2 チュートリアルと宿探し
キャラクリ後にいきなり森に放り出される辺りはαテスト感を感じさせる。
ここからチュートリアルがあるのだろうか?
と思っていると、画面右端でボタンが光っていた。
ボタンを押すと画面には、
"チュートリアルを実行しますか? はい いいえ"
という表示がされた。あるじゃんチュートリアル。
私は頭を掻きながら「αテストで何もわからないので、はいですね」と、はいを選択。
すると眼の前にUIの説明をする画像が出現した。
次々と解説を流し見して、基本的な構造を把握していく。
「……これがステータス画面で、こっちがインベントリ、こちらがスキルリストで、ここを開くとマップですか」
各種ステータスは魔族の初期値によってオール5となっていた。
設定画面にも案内されたが、現状、設定変更の必要性はあまり感じられないのでそのままにしておくことにした。
マップを確認すると、ここは見た通りの森の中で東にどうやら未踏の街らしきものが薄っすらと見える。まずはそこを目指して歩くことにした。
歩き始めると、森の中には既に先客が居ることに気付く。
どうやら同じく魔族を選択した人がいるらしい。大分遠くだが気配が感じられる。
全く同じ位置に出現するわけではなく、ある程度間隔を空けて森の各地に初期クラス魔族の選択者が配置されるらしかった。
「気配遮断スキルせっかくだから使いたいけれど、使い方が分かりませんね……?」
チュートリアルはUIの説明で終わってしまっていて続きがあるようではなかった。
さっさとせっかくの初期スキルを使わせてほしい。
そう思っていると、視界に大きめの鷲のような鳥型モンスターの姿が映った。
背中の剣を取る。
すると、急にチュートリアルが再開された。
「……? 初期スキルを使ってモンスターを倒そう? エンカウントしないと戦闘チュートリアルが発生しない仕様ですか。そういうことは先にやっておいたほうがいいかと……。非戦闘スキルも初期スキルにあるのですから」
文句を言いつつも指示された通りに、「気配遮断……!」とスキル名を小声で言うとスキルが発動したようで、UIにハイド状態を示す状態表示が現れた。
状態表示の詳細を見ると、なんとハイド5秒毎にMPが1消費される仕様のようだ。
さっさとモンスターを倒してしまおう。
私は鷲のような鳥型モンスターへと背後から接近。
その首を狙い、長剣を振り下ろした。
ザシュっという効果音と共に、鳥型モンスターの首が落ちる。
そしてシュパーンという効果音と共にモンスターの体が弾けると、光の粒子となって消えていった。
同時にレベルが1から2へアップした。
ステータスを割り振るよう指示されたが後回しにすることにした。
そしてドロップアイテムがあったらしく、UIに表示される。
せっかくなのでインベントリを開いて確認することにした。
「『ワッシーの羽根』……? ワッシーが身につけている柔らかな羽根」
3枚スタックしているそれはどうやら換金か素材アイテムのようだった。
インベントリを閉じると、私は再び気配遮断を実行した。
「非戦闘状態でMPの自然回復が30秒に一回10。
ハイド状態で更にMP自然回復が低下するとしても、5秒で1消費ですから恐らく現在の最大MP102から逆算して、何もしなければ10分以上気配遮断でハイド状態を維持できますね……」
これで身を隠しておけば他の魔族プレイヤーに居場所を察知されることは暫くあるまい。
私は付近にプレイヤーの気配があればハイドを維持しつつ、モンスターが近くに出現しなおかつ近くにプレイヤーがいなければ、姿を現してはこまめに狩りをしつつ街を目指していくことにした。
∬
「ワッシーの羽根が21枚に、一角兎のホーンが4つね。
全部で500エイダでどうだい?」
街の入口の門番はハイド状態で突破し、私は街中の道具屋へと訪れていた。
道具屋の男店主はすました顔で買い取り金額を告げるが、どうやら買い叩かれているらしい。私の直感がそう告げていた。
「もう一声なんとかなりませんか?」
「うーんそれなら520エイダでどうだ」
「……それでは一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「あー、答えられることなら何でも聞いてくれ」
「この街、ヤーントルクの宿屋は一泊おいくらでしょう?」
私が聞くと、店主は自身の口髭を2、3度ほど擦りながら、
「さぁね……時期にもよるが、今の時期なら50エイダ出せばお釣りがくるんじゃないかな」
と教えてくれた。
嘘をついている気配はない。
「それならば宿の場所を教えてください。520エイダで手を打ちましょう」
「そうかい? 毎度あり。宿は裏手に5分ほど歩いた場所にあるよ。
じゃあこれ520エイダだ」
私は店主からこのゲームの貨幣である100エイダ金貨を5枚と、10エイダ銀貨を2枚受け取ると、店内を軽く物色。
店には冒険者御用達のポーションやハイポーション、毒消しなどの他、包丁といった武器にもなりそうな生活用品、食品や雑貨の類までありとあらゆる商品が陳列されていた。
入用の物があればまた道具屋を訪れて買えばいい。
まずは街の他の主要施設を見て回ろう。
そう思いたち、私は道具屋を出た。
まずは宿屋だ。
今の時期なら50エイダでお釣りが来るらしいが、無論込み具合にもよるだろう。
冒険者クラスや魔族クラスを選択したプレイヤーが多ければ多いほど、宿の値段を上がるというのが良く出来たゲームの定番だ。それになによりこのゲームはよく出来ている。
それはさきほどの男店主との会話からも分かった。
彼はNPCのはずだ。それにも関わらず、すごく自然な会話が出来ていた。
よほど作り込まれたAIを搭載しているに違いない。
だからこそ宿屋は早めに確保しておきたかった。
私は言われた通りに5分ほど道具屋の裏手の通りを歩いて宿らしき建物を発見。
庭先を箒で掃いていた少女に声をかける。
「こんにちは。こちら宿屋さんで間違いはありませんか?」
「え! あ、はい。間違いありません。お客さんですか!?」
「はい。部屋を一つお借りしたいのですが……」
「わわ、ではこちらへどうぞ! ようこそ片霧荘へ!」
少女に案内されるがままに宿へと入っていく。
「お母さーん! お客さん!!」
少女が店の中へ入ると、カウンターの奥へと向けて大声で叫ぶ。
するとまだ20代と言っても通るような容姿をした若い女性がカウンターから顔を出した。
「はいはい。今日はお客が多い日ね」
少女に母と呼ばれた女性は、カウンター越しに私と向き合うと言った。
「ちょうどあと1部屋空いていますよ。一泊55エイダになります」
「ではとりあえず1泊……」
言いながら100エイダ金貨を渡す。
50エイダあればこの時期であれば通常お釣りが来るという話だった。しかし冒険者や魔族他、プレイヤーが殺到している今だ。55エイダという価格に値段が上がっていても不思議はない。続けて私は、
「その後も続けて泊まる事は可能でしょうか?」
と女性に問うた。この街にどれだけ長居することになるかは正直読めない。
だから連泊が可能か聞いておくことにした。
「えぇ……もちろん。午後6時までに言っていただければ」
女性は笑顔で首肯し私に部屋の鍵を手渡した。
そして私をここまで連れてきた少女へ向けて、
「ありがとねミレイユ。それとお客さんを一番隅の部屋に案内してあげて」
と笑顔を投げかける。
それに少女は、
「うん! お客さんどうぞこちらへ!」
と私を先導して宿の奥へと入っていった。
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