5 ディヴァインライト
街中では昼前に起きた2件の殺人事件の捜査が進んでいた。
私はそれから逃れるように、そして安全策としてディヴァインライトを求めて街の教会へと向かった。
ヤーントルクの教会はかなり大きく荘厳な雰囲気を纏っている。
これだけ大きな教会だから昼過ぎとはいえ誰もいないということはあるまい。
扉を開けて教会内へと入ると、祈りのためらしき参列席には何人かの住人がいるようだった。
教会内へ入った私は、早速とばかりに教会員を探した。
そして教会の左前方にシスター姿の女性を見つけて声をかける。
「こんにちは」
「はい。こんにちは」
「あの、こちらで教会の神秘、ディヴァインライトを教えて頂けたりはしないでしょうか?」
「ディヴァインライトですか? もしかしてプレイヤーの方です?」
「あ、はい。セージと申します」
「そうですか。私、カナと言います。教会員クラスのプレイヤーです」
カナと名乗ったシスターは丁寧にペコリと頭を下げたので、私も同じくペコリと頭を下げた。
「それで、ディヴァインライトなのですが……教会の者ならば殆どが扱える初級スキルになります。かくいう私もさきほどお昼前に習得したばかりでして……お教えするには教会に喜捨をいただく必要性があります」
「喜捨……寄付ですか。いかほどでしょう?」
私が金額を尋ねると、カナさんは、
「それは御心のままに……」
とゆっくりと笑った。
「ではこれでどうでしょうか?」
私は奮発して100エイダ金貨を4枚取り出して渡す。
私のほぼ全財産だ。
「これはこれは……ありがとうございます」
「これで教えて頂けますか?」
「はい。喜んで」
カナさんがにっこりと微笑み、「ではこちらへどうぞ……」と、教会の中央の祭壇へと案内された。
「では、まず最初に私がやってみせますので、同じようにやってみてください」
「はい」
「唯一神ベヴォスローゼヒカイトよ、迷える子羊を導かん! ディヴァインライト!」
カナさんが両手を拝むように組み祈りを捧げると、祭壇からキラキラとしたエフェクトが発生。エフェクトはカナさんへと向かい、その周囲を一層明るく照らし出した。
「ではどうぞ」
次は私の番だ。
私はカナさん同様に両手を組み、祈りを捧げた。
「はい……唯一神ベヴォスローゼヒカイトよ、迷える子羊を導かん! ディヴァインライト!」
するとカナさんのときほどではないが祭壇から僅かに光が生じ、光が私を取り囲み周囲を明るく照らした。
UIにはNew Skillの表示と共に、カタカナでディヴァインライトと表示されている。
どうやら無事ディヴァインライトの習得に成功したらしい。
「ありがとうございました。こんなに簡単に習得できるとは思ってませんでした……」
「はい。良かったです。でもどうしてディヴァインライトなんて?」
カナさんはきょとんとした表情で聞いてくる。
もしや街中でのPK出現の話はここまでまだ届いてはいないらしい。外出している教会員プレイヤーならば知っているのだろうが、カナさんはまだ外に出ていないのだろう。
「……実はPKが早速出たみたいなんです」
「え……!? この1、2時間でですか?」
「はい」
「あぁ……それでお昼前に教会員を呼びに警察官の方が来ていたんですね……。
知りませんでした……。ではハイド対策にディヴァインライトを……?」
「はい、そうなります」
「なるほど……それは確かに賢明な選択かも知れませんね」
カナさんは納得するようにうんうんと頷いた。
「それでは私はこれで失礼します。ありがとうございました」
「はい。お気をつけて……」
教会に一人残されたからか不安そうな顔をしたカナさんに見送られ、私は教会を出て、森へと向かった。今日の分の宿代は既に支払ってあるが、寄付に大部分の持ち金を消費してしまったので、夕食までに狩りをしたいと思ったからだ。
森へ出ると、昼前と変わらずワッシーや一角兎が出現した。
どうやらこの森付近では、日中出現するモンスターは変わらずこの2匹らしかった。
ディヴァインライトは早速効果を発揮している。
私の周囲3mほどを明るく照らしていて、森の中の多少の薄暗さも打ち消していた。
スキルレベルやクラス適正に応じて範囲は変わるらしかった。
カナさんが使ったときはもっと大きな範囲を照らしていたからだ。
「効果時間は1時間。消費MPは80か……」
MP消費が最大MPに比してそこそこ重いので、使用直後から自然回復するまでの間、気配遮断を使用することができないのは仕方ない。
狩り中常時気配遮断を使っていられるわけもないのだから、丁度いいのかもしれない。
私はいまはプレイヤーの気配がしたときだけ気配遮断を使うようにしていた。
ちなみに気配遮断を使ったときはこの周囲を照らす光も一時的に一緒に消える。
この場合、ハイドしているプレイヤーを暴くことは出来ない。
しかし、街に着くまでの間に行っていた気配遮断を頻繁に使用しての狩りと違い。
モンスターがこちらに気付いている状態での狩りは勝手が違った。
「気配遮断なしでは、多少なりともダメージを受けてしまいますね……」
一人ぽつりと言い、私は気配遮断の有効性に舌を巻く思いだ。
加えて街中でのPKにも使える……恐ろしいスキルを初期スキルに選んだものだ。
気配遮断なしでワッシーと一角兎を相手にするのにも慣れてきた頃、私のレベルは10へと上がっていた。レベルアップ毎に5ずつ貰えるボーナスポイントが45ポイントも溜まっている。ゲームの感覚は掴めてきたし、そろそろボーナスポイントを割り振ってもいいだろう。
「基本のSTRを上げるのは良いとして、あとはAGIに振りましょう」
ステータス画面を表示し、STRに25、AGIに20を振る。
本当はLUC値も気にはなっているのだが、初っ端から尖ったステータスにしても御しきれないとの判断だ。
ステータスを割り振ると、ぐっとアバターの動きが早まったように感じられたし、持っている長剣がまるで羽根のように軽くなった。
「装備もいつまでも初期装備ではなく変えたいところですが……」
ワッシーと一角兎の2匹からレアドロップで武器ドロップが狙えそうにない。
あとで街の鍛冶屋を覗いて見るべきだろう。
そう考えていたときのことだった。
森の奥深くから、「ぐぎゃああああああ」という悲痛な叫び声が鳴り響いた。
声の元へ向かってみるべきか悩んだが、ディヴァインライトを欠かさず使っている限り急襲されるリスクはないに等しい。それに気配遮断の使用は控えていたので十分にMPはあった。
私はとりあえず気配遮断を使用してハイド状態で叫び声がした場所へ向かうことに決めた。
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