第2話 ファーストコンタクト
ガガイア大陸中央部バロア大秘境には名も無き大きな湖が有る。
周囲の山々から川が流れ込んでいるが、流出口は北に向かう1つだけと言うのは、この世界ではまだ知られていない。
いや、この大秘境で点在して暮らす長命種のエルフならば知る者もいるかもしれない。
そもそもこの大秘境はどんな所か全容は解明されていない。
ただわかっている事は魔物が蔓延る弱肉強食の世界であり、山に囲まれ進入部が密林の大地と言う事だけで、その先は人族未踏地だ。
統一後約500年のグラスデン帝国バロア大秘境の入植最前線の街ロストルは、近年エルフ族との交易が活発な街である。
エルフ族から商業組合にある情報がもたらされた。
エルフ族の言うシュワブル川の対岸で1人の人族を見かけた。
おそらくその先の森の中で暮らしているはずだと言う。
川までは遠くないが、暮らしている場所は川からどのくらい離れているのか、エルフ族でも見つけるのが困難だとも言う。
強力な魔物が蔓延る川の対岸の未踏地の調査は、計画が立て難く人的被害が計り知れない。
ここは上級の冒険者パーティーが興味を持って調査に行き結果を持って帰るのを待つか、徐々に徐々に開発を進めて接触するしかない。
年数が掛かり過ぎて生きてる間には無理かも知れないと思った。
組合長はそうしたためた手紙を領主である、バッハウ辺境伯麾下エレンツ男爵に送った。
シーンの森のエルフ族シルヴィーは弓と風属性魔法を使うエルフとしては若い戦士だ。
その日シルヴィーは他の若い戦士2人と共に森猪の狩りに出かけていた。
首尾よく発見し傷を負わせたが森猪は逃げ出し、シルヴィー達はトドメを刺そうと追っていた。
運の悪い事に逃げた方向に牙猿の群れがおり、森猪が血を撒き散らしながら突進した為、シルヴィー達も牙猿からの攻撃を受ける事になった。
地上から樹上からの攻撃に1人また1人と倒れついにシルヴィー1人になった。
武器は落とし、魔法で応戦しながらなりふり構わずに逃げ回った。
目の前に川を見つけ最後の力を振り絞り飛び込んだ。
水嫌いの牙猿は追って来ないはずだ。
シルヴィーは怪我の失血と体力を使い果たし川の半ばで動かなくなった。
川はシルヴィーを優しく包み流れて行く。
その少年は古代の遺跡を求め、南の森の中を探索していた。
と言うのも約1年半=約600日前に、自分のテリトリー巡回中に南方の400km付近で人工物の痕跡を見つけたのだ。
石が積み上げられた高さ50cm縦横80cm程の2つの構造物の跡。
苔むして隙間からは蔓が生え一見切り株の様に見えた。
そこからこんもり生い茂った草木が、同じ高さで続いている。
もしかして土塁の跡?
さっきの石積み2つは門か?
なら生活の跡もあるはずと辺りを探索する。
木造物は朽ち果て森と一体化、石や鉄等は大きな物でない限り草木に埋まり見つけられない。
何者かによって石積みが作られた事しか分からない。
誰かが暮らしていた事は確か。
人族が1人だけでこの構造物を作り、生活する事は不可能なはずだ。
家族か一族が又は集団が移動してここに定住した?
ならば水源は?今はない。
水源が涸れて放棄した?
いや、そもそも昔は森ではなかった?
想像でしかない。
それから少年はこの地域にロマンを求めていろいろ探索しまくる日々が続く。
探索を始めて約1ヶ月=約40日後ごろ、木々が少なく大小様々な岩が転がる場所で、遺構らしき物を発見した。
それは大岩が左右に不自然に避けられ、南北にほぼ真っ直ぐ続く道の様に思えた。
地図スキルで最初に発見した石積み遺構の場所を確認してみると、この遺構が続く北を指している。
やはりこの遺構は道か?
