第9話 強化


 小屋に戻って来た。


「どうだった?」


「興奮したし、恐怖感もある。

 なんとも言えない気分だけど、何物も恐れない強さを得たい」


 チラチラこっちを見る。

 結局そこか。

 結論をダラダラ引き延ばすのも悪いかなー。


「わかった、教える。

 強くなれる様に鍛えるから気合いを入れて習得して」


「はい!」


「では手始めに晩ご飯を作る。

 今晩は鍋だ!

 最初なんで比較的作りやすい物にする。

 しかし、この鍋は非常に応用が効く料理だ。

 きっちり覚えて自分の物にしてくれ。

 アレンジを加えて新しい鍋を作ってもいい!

 但し、必ず味見はしろ!

 不味い料理は責任を持って自分の腹で処理するように!」


 俺まで付き合わされるのはごめんだ。


「はい!」


「森豚肉の薄切りとハクサイを交互に重ねて、5cmぐらいの幅に切る。

 土鍋に切り口を上に敷き詰め、水と醤油と料理酒と鳥ガラの素を入れる。

 蓋して森豚肉の薄切りに火が通る迄煮込んで蓋を取る。ハクサイがしんなりして味が馴染んだら完成!」


「どうだった?

 簡単だっただろう。

 今回はスープの素を使ったが、骨からスープを作る所から始めてもいい。

 鳥系も豚系も牛系の骨も美味しいスープが出来るから密封容器に入れてバッグに収納しとくといい」


「はい、分かりました」


「では、いただこう。

 ポン酢タレと胡麻ダレとマヨネーズ好きのお姉さんの為にポンマヨおろしタレ作ったからお好みで使って」


「「いただきます」」


 パクパク、モグモグ。


「私はポンマヨおろしタレが一番好きです」

 やっぱりな。


「そうか、それは良かった」


 ほぼスープを残して無くなる。

 締めにご飯を入れて再加熱する。

 ふっくらしたら溶き卵とちょっと時間をおいてカットチーズを入れる。

 溶けたら混ぜて出来上がり。


「やっぱり雑炊は美味いな!」


 お茶碗にもう1杯とはいかなかった。

 こいつ細い体なのにどんだけ食うんだ。


「「ごちそうさまでした」」


「明日は実力を確認するから模擬戦をする。

 お互い疲れを残さない為、馴れ合いをしない為に別々に「さぁ、一緒にお風呂に入りましょう」・・・あ、はい」


 手を掴まれ風呂場へ連れて行かれる。

 最近、密着度が高い。

 こいつと居るともう2度と1人でゆっくり風呂に入る事は出来ないのかもしれない。

 そして1人寝も。



 チュンチュン。


「おはようございます」


「ほら、起きて歯磨き。

 朝ご飯の味噌汁作るよ。

 味噌と具を変える事でいろいろな味を楽しめる料理だ」


 のそのそと起き上がり行動している。

 こいつは朝が弱い。


 今朝は豆腐と油揚げの味噌汁を作る。

「豆腐は四角に切り油揚げは細切り。

 鍋に水と一緒に入れて中火で沸騰させる。

 火を止め、出汁入り味噌を溶かす。

 お椀によそって、刻みネギで完成」


「今回は出汁入り味噌を使った。

 出汁から作る事も有る。

 具もシンプルにしたよ。

 覚えてね」


 返事が返って来ない。

 寝ぼけてるから諦めた。



 お互いに武装して小屋の前で向かい合う。

 その距離10m。


 俺は手に木の棒長短2本に対して、お姉さんは弓矢に骨の刀のフル装備。

 魔法も使用可。


「言っておく事がある。

 畑は荒らすな、小屋も壊すな!

 それ以外はいい。

 手加減無用!」


 木の棒きれを投げ、落ちたら模擬戦開始。

 落ちたら直ぐに矢が飛んで来た。

 難なく躱わすが、矢が止まらない早打ちもいい。

 距離を詰めてもすぐ離れる。

 移動しながらも的確に当てる腕は有る。


「あいつ、作った矢を全部使うつもりか?」


 今度は距離を20m程とって、森に誘ってみる。


 おっと、3本打ちか、器用な事をする。

 木の裏に隠れながら投石してやった。


 やべっ、爆発矢尻。

 咄嗟に後ろに回避。

 爆発矢尻中々はいいな。

 受ける得物によって怪我をする威力は有るが、上手く叩き落とせば無力になるかも。

 矢なら全部そうか・・・


 普通なら目に見えない風魔法ウィンドカッターが広範囲に飛んでくるのが見えた。

 威力はそれほどでもないが、木の裏に隠れて躱す。

 魔法は得意ではないな。

 投石しながら接近していく。

 風が舞う、ストリームか。

 この威力では、他の者なら有効かもしらんが、俺の接近は止められないよ。


 ぼちぼち刀の間合いだが、抜くか、距離を取るか?

