第3話 未知との遭遇


「大変な目に遭ったんだね」


「その後君に助けられた。

 怪我も傷も治ってるし痛い所は無い。

 あっ、古傷の跡まで残ってない」


 そして赤い顔のジト目で

「服まで綺麗に元に戻ってるんだけど・・・」


「お察しの通りです。

 服はズタボロで血塗れだったし、治療の為に身体を隅々まで診るのも仕方ないかと・・・」

 

 診察とはいえ美女エルフの全裸を見た少年も赤くなって答える。


 暫く沈黙したのち気まずくなって、

「食べれる様なら、しっかり食べて。

 おかわりもあるし。

 水分、ブドウ水もおかわりあるから飲んでね」


「ありがとう。

 おかわりもらえる?

これはワイン?じゃないわね。

 でも美味しいわ。

 あとここは何処かしら?」


「はい、どうぞ。

お酒は置いてないんだ。

あとここなんだけど」


 それから少年は少し考え、シルヴィーに告げる。


「ごめんね、この世界の地名は知らないんだ。

 だからここが何処か分からないから教えられない。

 他の種族とも会った事もない・・・

 1人で住んでるんだ。

 ここは大きな湖と山脈の間で、近くを川が流れ水も綺麗。

 一年中温暖で作物も良く育つし、食糧も豊富で住みやすいんだ」

 対岸のエルフは見ただけ。


 最後に少年はニッコリ笑う。


 シルヴィーは悲しそうな表情をするも、少年が笑顔になった事で話しを続けた。


「申し訳ないけど、体力が回復してもここに泊めてもらえないかしら?

 厚かましいお願いだけど、帰るのに必要な武器を作る手助けをして欲しい。

 帰るにしても武器を落としてしまったの。

 どうかな?

 駄目って言われると困るけど・・・」


「・・・・・・いいよ!

 治した骨も元の強さまで回復するにはもう少し時間がかかるだろうし、体力が戻ったら僕も武器作りを手伝うよ!

 だから今は養生して」

 武器無しで森歩きは出来ないしな。


 少年はテーブルの上の物を片付け照明を消し寝室を出て行った。

 真っ暗になった寝室でシルヴィーは考えていた。


 何故、少年が助けれた?

 1人で住んでる?

 いったい何者?

 分からない事だらけ。


 それにあの食器類はなんだったんだろう?

 白い器に銀とよく似た金属のスプーンとフォーク。

 驚くほど透明で向こうが見えるグラスとガラス製の容器。

 知らない物だらけ。


 今自身が包まっているベッドに布団も。

 ベッドは心地よく体が沈み柔らかい、布団は軽くふわふわなのに暖かい。

 夢でも見てるのかと思いつつもまぶたを閉じて眠った。



 チュンチュン。


 翌朝も少年が朝ご飯を作ってくれた。

 焼き魚と味噌汁におじや。また見た事も無い料理だ。

 とても滋味深そうな食事で美味しい。

 味噌汁なる物はしょっぱいが優しい味で、おじやも食べやすく美味しかった。


 魚の骨は取ってあったが、骨を取って食べるぐらいは、一応私にも出来るわよ。

 但し丸焼きか串焼きでかぶりついて食べるのだけど・・・


 食べ終わり小屋の外に出てみる。

 森の中だが土地が広がっている。

 正面は100m?もっと有るか?

 横幅で100mぐらいか。

 正面には真っ直ぐな道が続いている。 

 その両脇に畑があり、いろいろな作物がある様だ。

 タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ等々どれも聞いたことがないし、見た事が無い物まである。


 トマート=トマトだ。

 似ているが味は別物のように甘い。

 少年が世話をしているそうだ。


 雑草抜きの手伝いを申し出たが、今はいいと断られその辺でも散歩しとけと言われてしまった。

 但し小屋が見えなくなる所には行くなとも。


 迷うとでも?失礼な!

 これでもエルフとして108年生きてきて、人族の10才ぐらいのお子様に言われたくないわ!


 違った。

 ごく稀に魔物が出るから気遣っての事だった。

 武器を持ってないし。

 ごめんね。


 散歩から帰り少年の畑仕事を見ながらゆっくり時間が過ぎていく。


 昼にハンサという水鳥魔物の焼いた肉を食べ、その後は武器作りの材料を選んだ。

 

 骨と木と石の板?

 いつの時代の武器を作る?

 骨と木は鈍器、石の板は石斧?

 どれもエルフの私には扱いづらいよ。

 出来れば弓がいいんだけど・・・

 

 説明を受ける。

 木はトレント、骨はアースドラゴンの尻尾の骨、石の板みたいな物もアースドラゴンの尻尾の鱗だと。

 他にも色々倉庫にあるらしい。

 開いた口が塞がらない。


 ふと少年の腰を見ると刃長50cm程の剣。

 抜いて見せてもらうと赤黒い。


 私の鑑定レベル低いから???だった。

 長く生きた私でも見た事ない素材と、片刃の真っ直ぐじゃない剣を何故この少年が?