となると南へ進めば何か発見出来るかも。
あれから更に4つの遺構を発見。
そして遺構を追って、自分のテリトリーより遥か南に来ているのだ。
川に辿り着き下流へ向かい、誰かが生活していた痕跡を探していた。
暫くして前方から敵意むき出しの咆哮が多数聞こえた。
警戒しながら向かう。
能力が高そうな1体のボス牙猿が率いる群れが対岸の川沿いで騒いでいる。
なんだ?と思いあたりを見れば、緑の人型が倒れている。
気が付かなかった。
なるほどと納得し、五月蝿いし鬱陶しいから嫌いな水魔法スキルのウォーターボールで牙猿を蹴散らす。
駆け寄るとエルフ族の女性の様だ。
かなりの怪我だ。
息も弱く、体も冷えている。
骨が見えてる左腕と深く切られてる背中にすぐに回復魔法スキルのハイヒールをかけた。
怪我や傷はハイヒールで治せても、失った血は元には戻らない。
他に怪我がないか全身を診べると、傷跡があったので跡も消しておいた。
生活魔法スキルのドライで服を乾かし、ズタボロに破れた所はリペアで、汚れはクリーンで直しておく。
荷物は何も所持していない。
このまま放置は危険なので、お姫様抱っこして転移魔法スキルで小屋まで戻る事にした。
念の為に、この場所の大岩の上に転移魔法陣を描いておく。
寝室の自分のベッドに寝かせ、昼ご飯にシチュー作って食べた。
そして探索の為に再び大岩の転移魔法陣の上に立っている。
対岸に居た牙猿達は流石にもう居ない。
が、人型の物体を対岸の遠くで目にした。
「ちっ!」
隠れる前にこっちも気付かれた。
直ぐにその人型の後方で、土魔法スキルのグラウンドムーブで地面を動かし、草木が揺れる音を立てる。
こちらに向いていた顔が後方へ向く。
直ぐ気配遮断、認識隠秘スキル発動!
感知阻害は常に掛けている、これでバレてないはず。
少年の願った通りになった。
人型はエルフだったが、この辺りを顔を左右に動かし探している風だった。
目視された時間は数秒。
人型とは思っても人族とは確定出来ないだろう。
しかし、このエルフが優秀だった事を知るのは先の話。
少年はこちらの情報を何ひとつ与えたくないし、正体を知られたくもない。
興味や警戒心を持たれて大人数で探されたりして、今の生活や趣味の探索の邪魔をされたくないのだ。
その時閃いた、このエルフにさっき助けた女エルフを連れ帰ってもらおうと。
認識隠秘と気配遮断したまま転移魔法でまた小屋まで戻る。
寝室のドアを開けた所で失敗に気付いた。
転移先が大岩、もし転移したら、女エルフを抱えた自分がモロ見えで正体がバレる可能性がある。
それは不味い。
暫く経って行く、もう付近に居なくてあんな所に弱ったままで放置したら死ぬかも。
少年は少し考え、転移を諦めた。
その後は気分転換に近くの川で釣りを楽しんで帰宅、晩ご飯を食べて風呂に入った。
ベッドを確認すると、お客さんはぐっすり寝ている。
今日はソファーで寝る。
チュンチュン。
翌日、朝ご飯を食べて寝室を覗くとお客さんはまだよく寝ていた。
今日は探索をせずに畑の世話と釣りを昼ご飯を挟んでした。
小屋に戻るとお客さんが壁を背にして起きていた。
「起きて大丈夫?」
「君が助けてくれたの?
ありがとう。
まだ身体が怠いし頭がボーッとするわ」
好きな声だ。
青く大きな瞳、まつ毛は長く、縦横のバランスが良くほど良い大きさのアーモンド型の目。
「かなり血を流してたから、まだ無理に体を動かさない方がいい。
食事は取れそう?
食べれるなら、ちょっとでも食べだ方がいいよ」
「ありがとう。頂くわ」
適度な高さで通った鼻筋、控えめな小鼻、厚すぎず薄すぎない口角が少し上がった唇。
「じゃあ用意するから待ってて」
少年は寝室を出て調理している様だ。
暫くすると甘くミルキーな香りがしてきた。
パンと具沢山の白いスープ?
少年がベッドの横にテーブルを配置して向かい合わせで食事する事になった。
なにコレ?
見た事も無い物がテーブルの上に有った。
「パンが柔らかい。
小麦粉のいい香り。
この白いスープも肉や野菜の旨味が美味しい」
頬骨とエラが出っ張らず丸味が有る頬と顎は小さくスッキリしたフェイスライン。
「良かった、口に合って。
それはシチューって言う食べ物なんだ」
「改めて助けてくれてありがとうね」
眉目鼻口の位置のバランスが好みでいい。
めちゃくちゃ美人じゃねーか!
シルヴィーは話し始める、
「私はシーンの森のエルフ族シルヴィー。
仲間2人と共に森猪を追っていて、深追いしすぎて牙猿の群れに突っ込んでしまったの。
仲間が次々と討たれ、ただひたすらに逃げて、川を見つけ飛び込んだ所迄は覚えている」
何が起きたか覚えている事を教えてくれたが、少年は上の空。
それよりもだ!
見て知ってはいたが白い肌、金の様な銀の様な色の髪で軽いウェーブが掛かったセミロングの美女!
これがエルフか?
エルフは皆んなこうなのか?
「神様、女神様、仏様、私をこの世界に導いて下さった皆様方、本当にありがとうございます」
会った記憶はないが、感謝せずにはいられない。
「大変な目に遭ったんだね」
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