第36話 ダル絡み系妹?

そして、すっかりいつも通りの距離間に戻った俺たちは、いつものように俺の部屋のベッドで並んでラノベを読んでいた。


 部屋着姿の丈の短いハーフパンツを履いた美優は、不意に読んでいたラノベを閉じると、何かを考えるように顎に手を置いた後にそっと口を開いた。


「そういえば、もう一通り妹キャラってやっちゃったよね? お兄ちゃん的にはどの妹がーー」


「いや、なに言ってんねん!」


「……お兄ちゃん?」


 突然何を言い出すかと思ったら、美優の奴が急に冗談を言い始めた。


間髪入れずにツッコミを入れたというのに、美優はなぜツッコミを入れられたのか分からないと言った様子で、不思議そうな顔をしている。


あれ? 今のってボケじゃなかったのか。


 俺は勘違いをしてしまった恥ずかしさを誤魔化すように、小さく咳ばらいを一つして場の空気を整えた。


「まだまだ美優がやった妹なんて一部だぞ? 世の中にはもっと多くの妹で溢れかえっているのだから」


「例えば、どんなのがあるの?」


「だる絡み系妹や、クーデレ系妹、気弱な妹や天然系妹、電波系妹、中二病妹などなど、妹の種類というのは無限にある!」


 少し鼻息を荒くしがら妹の種類ついて語ったせいか、美優との間に多少の温度差を感じたが、きっとすぐにエアコンで俺の温度は冷やされるだろうし問題ないだろう。


「だる絡み系? それって、可愛いの?」


「いや、普通に可愛いだろ? だる絡み系妹」


 美優は俺が口にした言葉にひっかりを覚えたのか、小首を傾げながらそんな言葉を口にした。


 それに対する返答をしたのだけれど、どうも美優は納得いっていない様子で、傾げている首の角度を少し大きくした。


「だって、だるいんでしょ? 面倒とか思わないの?」


「いやいや、妹だぞ?」


「いや、『だったら納得!』とはならないって」


 まぁ、こればっかりは好みという物が大きく関わってくるし、一概に可愛いとは言えないかもしれない。


 でも、妹好きからしたら妹に構われたいし、構いたい。


それも妹の方から距離の近いようなだるい絡み方をしてくれるとなれば、全米が泣いてお願いすることだろう。


「もしかしたら、実際にやってみたら分かるかもしれないぞ?」


 別に、俺がして欲しいからそんな提案をしているんじゃないんだかねっ! と心の中でツンデレをしながらそんなことを提案すると、美優は顎に手を置いて少しだけ唸るように考え込んだ。


「うーん、ダル絡み系かぁ。どんな感じだろ?」


 それから何かアイディアが思い浮かんだのか、美優は小さく咳ばらいを一つした後に、こちらに体を向けてきた。


 そして、微かに頬を朱色に染めてから、その熱で揺れてしまったような瞳で俺のことをじっと見つめてきた。


 そのまま美優は俺の服の袖を両手で掴んで体を近づけた後、上目遣いで俺のことを捉えた。


「お兄ちゃん、構ってぇ」


「ひでぶっ!!」


「え、お兄ちゃん!?」


 そして、俺はそんな妹を前に断末魔のような声を上げてしまった。


 美優は突然俺が秘孔でも突かれたと思ったのか、目を見開いて驚いていた。いや、そこを突いたのは美優ではないのか?


「お、おまっ……なんでダル絡み系やるって言っておきながら、甘々妹なんてやるんだよ。危険だよ、その落差は危ないよ。緩めのフォークボール要求したのに、160キロのストレート投げるくらい危険だよ。お兄ちゃん、親指持っていかれちゃうよ?」


「野球で例えられも分からないんだけど……もしかして、結構お兄ちゃんに刺さったりした感じかな?」


 美優は確実に上げられてしまった俺の体温が染めた顔を見て、大きく頷いていた。


 そして、余裕のあるような笑みをこちらに向けてきた。


「うん。さっきの感じでいいなら、私もできるかも」


「いや、待ってくれ。甘々妹は危ない、その、マジで心がもたない可能性があるから」


「お兄ちゃん、そんなに甘々妹が好きなの?」


「いや、好きだけど。属性的にとりわけ好きって訳でもないんだ。甘々妹っていうのは、確かに魅力的なキャラではあるんだけど、ストーリーで見たときに他と比べて弱くなってしまうんだ。だから、甘々妹が活躍する場はどうしてもその手のゲームの中でも、シナリオゲーではなく、別の用途で用いられるゲームの中にしか存在しなーー」


 俺が甘々妹について論じている途中で、不意に美優の方に視線を向けると、美優は胸の前で両手を小さく握って、こてんと可愛らしく小首を傾げていた。


 その佇まいは甘々妹のそれで、上目遣いで顔を覗き込まれた時にはすでに遅かった。


「お兄ちゃん、大好きっ」


「っ!!」

 浮かんでいた笑みにはどこか子供っぽさがあって、甘々妹の幼さと甘えてくる感じが見事に表現されていた。


 そして、そんな妹を目の前で見せられて、俺が当然無事でいれるはずがなかった。


「えへへっ、さすがにちょっと恥ずかしいかもーーお兄ちゃん? お兄ちゃん!」


「……はっ! あ、危ない、危ない。本気で尊死しかけたぞ」


「お、大袈裟過ぎない?」


 甘々妹からの『お兄ちゃん、大好きっ』というワード。


 全国のお兄ちゃんが妹に言って欲しい言葉ランキング、トップ3は硬いと言われ続けているワードだ。


その言葉を前に、妹キャパが限界を超えてしまった俺は、そのまま意識を持っていかれそうになっていたようだった。


 危機一髪だぜ、おい。


 そんなふうに俺が安心していると、美優は続けざまに俺の胸元に両手を置いて、そっと顔を近づけてきた。


「み、美優?」

 

そして、美優は俺の耳元でそっと囁くように言葉を続けた。


「甘々妹。またしてあげるからね、お兄ちゃんっ」


 少し幼いようなこそばゆい声で耳元をくすぐられて、俺はそのぞわりとした感覚によって、耳を熱くさせてしまっていた。


「ふ、ふへっ」


 それと同時に出てしまったにやけるような笑い声を聞いて、美優は少しだけ呆れるような笑みで俺のことを見つめていた。

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