マイペースに生きる! 〜平穏無事な生活を送りたい。邪魔者は排除します!〜

波濫万城

第1章 不思議な少年

第1話 とある世界の片隅で


 数億?数千万年前に4つあった大陸が移動し1つになったガガイア大陸。


 大陸中央部の広大なバロア大秘境は、東西には万年雪を頂く南北に連なる大山脈があり、南部にはこの大陸最高峰の山がある山脈に囲まれている。


 山脈から続く高地や低山帯、裾野に広がる大草原。

 本州がスッポリ入る程の湖。

 草木も育たちにくい乾燥地の様な土地もあれば、巨木が生い茂る幻想的な森林もある。


 大陸北部は極寒地帯でコケ類等が育つ程度で農産物には向かない土地であり、南部は高温多湿な熱帯多雨林地帯でさながらジャングルを思わせる。


 この秘境、3方向を山に囲まれている為、外に向かう大河は唯一北部に向かう川のみであり、小さい川は有るものの手漕ぎの舟ぐらいなら航行可能だが、帆船など到底無理。

 更に魔獣と呼ばれる獣が弱肉強食の世界を作っており、人族の入植を一層困難にさせている。



 バロア大秘境東山脈の更に東。

 この地方を統一して約300年。

 北部地帯を蛮族と敵対しながら少しずつ開拓し、南部連合国と沿岸貿易をしながらも小競り合いを繰り返してきたグラスデン帝国。


 東部大山脈の南、バロア大秘境に隣接するバーゼル辺境伯領。


 更に大秘境入り口の城塞都市アルビール。


 この都市はバロア大秘境の資源開発により領都シャフトラインの規模に迫る程の繁栄をしていた。


 この都市を拠点にジャミールという男が居る。


 元傭兵で元冒険者。

 彼は槍と斧を武器とし、生活魔法の着火と水生成、初級の土属性魔法が使える髭面のむさい男だ。


 年は50を過ぎてからは数えていない。

 この世界では後期高齢者と言っても差し支えない。


 若かりし頃は戦場で、娼館でブイブイ言わせたらしい。

(本人談)


 だから基本的に依頼は受けないし、大秘境で罠猟をしたり、身の丈に合った魔物を狩って生計を立てている。


 ある時彼は、山裾の村コルト近郊の罠に小型の金蜥蜴を獲えた。

 こいつを売れば当分の間は危険を冒してまで仕事しなくてもいいだけの大金が入る。


「こいつまだ生きてるのか」

 斧を振りかぶり頭を落とす。


 ドスッ!




