第13話 模擬戦


 チュンチュン。


 いつもと同じ朝。

 いつもと同じで左側で抱きついてるエルフ。


 起きて歯磨き、朝ご飯を作り食べ、歯磨きのルーティン。


 小屋の外で準備体操、畑の周りを1周毎に5回腕立て腕立て4周する走行、整理体操。

 ここまではいつもと同じ。


 グレー地に黒の探索服に、自分用のドラゴンの骨の刀を腰に装備しお姉さんと対峙する。


 いつもの教える教わるではなく、今日は倒すか倒されるか。



 少年が木を投げ落ちると同時に少年は投げる構え、私は弦を引きお互いに攻撃体制を取った。

 左足に激痛。

 木?木が刺さっている?

 地面が間近に見えて、気を失った。


「あらら、終わっちゃった」


 少年は自分が投げた木が落ちた瞬間に、木のナイフをお姉さんに投げた。

 ナイフを投げると同時に接近し木の棒で頭を殴った。


 お姉さんの左足と頭にハイヒールを掛けて、起こす。


「あれっ?」


「何やってんだよ!

 開始1分も経たないで死んだよ」


「左足に木が刺さって・・・って治ってる」


「簡単に言うと、開始して直ぐにナイフを投げて殴った」

 

「10mは離れてたよね。

 木のナイフだよね、木だよね。

 普通は当たらないよ。

 当たらないし、ここまで深く刺さらないよね。

 それに頭を殴った?

 10mは離れてたよね。

 私が下向いた瞬間にここまで来た?

 どうゆう事?」


「油断するなって事。

 今回は襲撃を想定してみた。

 木のナイフは弓矢や魔法攻撃の代わりね。

 敵から攻撃されて、怪我を負い、視線を外し、殴打され、気絶する。

 これが実戦なら死んでたよ」


「襲撃の想定なら先に言ってくれれば、もうちょっとは上手く対応出来たのに」


「アホかー!

 襲撃する奴がこれから攻撃しますって言うか!

 模擬戦をやる事は分かってるんだから、状況は想定しておきなさい」


「はい」


「で、今回の問題点は想定の事は置いといて、

 相手の動作に無関心。

 少なくとも僕は投げる動作は見せたよね。

 にも関わらず躱わす事も防ごうともせず、自分の攻撃を優先した。

 当たらないと思って無視した?

