第8話 探索


 チュンチュン。


「おはようございます。

 はい、起きて。

 今日は巡回だから、用意する事が沢山あるよー」


「はーい!」


 抱きつかれキスをしてくる。


「いいから、早く用意するよ」


 この日はいつも通りの朝と違い弁当を作る。


 塩おにぎりを10個、味付け海苔は別に用意。

 ちょっとだけ甘目の玉子焼き。

 昨日の残りの唐揚げ。

 ポテサラ、チーちくキュカンバ=キュウリ、おやつにポテトフライを弁当箱に入れバッグに収納。

 調味料も入れておく。


 灰色地に膝、肘、胴、背中が黒のコンバットウェアとパンツ、ワンタッチTベルト、指抜き黒ガントレット、黒のハーフブーツ、キャップを着る。


 完全に中二病だが、まだ中坊じゃないから小六病か!

 一応、替え服をバッグに収納。


 150cm程の森豚の骨を強化し先を尖らせた骨の棒に、腰には肉食恐竜レックスの骨を強化した細身の刃長40cmと30cmの2本の内の40cmの方の剣鉈を装着で準備完了!


「お姉さん、準備出来た?」


 と言って寝室に入ると、ベッドに腰掛けていた。


「どうしたの?」


「そっちの服着てみたい。

 着心地良さそう」


 はぁ〜、こいつ何言ってんだ?


「僕が思うエルフの服装だから、それで十分いいと思うよ」

 やれ格好いいとか、かわいいとか、似合ってるとか言って説得30分。


「じゃあ、行きましょう」

 行く前から疲れるわ。


「これから使う魔法は他言無用。

 絶対誰にも、親兄弟にも話さないと誓えるか?

 誓えるなら一緒に、誓えないなら連れて行かない」


 いつになく真剣に問いただし、お姉さんも真顔になる。

 どう判断する?


「私は今、君にお世話になっている。

 だけど、何1つ恩を返せていない。

 でも君は1回も恩を返せと言わず、恩着せがましい事も一切しなかった。

 むしろ私の為に、一生懸命に武器まで作ってくれた。

 頼ってばかりでもうし訳なく思っている。

 それに私は命まで助けられた。

 この1つの事だけで、私は君との誓いに命を懸けらる!」


「そこまで?」

ちょっと重い気が・・・


「当然だ!絶対誰にも話さないと誓う!」


「ありがとう。

 僕はただ思う通りに、したい事をしてただけなんだけどな・・・

 でも、せっかく助かったんだから、命まで懸けんでもいいよ。

 僕自身を否定したり、裏切る事の無い限りは!」


「わかった!」


「行く前にこれをあげよう」


 新しい刀を作ったらあげると言ってた刃長50cmのアースドラゴンの骨の刀を渡す。


「え、いいの?」


「僕にはこれが有るから」

 と言って白い刃のレックス骨の剣鉈を見せる。


「やったー!嬉しい!」


 めっちゃ喜んでる。

 今、抜かんでいいから。

 危ないから室内で振り回すな。

 もうだいぶ時間が押してるんですけど・・・


「じゃあ魔法使うから、僕の手を握って」


 握られた事を確認して、お姉さんが倒れてた川辺に転移魔法発動!



 小屋の中に居たはずなのに、風が体にあたる、運ばれて来る森の匂い、水の流れる音が聞こえる。


「目を開けていいよ」

 隣から声をかけられる。


 ゆっくり目を開けると、景色が一変してた。


「えっ、まさか、転移魔法?