 そんな疑問を無視して少年が話す。


 「弓ならトレントの枝木を軸にしてアースドラゴンの骨と鱗を粉にして融解と熱処理で軽さと耐久力、強度と弾性を持たせ小さい力で弾ける弓を作ろうか。

 弦はデーモンスパイダーとシルクスパイダーの糸を融合して強度と弾性と耐久力を上げておこう。

 矢は一般的な矢竹を使って、反り防止と硬度を上げるにはドラゴンの骨がいいのだが、少ないから森豚の骨を粉にして被膜だけにしとこう。

 羽は白い水鳥魔物のハンサで、矢尻は切れ味鋭い黒鋼石が有るからそれでいいか。

 弓矢に関しては部品は作るから、組み立ては自分でやってね。

 弓の大きさ、矢の長さ、弦の強さ、バランスとか加工の度に教えて」


 少年はとんでもない事をさらりと言いながら材料を用意していく。


 どんな弓矢が出来るのか、素材を見れば恐ろしい。

 でもそれが自分の武器になると思えばワクワクが止められない。

 こんな弓、集落の誰も持ってない。


「ふふふふ」


 少年に変な目で見られていた。

 自然と笑みが出て来てた様だ。


 気を取り直して、魔力を流し想造魔法?の加工で先ず素材を粉々にするそうだ。

 素材の融合、浸透と均一化と維持等が難しいらしく、時間が掛かるし魔力もかなり使うと言うが、こんな方法知らない。


 今日は素材の加工のみに止めて翌日にした。

 私はただ見てるだけだった。


 晩ご飯作る様だ。

 手伝いを申し出て一緒に作る事になった。

 何を作るのかを聞くと


「生姜焼き」

 と返ってきた。


 何それ?知らんよ。


 アニャン=タマネギはクシ切りに森豚肉の塊は薄切りしてと、タマネギと肉のかたまりと包丁を渡された。


「???」

 ごめん、そんな切り方知らない。


 タマネギは丸焼きにして焦げた所は捨てて中身だけ食べるんじゃないの?

 肉も適当に切って塩を振って焼んじゃないの?


 それに渡されたこの赤黒い色の包丁、私の鑑定では分からないあの剣と同じ素材の物では?

 まじまじと見る。


 じーっと見られてて一言、

「お姉さん、料理出来ないのね」


 名乗られたけど、ど忘れしてお姉さん呼び。

 名乗ったけどお姉さん呼びされた。

 でも、悪くないかも。


「そんな事ないわ…そりゃ凝った料理は作れないけど、エルフは素材の味を味わうのよ」


 苦し紛れの言い訳をこのエルフは吐くが、要は適当に切って塩を振って焼くか煮るだけしか出来ないようだ。


 仕方ない。

 料理する前に視線が釘付けの包丁の説明からしよう。


「その包丁はお姉さんが思ってる通り、この刀と同じ素材、作り方で出来てる。

 素材はアースドラゴンの尻尾の骨から作ってある。

 亜空間でドラゴンの骨を超微細加工して同じく骨髄を超高真空状態で高密度で融合させ、超高温状態で高濃度の魔力を流しながら高圧縮焼結して作ったんだ」


「あわわわ・・・

 これアースドラゴンの骨。

 しかもなんで包丁なんかに」


「なんでって、包丁の使い道って何だ?

 切る事だろ」


「そうだけど」


「じゃあ、骨付き肉を料理するのに普通の包丁じゃ固くて切り難いって知ってるでしょ。

 料理しやすいから切れ味がいい包丁を使うの当たり前だろ」


「それでもアースドラゴンの骨で包丁は・・・いや、切りやすいから・・・」



 驚いたり繁々と眺めたりぶつぶつ言ったり変なエルフだな。


 結局このエルフは料理出来ないから、1人で料理を作ろう。


 アニャン=タマネギはクシ切り森豚肉は3ミリ厚程に切って薄力粉をまぶす。

 フライパンに油を引いてタマネギを焼き、しんなりしたら切った森豚肉を追加して焼く。

 すった生姜、醤油、料理酒、砂糖でタレを作りフライパンへ。

 しっかり絡める。

 皿に千切りキャビッヂ=キャベツを乗せ、生姜焼きを盛り付けて出来上がりだ。

 ご飯をよそって、さあ召し上がれ。


「いただきます」

「いた だきます」


 パクパク。


「ふぁ〜〜〜!」

 どっから声出してんだ。


「美味いか?」


「美味しい、こんなの食べた事ない!」


「そうか、良かった」


「美味すぎて、ついがっついて全部食べちゃった」


「おかわり有るよ」


「お願いします」


 ・・・完食。

「もうお腹いっぱい」


「それは良かった」


「ごちそうさまでした」

「ご ち そう さまで した」


「両手を合わせて、いただきますは食べる前に、ごちそうさまでしたは食べた後にする感謝と敬意の言葉だよ。

 食べる時には毎回やるよ」


 ご飯はそうでもなかったようだが、生姜焼きは絶品だったらしい。


 



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