第14話 想定外
小屋の中にいる。
反省会だ。
「なかなか考えて攻撃出来てると思います」
「ありがとうございます」
「最初の僕の奇襲にも反応出来てましたし、わざと煽って背中を見せて逃げる。
僕が追ってくる事も想定して、ぬかるみを作って隙をついての攻撃。
よく考えている」
「土魔法は見せて無かったから上手く行けばって思ってました」
「見事に引っ掛かりました。でもあれで土魔法が使えると言う事が分かった。
他にも使える魔法が有るって警戒が出来る様になったよ。
慢心してた」
「でもその後の魔法は容赦なかったですよー」
「それは仕方ないよ。
未だ隠し玉持ってるかも知れないし」
「でも、特級防御魔法のエアシールドを張られたら、私なんか手も足も出ないですよ」
「エアシールドは結界って呼んでる。
戦闘中だと攻撃受けて制御が面倒くさくなるし、魔力を絶えず使うからあんまり使いたくはないんだよね。
アースドラゴンと対峙した時は、ブレスも防いで隙見て尻尾を切り落とせたから役には立った。
一度野営した時は、外側に中級程度、内側に上級程度の2重結界を掛けてれば制御も魔力もそれほど消費せず見張り要らずでぐっすり寝られるよ」
「対ドラゴンとかは別にして、私にとか野営とかに特級魔法は、魔力がもったいない様な・・・」
「そこはコレがあるから」
と言って皮ベルトを指差す。
「???」
「この皮ベルトには魔力キューブが付いている。
魔力キューブは僕が日々に使わなかった余剰魔力を込めてあって、自分の魔力が減った時に補充出来るのよ。
お姉さんの皮ベルトにも付いてるよ」
「四角いコレの事?」
「そう、それには僕の70%ぐらいの魔力キューブが10個。
お姉さんの何人分かは知らないけど、魔法撃ち放題だよ」
「凄い!少なかった魔力が使い放題だなんて!」
「使うのは基本戦闘中の予備にしておいて。
使えば無くなる物だし、頼るのも自分の為に良くない。
僕が気を失ってまで描いた魔法陣は、お姉さん自身の魔力向上が目的だから」
「はい!分かりました」
「では続きを」
「ロックランスと水の膜の魔法。
2属性同時発動なんて見た事もないです」
「ロックランスは今では最大64本制御出来る様になって数の力で相手を圧倒出来る。
水の膜はウォータースクリーンって言う一応防御魔法。
こっちは拡げると最大50㎡ぐらい、そのまま1枚で使ったり、さっきみたいに小さく何十枚も重ねて使ったり。
制御力は必要だけど、魔力消費は少なくて使い勝手がいい。
どんな形にも変えられて、形が無いからほぼ破壊不可能で便利」
「弱点はやっぱり火?」
「うん、だけど火ならなんでもって事は無いよ。
2属性同時にも関わるけど、もっと小さい頃は群れてる魔物に対してロックランスだけで対応してたんだ。
でも数が少なくて撃ち漏らした敵によく攻撃された。
で、防御するのにエアシールドを発動したらロックランスが全部消えちゃって。
2つ同時は無理かーってちょっとがっかりしてた。
エアシールド内にこもって策を考えてても攻撃が五月蝿くしつこくて頭に来て、思わず「この野郎」ってヒートバーンをぶっ放して辺り一面焼き払ってしまって。
その時にエアシールド内からでも余り制御力が必要ない魔法なら同時に撃てるって分かった。
でもめっちゃ疲れるけどね」
「今からは想像出来ないけど、大変だったんだね。
ヒートバーンが制御力が必要ないって君だけだから。
火属性特化の魔法士でも制御力も魔力も必要な魔法よ。
それでも森の中で火属性魔法を使うなんて!」
「そう、その後が大変だったのよ。
森の中で火属性魔法使ったもんだから大火事。
水属性の魔法を使って消そうとしたけど下手くそでなかなか消えなくて。
水を膜状にして火を包んじゃえって出来たのがウォータースクリーン。
火事を消せるぐらいだから、火力の低い火魔法なんかへっちゃら。
木なら一瞬で黒焦げに変えられるぐらいの火力でないと弱点にはならないよ。
いつも通りで数少ないロックランスで苦戦して、エアシールドの代わりにウォータースクリーンを使ったらロックランスが消えずに同時発動出来たのよ。
それからは大きく1枚で使ったり、小さくして重ねて使ったりして上手く制御出来る様になった」
「自分で魔法作る人族が居るなんて。
しかも全属性に個有スキルまで使える。
もしかしてだけど、精霊とか召喚とか、まだ他の魔法スキルなんかも使えたりするの?」
「自分の為に聞かない方がいいと思う」
「・・・そうします。
水の膜に弓矢が全て落とされた時、棒立ちが不味かったです。
止まってたからロックランスで身動きを封じられて、ほぼ打つ手は無くなりました」
「動き回られてると、下手したら串刺しになるから、足が止まった瞬間に閉じ込めた。
まだ何か有ると思って見てて、ぬかるみを作ってロックランスを沈める脱出方法は思ってもなかった。
だからアースパイクで心を折りに行った」
「マッドフロアは悪あがきですよ。
あれしか出来る事がなかったです。
つくづく自分の無力さを思い知りました」
チラチラこっちを見てくる。
あーこれはいろいろ教えてくれのサインやな。
「強くするって言ったからには必ず強くする。
お姉さんの体の負担を考えて、徐々にする予定だったんだけど、急いでやる気なら負担は大きくなるよ」
「構いません!」
「なら、寝室で上着を脱いで背中を出して。
どんな負担か分からんよ。
肉体的か精神的な異常か」
「もし君に危害を与える様なら始末してください」
「お姉さんからの危害なんて食らわないから、心配しないでいいよ。
先ずは全属性魔法を上級まで解放する」
背中の魔法陣に魔力を注入する。
「どう?どこかおかしい所ある?」
「何かちょっと体が怠いけど、異常とまでは感じない」
「次は魔力と制御力を上げるよ」
再び魔法陣に魔力を注入する。
「どう?体に異常は有る?」
返事が無い。
まさか耐えられず死んだ?