 大昔の魔法隆盛時代には頻繁に使われてたらしいけど、度重なる戦争と魔物の大氾濫により失伝したと言われてたはずなのに何で?」


「いろいろ聞きたい事がある様だけど、今はここの場所について言っとくよ」


「あっ、ここ何処?」

キョロキョロする。


「ここはお姉さんが倒れてた場所だよ。

 対岸が牙猿達が居た所」


 お姉さんは目を見開き、対岸を睨んだ。


「これで秘密の1つが分かったと思うけど」


「あっ、もしかして私を見つけて小屋迄行くのに歩いてたら50日は掛かるって言うのは」


「そう。転移であっという間です」

 納得した様な顔をしてる。


 続けて話す。

「僕は向こうの森の中から川沿いを下って、遺構の探索をしてたんだ。

 そしたら、敵意のある咆哮を聞いて、お姉さんが倒れていたここに来たんだ」

 お姉さんは辺りを見まわす。


「ここに来たって言う事は、お姉さんの集落は近いって事だけど、見覚えない?」


「覚えてない。

 川に飛び込んだところまでは覚えてるけど、逃げるのが精一杯で場所まで覚えてない・・・」


「ここには流されて来たから、

 川に飛び込み流された。

 牙猿に襲われ逃げた。

 森猪を深追い。

 森猪を見つけた。

 集落を出発。

 逆からだとこうゆういう感じかな?」


「うん、だと思う」


「後はそれぞれどのくらいの時間を要したかが分かれば、見つけるのはそんなに難しくない」


「見つかるの?」


「見つかるよ。

 今日でも、明日でも帰りたい時に帰してあげられる。

 どうする?」


「いや、いい。

 強くなるまで帰らない」


 えっ!強くなるまでって、俺まだ了解したって言ってないよね。


「まだ、決めてないからその話はまた今度。

 それより、何処ら辺から飛び込んだか、おおよその場所を探すよ」


「はい!」


 また他のエルフとの遭遇を考えて感知と阻害スキルを使いながら川の上流へ向かって進む。


「いつ頃川に飛び込んだのかは分かる?」


「暗くなり始めた頃かなぁ」


「18時過ぎてるなら、飛び込んでから僕が見つけるまで、半日以上は経ってる。

 大怪我して川で半日以上、良く生きてたな〜」


「そんなに・・・」


「エルフだし、精霊にでも守られてたのだろう。

 人族なら確実に死んでる。

 おそらく早いうちに川岸に流れ着いたんだと思う」


「それに牙猿が半日以上も川を流れる獲物を追うとは思えない。

 奴等の縄張りの範囲で考えた方がいい」


「私が倒れてた場所から10kmぐらい?」


「から最大20kmまで」


 4時間ちょっとで8km程上流に来た。


「ここからは対岸に渡って戦闘の痕跡を探すよ。

 その前に昼ご飯の弁当にしよう」


 川原に敷物を敷いて弁当を広げて食べる。

 俺が海苔でおにぎりを包んで食べてると変な目で見てくる。


「黒い紙を食べてる・・・」


「食ってみろ」

 問答無用で食べさせる。


 味付け海苔のパリパリ感とおにぎりの塩加減が良かったらしい。

 笑顔で食べてる。


 唐揚げにはマヨネーズがいいそうだ。

 いや、俺は塩胡椒派だし。

 そしてレモンはかけない。

 他のおかずもおやつも好評。

 作ったかいがある。


 そしてうっかりに気付く。

 飛行スキルでヒョイのつもりだったけど、普通は対岸に渡るって川の中を移動って事だよね。

 濡れるし、泳ぐの得意じゃないから流されるって。


 転移を見せてるし、まぁいいか。


「また黙ってて欲しい事があるから」


 近寄って抱きついて、ヒョイっとフライを発動。

 あっという間に対岸へ到達。

 お姉さんは抱きつかれ喜び、飛行して青くなる。


「これも秘密ね、黙ってて」


 コクコク頷くだけ。


「これから更に上流に向かうけど、例の牙猿に会ったら敵は取らせてあげる」


「今の私じゃ勝てないよ」

 しょんぼりしてしまう。


「大丈夫!僕があと一撃で倒せるぐらい弱らせるから」


「それって私の敵討ちになるの?

 実力で倒したい」

 また面倒な事を・・・


「実力でか・・・なら今回は見つけても放っとこう」


 踏み荒らされ、枝木が所々折られた場所はすぐに見つけられた。

 後は何処まで続いているかだ。


 対岸の探索から2時間、川から離れる方に跡が有った。


「どうする?

 跡を追ってもいいし、引き返してもいい」


「まだ先に進みたい」


「わかった。

 跡を追うだけじゃなく、周囲の警戒を怠らないよう」

 俺は感知で分かるけど。


 更に2時間程跡を追ったが、無くなってしまった。


「この辺りでは戦いの跡はないな。

 逃げに徹してた所かな?」


「う〜ん・・・よく覚えてない」


「もうじき暗くなる。

 今日の探索はここまでにして、小屋に帰ろう」


 剣鉈で見通しの悪い辺りの木を切り倒し、2m四方の空間を作る。


 その中に転移魔法陣を描いている最中に牙猿の吠える声が聞こえた。


 お姉さんが緊張する。

 俺は気にする事なく魔法陣を描き終えた。


「牙猿の姿だけでも見ておく?」


「いや、いい。

 憎しみで勝てないのに突っ込んでしまうかもしれない。

 なら、見ない方がいい」


「わかった、なら転移魔法で戻るから、手を握って」



 小屋に戻って来た。







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