 抜いて自ら接近して来た。

 思いっきりがいいな。

 だが、ロングソードじゃないんだから、大振りはいかんよ!

 躱された後は、ほら、隙だらけ。

 わざとお姉さんの左側で構える。

 やっぱり胴を払いに来た。

 瞬時に真後ろに回って首に木の棒を当てる。


 お姉さんががっくりと座り込む。


「何1つ有効打がなかった。木の棒と投石だけなのに」


「大体の力は分かった。

 弓は問題無いとして、魔法はまだまだで、刀使いは全くだな」


「得意な事ばかりしてたから」


「魔法は座学から、刀は素振りからだけど、先ず走ろう。畑の回り走って1周毎に腕立て5回。

 走る前と後で体操するから」


 一度体操を見せて、それぞれの動作の意味を教える。

 一人でさせて意識してする様に指導する。

 ちゃんと出来たら褒める。


 初めは俺のペースで一緒に走って腕立て。

 4周目からペースがかなり落ちて来たので、終わりにする。

 走った後の体操も同じ様に教え、これを毎日行う事を伝える。

 昼までは弓の練習と自由時間。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 遂に始まる。

 走って腕立て、その前に変な踊り、体操という。

 一緒にやってみるが、意外としんどい。

 ちゃんと出来たら褒めてもらえた。


 次は走る。

 畑の周りをただ走るだけ。

 腕立ても何の問題も無い。


 だんだんキツくなって来て、少年と同じペースで走れない。

 腕立てしたら走るのは終わりだと言われてしまった。


 かなり疲れた。

 少年はまだ普通な顔をしている。

 走るだけでこの差、自分の非力さが情けない。

 終わりに違う体操をしたが、真剣にやった。


 これから毎日だが、少年との差を思えば当然だ。

 目の前の目標は少年と同じペースで走り切る事。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「どうだ、意外とキツいだろう」


「キツい、もうヘトヘト」


「これを毎日やるから。

 昼ご飯までは弓の練習と自由に過ごしていいよ。

 僕は鳥ガラと豚骨スープを作っているから」


「スープ作りを手伝います。

 時間が出来れば弓の練習します」


「ありがとう、じゃあ手伝って」


「昼ご飯は何ですか?」


「牛丼」


「牛の丼?

 これから作るスープの料理ですか?」


「全く関係ない、スープは今後の為。

 丼はご飯物で僕が食べたいから」


 鳥ガラと豚骨を下処理してそれぞれ大鍋で煮込む。

 弓の練習に行かせて、牛丼を作る前に、魔法座学の教え方考える。


 難しい・・・知ってる事言ってもらって、それの解説でもするか。

 エルフだから魔法は詳しいだろうから、こんな魔法も有るよとかでもいいか。


「ただいまー」


 おっと、もう昼ご飯時間か。


「よし、作るか!

 草原牛肉を薄く切って」


 おっ、包丁の使い方が様になってきてる。


「タレは醤油、料理酒、みりん、砂糖、擦ったニンニクを合わせておいて」


「はい」


「フライパンに油ひいて、草原牛肉の薄切りを両面に焦げ目が付くぐらい焼き、タレを掛けしっかり絡め半分ぐらいに煮詰めて、丼ご飯の上に掛けて出来上がり」


 パクパク、モグモグ。


「美味いだろう」


「美味しいです!

 何杯でもいけそうです」

 大食いだなぁ。


「有るだけ食べていいよ!」


「遠慮なく、いただきます」


 本当に遠慮なく食ってる。

 フライパンいっぱいに作ったはずなのに無くなってしまった。


 片付けを頼み、書庫で座学をすること旨を伝える。



 秘密のスキルでホワイトボードセットを取り寄せる。


 コンコン。


「シルヴィーです」


「どうぞ、入ってください」


 シルヴィーは初めて書庫に入った。

 棚に整理された本がズラリと並んでいる。

 町の本屋さんレベル。

 行った事無いけど。


 左右の本を見ながら、少年の前に行く。

 手でシングルのソファーに座る様に促された。

 対面のダブルのソファーに少年が座る。


「この部屋は初めてだよね」


「はい、初めて入りました」


「これからここの部屋は自由に使ってもらっていいよ」


「ありがとうございます。

 私は大陸共通語しか理解出来ませんが、ここはそれ以外の言語の本も有る様ですが」


「それは問題ないよ。

 他言語なのは表紙だけで、中は共通語で書かれているから。

 開いて見れば読めるよ」


「では、始めよう。

 先ず魔法について知ってる事を教えて下さい」





























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