 おそらく弓を構える筈と思い、前に出る左足を狙って投げたけど、けっこう深く刺さったよね。

 頭か胸なら即死か致命傷だよ。

 よくそんな攻撃無視出来たよね。

 自分よりも早く攻撃体勢が取られたら逃げるか、躱わすか、防ぐ体勢を取らなくっちゃ。

 前から言ってるよね、自分が優位で戦えって!」


「はい、自分が優位な距離、態勢を保てと」


「相手の投げる動作を見たら、背中側へ回り込む様に移動しながら距離をとれ。

 それでも相手が投げようとすれば、無理な投擲体勢になり、威力は弱く狙った所には当たらない。

 そしたら、投げ終わりを狙い撃つ」


「相手が自分を追って向きを変えようすれば、出した足を動かさなければ投げられない。

 その時投擲動作も一時止まる。

 その隙を撃て」


「相手の目、顔の向きを見てれば、どこを狙ってるのか把握出来るようになる。

 よそを向いて攻撃されても当たりはしない」


「動かれるのを嫌がり、相手が攻撃を止めたのなら、こちらが狙い撃てばいい」


「撃つ隙が無ければ、こちらの距離を確保する様に動けば良い」


 戦う事になれば常に背後を取る様に動き続ける。

 優位な距離と態勢で居続ける事が大事。

 そして動きながらでも、攻撃出来る手段を持つ事。

 相手より先に体力消耗で動けないと言う事にならない為に持久力は必要。



「中・近距離が得意な相手なら通用するけど、魔法や弓等の遠距離ならそうは行かない。

 距離的優位が無くなるからね」


「こればかりは、実力と経験と運で有利不利が変わる。

 実力はその名のままで、射程距離の長さと威力に正確性、自分の能力を知っているって事かな。

 経験は説明が難しいけど、自分の置かれた状況を的確に把握し、最善の行動が出来る判断能力に優れている、と言うことかな。

 有利ならば果敢に攻めるし、不利と思えば躊躇なく引く事を心得てる。

 運は、実力があり経験豊富な奴と対峙しないって事だね」


「模擬戦で僕にあっさり負けてるから、運は無かったと言う事かな?」


「でも助けられたって事では運が良かったです」


「塞翁が馬だな」


「それは何ですか?」


「ある老人は馬を飼っていたが逃げられ悲しむ。

 月日が過ぎて、名馬を伴い馬が戻って来て喜ぶ。

 だけど、その名馬に乗った息子が落馬骨折してしまい悲しむ。

 戦争が始まったが、骨折のおかげで息子は徴兵されずに済んで良かったって言う話。

 要は幸不幸はいつ訪れるかは分からない。

 悪い事ばかりでもなければ良い事ばかりでもないって事」


「なるほど、私は牙猿に襲われ大怪我と言う不幸を味わった。

 でも君に助けられる幸に会った。

 そして今は幸の真最中。

 いずれ不幸が来るのだろうか?」


「気の持ちようだろう。

 充実した暮らしをしてれば、ここじゃなくても幸だろう。

 侮な、欲張るな、妬むな、憤るな、怠けるな、貪るな、溺れるな、心掛ける事!」


「はい!」


「次は視線を外した事だけど、お姉さんなら相手が視線を外したらどう思う?」


「隙有りと判断します。

 こちらに攻撃が来るとは思わず、攻撃する好機と捉えます」


「だよね、視線を外すと相手から攻撃されるのは間違いないよね。

 動きの速い敵なら見失い、不利な状況に追い込まれる。

 自分で自分を不利に追い込む行為はしない事!」


「はい、分かりました」



「では、復習で襲撃想定で模擬戦を始めるよ」


 木の棒を上に投げたと同時に動き、木のナイフを投げた。

 一応避けたようだが、


「卑怯者!」

 と、罵りながら背を見せて逃げて行く。


 馬鹿め、畑周り走りで俺に置いて行かれる奴が、持久力で勝てる訳なかろうに。

 ましてや背中を見せて。


 と思ったら、足元の地面がぬかるみ転けそうになった。

 手を付き転倒は回避したが、視線を逸らしてしまう。


 直後にウィンドカッターが飛んで来た。

 なるほど、これを狙ってわざと煽って背を見せて逃げたか。


 全面にエアシールド、透明な結界を張る。

 矢も飛んで来た。

 うん、撃ちながらちゃんと距離を取ってる。


 エアシールドを解除して、ロックランスを数十本発現させる。


 その前に爆発矢尻を先に撃って来た。

 積層型ウォータースクリーン。

 水の薄い壁が何枚も展開され、爆発矢尻は不発で矢も地面に落ちた。


 ロックランスを立て続けに発射。

 お姉さんはロックランスの檻に閉じ込められた。


 さて、どんな抵抗するか見てみよう。

 風と土、他にも使える魔法出すかな?

 離れた場所のロックランスにエアバレットを撃つも、ビクともしない。

 マッドフロア。

 前面の地面をぬかるみに変えて行く。

 他は無い様だな。


 そこへアースパイクが下から次々と発現。

 ぬかるみは無くなり、尖った岩が地面から突き出ている。

 最早対抗手段がなくなったのか降参して来た。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 再戦だ。

 襲撃想定で模擬戦を再戦する事になった。


「今度は油断しない」


 少年が木の棒を投げると同時にナイフを投げて来た。


 想定内!


 足元に得意ではないが、土魔法のマッドフロアを仕掛け、

「卑怯者!」


 と大声で叫び、わざと背中を見せて逃げた。


 畑周りで私の持久力を知ってるから追ってくる筈。

 土魔法は見せて無かったから引っ掛かった。


 すぐさまウィンドカッター。


「避けれまい」

 と、思ったら、


「嘘!エアシールドって特級防御魔法じゃない」


 内部より魔力を供給し制御続ける限り結界を張り続ける。

 相手の魔力や制御力を上回る一撃で破壊しないと、こちらからの攻撃は全て弾かれてしまう。


「なんて厄介な魔法使ってんのよ。

 まあいいわ、これで距離は取れる」


 エアシールド発動中は内からは攻撃出来ない。

 きっと解除する。

 弓矢や撃ちながら、その時を狙って爆発矢尻で撃つ。


 解除、来た。

「当たれー!

 ちょっと待って。

何?この変なのはロックランス?、それに数が・・・」


 爆発矢尻は不発。

 少年の前に水の膜、上空に先の尖った丸太型のロックランス。


「まさか、2属性同時発動?

 ならエアシールドの中からも攻撃出来たって事なの?」


 それでも矢を射掛ける。

 全て水の膜で失速して地面に落ちる。


「何それ?」


 しまった、足が止まっていた。

 ロックランスが周りに次々突き刺さる。


「うわぁー!怖い!」


 動けない、逃げ出せない。

 エアバレットでも太いし硬いから破壊出来ない。


 マッドフロアでぬかるみにし、ロックランスを土中に沈める。


「良し、これなら」


 地面から岩の槍が次々突き出てくる。


「えっ、アースパイク?」


 地面が岩の槍で埋め尽くされる。


「あぁ〜、もう手がない。

 無理、降参します」


 こうして模擬戦は終わった。


 ◇◇◇◇◇◇◇



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