手首の脈を見る。
良かった、ちゃんとある。
気を失ったか・・・
「目覚めるまで寝かせておこう」
これで全属性魔法を上級まで使いこなせる魔力と制御力は渡せた。
目が覚めればエルフの長命者並みの魔導士の誕生だな!
久しぶりの一人飯。
こっそり焼きそばを作って食べた。
お姉さんと一緒に食事すれば、必ずリクエストが来る。
麺料理は種類が多いから一々応えてられない。
麺類は作れない料理の方が多いしな。
「ソースの匂いが堪らん」
大盛りを食べた。
「ごちそうさまでした」
さてと、久しぶりに遺跡探索に行きますか。
寝室を覗いて寝てるの確認したら、お姉さんが倒れていた大岩に転移。
てくてく歩いて川沿いに下る。
約4時間10kmほど歩いても何の痕跡も見つからない。
この川は結構川幅があるから輸送とかに使われてそうと睨んだが、当てが外れたな。
それとももっと下流か?
暗くなる前に帰ろう。
河原の石で2m四方の枠を作り魔法陣を描いて、小屋に帰った。
晩ご飯を作る前に寝室に声を掛ける。
「お姉さん、どう?」
返事が無い。
手首の脈を見るが、ちゃんとある。
起こそう!
「お姉さん、ご飯食べれる?」
ガハッと起き上がる。
「おはよう、朝か?
昨日はいきなり頭を殴られた様な衝撃が有ったまでの事は覚えてる。
上手くいったか?」
ん?なんか喋り方が変わった?
「上手くいったけど、良くないな。
寝ぼけてる?
これから晩ご飯を作るけど食べれる?」
「ふむ、晩餐か、頂こう」
こいつ、わざとか?
「じゃあ、一緒に作るよ」
「何故、妾が作らねばならん?
その方が作って持って参れ」
キャラ変か?
どこかのお貴族様とでも思ってるのか?
一応乗っかるけど、寝る前にもう1回魔力注入して、様子見しよう。
「かしこまりました」
コンコン。
部屋前より声を掛ける。
「お嬢様、お食事のご用意させて頂いてよろしいでしょうか?」
「あら、ここで摂るのですか?」
「失礼致します」
部屋に入る。
「お1人で、お立ちになられますか?」
1人で立とうとするが立てない。
やはり、肉体的に負担が無い筈がない。
起きる様に声を掛けた時、上半身は動いていたが、下半身の動きが鈍かった。
「失礼致します」
ベッドの縁に座らせる。
食事をワゴンに乗せたまま部屋に入れ、目の前に置く。
それぞれのクローシュを取り説明する。
「焼きたてのクロワッサンとバターにございます。
お飲み物はブドウ水をご用意致しました。
こちらはチキンのクリームシチューにございます。
お好みで黒胡椒をご用意しております。
サラダはコブサラダをご用意致しました。
ドレッシングはお好みの量をお掛けになってお召し上がりください」
スッと横に移動する。
お嬢様=お姉さんが上品に食べている。
どれもすぐに空になりこちらに顔を向けた。
これはおかわりだな。
ワゴン横よりもう一人前用意し、テーブルに乗せた。
お嬢様=お姉さんは頷きまた食べ始めた。
「ごちそうさま」
「よろしゅうございました」
片付けて部屋を出る。
ふ〜っ、疲れるわ。
乗るのは止めた。
いつまでもお嬢様ごっこに付き合ってられない。
コンコン。
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