第5話 武器


 お姉さんは満面の笑みで、

「ありがとう、頼ってもいい?」


 会って間もないのに何故か信じられてる。


「もちろん!」


「でも弓矢と刀?は作ってね。

 あっちの刀?は貰って帰るから」

 ちゃっかりしてるな〜。


「はい、はい!」


 笑いながら聞いてくる。


「ところで話せる事と話せない事って何かしら?

 倒れてた所からここまでどうやって来たのかも」


「眠いし今日はもう寝よう」


「まぁいいわ、お子様ね。

 今日はベッドで寝なさい。

 君のベッドよ。

 私も一緒に寝るから」


「えぇ〜」


 俺と交代でソファーで寝るという発想はないんだな。

 一度あのベッドと布団で寝たら他では寝たくないか。


「何よ、いいじゃない」


 引きずられて、ベッドへ。


 左側から腕に抱きつかれる。


「寝にくいよ」


「あら、胸をポンポンしながら、子守唄でも歌ってあげましょうか?」


「余計眠れないよ。僕の安眠の為に、静かにじっとして寝てよ」


「「おやすみなさい」」



 重い!

 お姉さんの足が腹の上に。



 痛い!

 お姉さんの膝が脇腹に。



 痛い!

 今度は腕が顔面に。



 寝苦しい!

 胸の上に頭が。

 こいつ、めちゃくちゃ寝相が悪い!



 チュンチュン。


「おはよう」


「ん?」


「朝よ」


 大欠伸をして。

「おはようございます」


「お寝坊さんね」

 と鼻を突かれる。


 貴女のせいで寝不足ですと声を大にしてに言ってやりたい。

 これならソファーで寝た方がぐっすり寝れる。


 朝ご飯を済ませて矢作りを始める。

 昨日と同じ様に想造魔法で教えてもらった通りの矢の長さ、篦の太さ、バランス、矢尻の形状と矢筈、1つ1つの部品を加工して、1式揃ったら組み立てる。

 矢羽の成形と取り付けはお姉さんに任せる。


「100本有ればい〜い?」


「そんなに持ち歩けないよ」


「ちょっと待ってて」


 倉庫に入って行く。


「じゃあこれあげる。腰巻型収納バッグ。

 前に使ってて、今は違うの使ってるから。

 お姉さんの体重60kgぐらいの容量は入るよ」


「一言多いのよ!

 それってマジックバッグ?」


「・・・うん、便利だよね」

 こっちのマジックバッグがどんなのかは知らないが、これは俺が作った亜空間収納バッグ。


「昔作られた物が今でも使われてるけど、新しい物は遺跡とかダンジョンでしか手に入らないのになんで持ってるの?」


「え〜っと・・・見つけた」


「嘘!もしかしてだけど、作ったの?」

 目力が強いよ・・・


「・・・はい、作りました」


「この小屋もそうだけど、君はいったい何者?」


「今は話せない事かな」


「今はね」

 ジト目。


「それより、バッグをお姉さんに認証しとくよ。

 だからお腹出して」


「やらしい」

 更にジト目。


「違うよ、お姉さんとバッグに空間、認証魔法陣を描いておくと、お姉さんしか開けられない様になるんだよ。

 それにお腹の魔法陣にお姉さんの魔力を流すと手元に戻って来る仕様にするんだよ。

 魔法陣は透明にするから目に見えないよ」


 そんなの知らない。


「まぁ見えないならいいか。

 これが有ると手荷物少なくなるし、大事な物を入れとけるよね。

 有り難く使わせてもらいます。

 もし私が死んだらず〜っと開かないままなの?」


「僕が開けられるよ。

 だから見られて恥ずかしい物は入れないでね」

 思いっきり笑ってやった。



 黙々と作業する。


「100本ならあと3日ぐらいかな。

 あっ、調整があるから弓も作らないと」


「今日は矢だけで、弓は明日ね。

 お姉さんは弓が出来るまでは、矢羽作りと組み付けをお願いね。

 揃ったら試射して調整で済めばいいけど、駄目なら作り直すから」


 昼ご飯を食べてからもまたひたすら矢の制作。


 疲れたー。

 晩ご飯はご要望に応えて生姜焼き。

 ちゃちゃっと作って食べる。

 後は風呂入って寝るだけ。


 ここから目付きの変わる奴がいる。

 案の定また一緒に入ろうと誘って来る。


 いい事思いついた。

「よし入ろう」


 体を洗われて、先に湯船にドボン。

 1人でゆっくり浸かる。


 自分の体を洗って髪が長いから時間がかかるはず。

 終わる頃には逆上せたと言って先に出る。


 お姉さんがゆっくり浸かってる間にさっさとソファーで寝る。

 完璧だ。


 おやすみなさい。



 痛い!膝が。

 あれ?確かソファーで寝てたはずなのになんでベッド?

 こいつ俺が寝てる間に移動させたな。

 ソファーに戻って寝る。



 ん?またベッド?

