第4話 文明の利器

 

 ご飯はそうでもなかったようだが、生姜焼きは絶品だったらしい。


 片付けをしてると、包丁をじっと見てる。

 ここに居る間に武器を作るって言ってたから、多分欲しいんだろうなー。


 弓が主武器だから近接戦闘に剣は必要だろうし・・・

 包丁がナイフ代わり・・・無理というか、格好悪い。

 でも身長170cmからすると刃長50cmは短い気がするが・・・

 ショートソードの代わりならコレでいいか。


「弓矢を作ったら僕の新しい刀を作るから、その後ならコレあげるよ」


 と腰の刀を指差した。


 生姜焼きを食った時より笑顔で、

「ありがとう!!」


 包丁を持ったまま抱きついて来た。


「あぶねー!包丁は離せ」


 主張しすぎない胸に顔が押し付けられる。

 前に見た全裸を思い出してニヤけてしまった。


 少年が良からぬ顔している間もエルフは喜び、変な踊りをしてる。

 だから、包丁を振り回すな。


「アホな事せんと、片付けたら風呂入ってさっさと寝るぞ」


 勢い良く顔だけ向けて


「風呂ってあの風呂?」


「あの風呂が何かは知らんけど、身体がスッポリ入る大きい器にお湯を張って入る設備だよ」


「昨日は寝てたし、疲れてただろうから言わなかったけど、今日の様子を見たら大丈夫そうだからね。

 先に入ればいい」


「お湯?水風呂なら川で入った事がある」


「まぁいいわ。

 使い方教えるからついて来て」


 風呂場で、

「脱いだ服はこの籠に入れて。

 僕が入る前にまとめてクリーンをかけるから」


「お湯はこの取っ手を下にする。

 下にする程勢いよく出る」

 ジャーっと出して見せる。


「こっちのつまみは温度を変えられる。

 青が冷たくて赤が熱くなる」

 蛇口から水を出しながら、赤側に回しお湯を出して見せる。

「僕は40〜42度でお湯を貯める。

 この目盛りを250Lに合わせてお湯を入れると、勝手に止まってくれるから。

 食事前に入れ始めれば、お湯が貯まるのを待つ無駄が無くなる」


「先ずお湯に浸かる前には必ず体を洗う事!」


「これが体を洗うボディーソープ、こっちが髪を洗うシャンプーと髪のダメージを治して綺麗にするトリートメント」

 それぞれ手に取って説明する。


「洗体タオルに、こうやって上を1回押して液を出して泡立てて体を洗う。

 済んだら浴槽からお湯を桶でくんで流すか、この取っ手を上にしてシャワーで流す。

 上にする程勢いよく出る」

 シャーっとシャワーを出して見せる。


「シャンプーは先に髪を濡らして、こうやって手に取っ泡立ててから髪に付け優しく洗う。

 シャワーでしっかり流す。

 水気をとってトリートメントを髪全体に馴染ませ10分くらいしてシャワーで優しくしっかり流す」


「後は湯船にゆっくり浸かる。

 体の芯から温まったら風呂から出て。

 長時間入ってると逆上せるから注意する事」


「お風呂から出たら、体の水滴をこのバスタオルで拭いて着替えて髪を乾かせば終わり」


「・・・」

返事が無いけど分かったのかな?


「とりあえず使い方は聞いた。

 分からなかったら呼ぶね。

 後、私着替え持って無いけど・・・」


 そうだった。血塗れで倒れてるのを助けた時、荷物はなにも持ってなかった


「僕の服で大きいのをここに用意しとくから出たら着てみて」


 と言ってさっさと洗面所を出る。


 ソファーに座りこれからの事を考える。


 あのエルフはいつまでここに居るのか?


 自分の集落に帰る時、俺とこの小屋の事をどうやって喋らない様にさせるか?


 喋ると言うなら口封じを考えなくては。

 相手の精神や感情などを支配したり操作出来ればいいが、想造魔法でも何かの制約があって作れないし、おそらく使えないだろう。


 喋らないなら同意させて、契約魔法で縛るか。


 喋らない契約で帰るならどこかの森って言ってたけど、どうやって帰すか?

 群れとはいえ牙猿に手こずる様なら1人で帰せば絶対生きて着けないな。


 俺が一緒に付いて行く?

 名前が付いててもどこそこ森なんか知らんし、着くまで時間かかりそうだけど、そうなったらそっなったで仕方ないか。


 まさか居つく事はないよな。


 よく考えてみたら俺から出来る事ってないじゃん。

 全部あのエルフがどうするかで俺の考えが行動に移せる。


 あっ、出来る事あった。

 追い出すか始末する。


 せっかく助けたんだからどっちもしたくはないけど、俺が嫌いになったり居心地悪くなったり、思考や行動が同調出来ないならやむを得ない。



「ん、呼んでる?」


 はぁ〜っとため息を吐き風呂場へ。


 戸をノックして、

「呼んだ?」


「ごめ〜ん、ちょっと熱いし、泡立たないの」


「このつまみを少しだけ青の方に回して、取っ手を上にあげてみて」


「ひゃっ、冷たくなり過ぎた!」


「そしたら少し赤の方に回して温度を調整して」


「ちょうど良くなった!」


「じゃあ、髪の泡は一度シャワーで流して、もう1回シャンプーを付けてみて」


「泡立った!」


「よかった。じゃあ」


「一緒に入らない?

