぐはっ……」
最後方にいた屈強そうな男が言いながら血反吐を撒き散らす。
一撃で死亡しなかったのは良いが、このままでは失血死するのではないだろうか?
「まだPKがいるみたいだぞ! みんな気をつけろ!!」
髭面の男が辺りを警戒するように促すがしかし、気配は感じられない。
私が見ていないうちに再び気配遮断で姿を消したのかも知れないが、それにしても全く攻撃時の気配がなかった。どういうことだろうか。相手は気配遮断を使っているのではないのか?
「すまん……誰か包丁を抜いてくれるか? すぐにポーションを使う」
屈強そうな男がそう言って背中を向ける。
「ちっ、仕方ねぇなぁ」
バンダナの男が嫌々といった様子で包丁に手をかける。
「行くぞ、いいな?」
「あぁ……」
ドシュっという鈍い効果音を出しながら包丁が背中から抜き取られる。
そして屈強そうな男が取り出した赤色のポーションをがぶ飲みすると、傷が塞がったようだった。
「午前中に虎の子のハイポーションを手に入れておいて助かったぜ……」
それに加えて屈強そうな男はVITにも振っていたから、包丁が急所に到達するのを防げたのだろう。運のいい奴だ。
「やっこさんは背後から攻撃してきたんだろう?」
髭面の男が屈強そうな男に問う。
「あぁ……そう思う。だがまるで気配が感じられなかったがな」
「どういうことだ? 気配遮断スキルでも使ってやがるのか?」
屈強そうな男の返事に、髭面の男が気配遮断使用の可能性に気付く。
けれど違う……これは気配遮断ではなくて……。
「おい、ディヴァインライトあるやついないのかよ!」
バンダナの男が問う。
しかし男たちからは返事はない。
私のハイド時間はもうすぐ10分になろうとしていた。
そろそろ潮時かもしれない。
私はPKに警戒している男たちを残し、一度ヤーントルクの街へ戻ることにした。
∬
今回はMPも無かったので、ヤーントルクの街に入る際に門を素の状態で通過してみることにした。無論、戦闘になった際にギリギリ逃げ切れるだけのMPは確保した上でだ。
魔族がこの街でどのような扱いを受けるのかはいまだはっきりとはしていない。
道具屋と宿屋は門さえ突破すれば使うことができ、教会でも対して警戒はされなかったと言うだけの話だ。
「止まれ!」
門では見事に止められてしまった。
さて……どうなるだろうか。
「はい。私に何か御用でしょうか?」
「見ない顔だな。冒険者か?」
私に冒険者かと聞く相手はどうやらNPCのようである。
プレイヤーであれば森から始まる魔族クラスの存在を知っているはずだからだ。
「はい。冒険者かと問われればそのようなものです」
「どういう意味だ……? フードを外せ!」
言われ、私は緑色のフードを外した。
だがしかし、見た目だけで通常の人間と魔族とを判別することは出来ない。
このゲームの魔族に身体的特徴はないからだ。一般の人間と区別する為には鑑定スキルなどを使うしかないだろう。
「ふむ……金髪碧眼か……名は何と言う?」
「はい。セージと申します」
私が答えると、門番はなにやらリストのようなものに私の名や特徴を書き込んだらしい。
「ヤーントルクを訪れた目的は?」
「冒険者ギルドや宿屋などの施設利用の為です」
「滞在期間は?」
「さぁ……私にも分かりませんが、一週間はいないと思います」
「そうか……」
リストに滞在理由や期間を書き込んでいるのだろう。
それが終わると、「通ってよし」と私は門を通された。
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