「痛たた、なんで倒れてたんだ?」


 どのくらい倒れていたか分からないが、改めて金蜥蜴を見ると既に死んでいた。


 意気揚々とアルビールの商業組合に卸しに行ったのだが、そこからが不味かった。


 組合内からお偉いさん連中が出て来て、どこで獲ったか執拗に迫られ家に帰してもらえない。

 ついに領主に報告され捕獲場所迄の案内を命令される。


 金蜥蜴は土中の金を食べて成長する珍しい魔物で、それが捕らえられたと言う事は、近くに金鉱脈が有ると言う事。

 金の生成が可能となれば、自身の財力と中央に対する権力も増し、いい事尽くめなら領主としては当然の判断だ。


 確して彼は15人の調査小隊の案内人になったのである。


 城塞都市アルビールから山裾の村コルトまで、舟と荷馬車に乗って5つの村を通って6日。

 更に罠を仕掛けた場所まで約半日。

 そこを拠点に山方面へ探索が始まった。


 草木の生えた場所には生息しないから岩山を重点的に探す。

 ちょっとした横穴でもくまなく探す。

 岩山方面に拠点を移しながら8日。

 ぼちぼち食糧の事を考えて前進か撤退を考えなければならない頃、それは姿を現した。


 岩の上で日光浴をしている。

 隊員3名ずつを上下から回り込ませる。

 弓矢を射り怪我を負わせ巣穴に逃げ込む所に鉱脈があるはずだ。

 目論見通り巣穴を発見した。


 ところどころで金蜥蜴を捕まえる罠を仕掛ける為に、渋々付いて行かされたジャミールと15人の調査隊員は安堵した。

 目印として木杭を立てようとした時だった。


 奇声と共に体高2メートル程の羽に被われた二足歩行の足の太い肉食恐竜ディロンが6匹、山上より襲いかかって来た。



 油断した。

 最初の接敵で近くにいた6人が重症または重体。

 もう戦えない。


 弓士1人と風魔法使いの1人を後方に、槍のジャミールと前衛7人で迎え撃つ。


 弓矢とウィンドカッターが1体のディロンを捉えダメージを与える。

 突進してくる魔物に槍襖が刺さるも1体の他には致命傷にはならず蹴散らされる。

 横合いから剣士が大剣を振るう。

 体に大きな切り傷を作るが戦闘不能までは出来ない。


 咄嗟に躱し斧に切り替えたジャミール以外の無手の槍士達は剣を構える事も出来ず餌食になる。

 前衛を失った後方の弓士が矢を射掛け、魔法使いも攻撃魔法で至近距離から応戦するが同じ運命をたどる。


 小隊長が撤退命令。

 必死の突貫でようやくディロン1体を切り倒すも別のディロンに頭を喰われ絶命。


 先頭で逃げる隊員が石に足を取られ転倒する。

 後ろを走っていたジャミールともう1人の隊員は助けようと速度を落としてしまい、追いつかれディロンに対峙する事になった。


 1匹のディロンに振り向き様の尻尾が振り回され、頭に直撃を受けた隊員は即死。

 転倒した隊員も巻き込まれて吹っ飛び崖下に転げ落ちる。


 もはやジャミールのみ。

 両手に愛用の斧を構えるも、涎を垂らした魔物達に攻撃され走馬灯が走った時、ジャミールの体はこの世から消えた。




 ジャミールの中に閉じ込められていたもう1人の魂がようやく自由になった。


「嫌だーっ!まだ死にたくない!こいつ生き返れ!」

 

 肉体を失い魂だけになっても生への執着が諦められない。


 この魂は現代日本で生活していたのだが、地味だが頭の回転が早く真面目な癖に、何故かヤンチャな幼馴染達に人望が有り、共に派手な格好で成人式に参加し、調子に乗って酒を一気飲みした結果、心停止で死亡した賢いのに馬鹿な男の過去を持つ。



 ジャミールは金蜥蜴にトドメを刺す時に反撃の尻尾の一刺しで絶命していた。


「こいつ死んでる!

蘇生は?

 生き返れ!生き返れ!生き返れ!・・・」


 神のイタズラか、偶々ジャミールの体に憑依したこの魂は蘇生には成功した。


 しかし、魂は力を使い果たし乗っ取る事は出来ず、意志を持ちながらも何も出来ずジャミールの中に宿り続ける事になった。


 そしてまた、死の記憶。


 捨てる神あれば拾う神ありが地で起きる。


『生への執着がすこぶる強い魂よ、汝が望むものは何だ』


 誰だか知らないが、生きれるのなら、

「悔いの無い人生を!

 日本で天寿を全うしたい。

 死ぬなら畳の上で家族に見守られて死にたい」


『日本に帰す事は無理だ。

 その方の体はもう無い』


「ではこの世界でも日本で生活してた様にして欲しい」


『日本の生活とは、人はそれぞれに違うものだ』


「では私が想った事が出来る力を頂きたいです。

 それなら私が想う日本の生活の様な事がここでも出来ます」


『よかろう、ならば想った事が出来る力を授けよう』


「ありがとうございます。

 ところで私の体はどうなるのですか?」


『代わり体を用意しよう』


「代わりの体はありがたいのですが、それは完全に私だけの意志で自由に出来る体にしてください。

 ジャミールの時の様に意志があっても何も出来ない体など要らないです。

 それと現地の人と同じ場所では文化文明が違い過ぎて日本の様な生活は出来ず衝突してしまうのではないでしょうか?

私はそんな事を望んでいません。

それならば人が寄り付かず温暖な土地で1人で暮らしたいです」


『よかろう、それも叶えよう。

ゆっくり徐々にであれば、発達させても構わないぞ。

 さて代わりの体だが今すぐに用意出来るのは4つ。

 家族で男26才、女26才、男8才、女4才だ』


 この世界の寿命が短い事はジャミールに憑依した事で知っている。

 50才を過ぎれば、死が間近に迫ってくる。

 残り20年とちょっとで悔いの無い人生が可能なのか?

 難しいかもしれない。

 となると子供の方になるが女の子の方は小さ過ぎてやれる事が限られるだろう。


 ならば、

「8才の男にしてください。

 男の子の記憶は知ってしまえば辛くなるので、完全に消しておいてください。

 ジャミールの記憶も要らないです。

 どうかお願いします」


『よかろう、汝の願いを叶えよう。

 生きていた日本の生活がこの世界でもおくれる様に想った事が出来る力【想造魔法】を授けよう。

 人が寄り付かない温暖な地と現地の記憶は全て消し、8才の男の体と1人で生き抜く知識を授ける。

 悔いの無い人生を送り、天寿を全うせよ。

 汝にミカエルの名を与える。

 我の眷属である。

 尚、我の記憶は魂が体に宿った時に消失する』



 少年ミカエルは見知らぬ森に居た。

 ジャミールが死んで約200年後の世界だと知らされている。

 誰と会っていたかは記憶がないが、頭の中にいろんな知識が入っている。




 試行錯誤を繰り返して3年、魔物との格闘の連続。

 安住の地を得てこの世界での生活がようやく楽しめるまでになった。





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