 背中流してあげたい」


 うれしい!いや、まずい!どう返事しよう?


 子供でも一応男だから混浴は嬉しいけど、元気になったら恥ずかしいし、見たら悪い気持ちになるから断りたい気もあるし・・・

 

 理性と感情。


「・・・ははは、今日だけだぞ!」


 体は子供でも中身は20才の男だったのだ。

 理性なんて知るか!

 今は感情のままに生きるよう!


 着替えを用意して、すっぽんぽんで風呂場へ。

 椅子に座り体を洗ってもらう。 

 髪は自分で洗い、終わったら湯船に入る。


 足を畳んで対面に座るが、こっちに座れと自分の太ももを叩いている。

 何度もしつこく繰り返すから背を胸に預け太ももの上に座る。


 抱っこされて背中に柔らかい感触。


 悪くない。


 ふと左手を見て触ると、牙猿にやられ骨が剥き出しのボロボロだったのに良く治ったなと思う。

 

 耳元で、

「治してくれてありがとう。

 左手が使えないと弓も射れないし、生活が何もかも不自由になってるとこだった。

 あのままでは死んでたろうし、感謝してるわ」


 ぎゅ〜っと抱きつかれる。

 

 悪くない。

 物理的、精神的に気分がいい。


 逆上せる前に出よう。

 体を拭いてもらい部屋着に着替える。


 男物のボクサーパンツは履けるが、Tシャツはやっぱり丈が短かった。

 小屋の中でノーブラTシャツ、男物ボクサーパンツ姿でうろつく美女エルフ。

 本人が気にしてないのが不思議だ。

 同じぐらいの大きさの2着分を渡しておく。


 ドライヤーでの髪の乾かし方を教える。

 艶がめっちゃでてる。

 やっぱり青い目で金の様な銀の様な色の髪は映えるな。

 鏡の前の本人も驚いている。


 ここで爆弾発言。

「この魔道具もそうだけど、お風呂も調理場も照明も見た事ない魔道具だらけ。

 この鏡もこんなにはっきり映るなんて…シャンプーとかも。

 何、この小屋?」


 きたか。

 それよりこちらが聞きたい事を聞く。


「その前にお姉さんは今後どうするの?

 その返答によって話せる事と話せない事があるんだけど」


「帰りたいけど、ここが何処だかわからないし、帰る道がわかっても遠くならたどり着けるかどうかもわからない。

 出て行っても無残に死ぬくらいならここでの生活を本気で考えるわ」


 厳しい現実を教える。


「先ずお姉さんの居た集落迄はかなり遠いよ」


「僕は自分のテリトリーをたまに巡回するけど、お姉さんみたいなエルフ族に会った事が無い。

 僕のテリトリーの範囲はここを中心にして約500km」


「仮に範囲外までは真っ直ぐ平面を歩けても森の中だし草むらあって歩きにくいから31日ぐらいはかかるよ。

 因みにお姉さんが倒れてた場所は更にもう300km程先だから19日ぐらいか。

 合わせて約50日だね」


「でも実際は山や谷で起伏があって迂回したりしたらその倍の日数は掛かるでしょう」


「ちょっと待って。

 私は助けられてから目が覚めるまで、50日もかかったの?

 私を背負って歩き、50日も野営しながらここに帰って来たの?

 本当に君は何者なの?」


 おう!迫力ある。


「その話は今は無し、これからの事ではないし、僕についての事はおいおい話すよ」


「次にお姉さんの実力。

 牙猿相手に負ける様なら帰る事は出来ないよ。

 小屋の周りには強い魔物が滅多に出てこないけど、歩き4日分くらい離れた場所なら牙猿より強い奴は居る。

 賢い奴なら自分より強い相手には戦いを仕掛けて来ないけど、弱いと思ったら襲って来る。

 だからお姉さんが1人で帰ると言う事は死にに行くって事になるよ」


 お姉さんは真剣に考え込んだ。

 そりゃそうだ、自分の命がかかってんだからね。


 自分も出来る事ならお姉さんを集落に帰してあげたい。

 だから一歩踏み込んだ話をする。


「お姉さんが帰るなら僕が送ってあげるよ。

 僕にはお姉さんを守って集落まで送り届けられる力があるからね。

 だけど知らない土地だから時間はかかるかも」


 お姉さんは満面の笑みで、

「ありがとう、頼ってもいい?」








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