 せっかく俺がソファーで気持ちよく寝てるのに。

 眠いし面倒くさいからこのまま寝ちゃえ。



 チュンチュン。


 やっぱりちょっと寝不足。

 起こさぬ様に抱きつかれた腕をほどいてベッドを後にする。


 今日は弓の加工、試射後に調整もするから気合いをいれなきゃ。

 テキパキと朝ご飯を調理し、寝坊助を起こす。


 朝起きて歯磨き、味が変なのか匂いが嫌なのか、朝起き後、寝る前、毎食後は毎回不快になってる。慣れろ!


 朝ご飯を食べる。

 冒険服に着替えて、鏡の前で髪を梳かして準備完了、らしい。


 よしやるか!

 弓の重さから長さ、バランス、弦の張り、握り具合と指示通りに加し模擬機を組み立てしていく。


 試射してもらい改善箇所を出してもらう。

 模擬機を改善して再び試射してもらう。

 微調整は必要だけど合格点はもらえた。

 切りがいいので早いが昼ご飯にしよう。


「「ごちそうさまでした」」


 こっからが本番!

 想造魔法でトレントを絞った樹液の中に粉々にしたアースドラゴンの鱗と骨を混ぜ融解させる。

 亜空間でハニカム構造で極薄のシート状に成形。

 何層にも重ね弓の形に整形する。

 高温熱処理して形を固定して完成。


 弦はシルクとデーモンスパイダーの糸を撚り合わせる。

 お互いが均一に融合する様に魔力を流し、1本の弦になれば完成。


 この2つの作業だけで9時間以上。

 魔力を使い続け、ぶっ倒れる寸前。


「今日試射するなら、ごめんやけど弦は自分で張って。」


 ふらふらでベッドに。

 その日は晩ご飯も食べずに朝まで眠ってた。



 チュンチュン。


 何日かぶりに熟睡出来た。

 エルフが隣で寝てるけど、今日は大人しい。


 さて、腹が減ったし、朝ご飯食べながら俺が寝た後の事でも聞こう。


「歯磨きしたら朝ご飯食べるよー」


 パクパク。


「弦は張った?」


「張り方は知ってるけど、君の張り方が見てみたかったから張ってない」


「晩ご飯は何食べたの?」


「森豚肉を塩胡椒で、1人で食べた。

 お風呂も1人で入った」

 睨まれた。


「そう拗ねるな。

 僕は今までずっと1人で居たんだ。

 他人との関わりに戸惑うのは理解して。

 それよりなんで一緒に居たがる?

 会って3日程しか経ってないのに」


 と、少年に言われシルヴィーは、

「私もなんでかはわからないけど、君と一緒にいるとホッとすると言うか安心感があるのよ。

 お風呂とかベッドで一緒でいると何とも言えない幸福を感じるのよ」


 怖っ!俺からなんか出てるの?


「何それ?幸福を感じるのはいいけど、ここの小屋の主人は僕で1人で住んでいる。

 だから僕の気持ちとかも考えて行動して」


「はーい」


 俺は今までの1人生活が2人になっただけで、お姉さんはお客さんだよという思いが伝わったと思い、シルヴィーの方は一緒居るお墨付きを得たと思い、一層絡む様になる。


「じゃあ、弦を張って試射しよう」


 弦の張り方はほとんど違わなかった。

 先ず素引きで試してる。


「もうちょっと弱く出来る?」


「その前にしっかり握れるようにグリップを直したい。

 その方が力を出せると思うから」


 ちょっとずつ調整しながら、しっかり握れるようになった。


「これで矢を番えて引いてみて」


「うん、やっぱりもうちょっと弱い方が使いやすい」


「了解!」


 想造魔法で修正。


「これでどうかな?」


「うん、いい感じ!」


「じゃあ近くの的から打っていって感覚を確かめて」


 そう言って約20m、40m、60mに木板を設置。


「直進性、威力、操作性とかで気になる所は教えて、小屋で矢を作っとくから」


 後ろからパシュパシュ打つ音が聞こえる。

 気が済んだら矢羽作りに戻るだろう。たぶん。



 昼ご飯なのに戻って来ない。


「昼ご飯出来たよー」


 あれ、居ない?

 矢を拾いに行ってるのかな?

 森の中に入って行く。


「お姉さ〜ん、どこ〜」


 奥から出て来た。

 手に獲物を持っている。


「矢を拾いに行ったら、牙猿より小さいけど、似た魔物を見つけたから狩った。 

 もう昼ご飯?」


「そいつは爪猿。

 賢くって素早く、強くないけど爪で攻撃してくる。

 よく当てられたね。

 それより昼ご飯」


 畑の横の水路で血抜きをしとく様に。

 昼ご飯を食べながら弓について聞く。


「どうだった?」


「凄くいいよ!

 矢もブレが小さいし真っ直ぐ速く飛ぶ。

 軽いし衝撃も小さく狙い易いし威力も強い。

 早打ちも問題ない。

 これ使ったらもう他の弓は使えないよ」


「よかった、気に入ってくれて。

 食べ終わったら矢を完成させていこう」



 晩ご飯まで2人で矢を作り続けた。


 暗くなって来たから、晩ご飯にしよう。

 片付けをして血抜きした爪猿を回収する。







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