第30話 兄妹デートプラン

 そして、週末。


 俺たちは兄妹デートをすることになった。


 場所は昔のように俺が普段行く楽しいと思う場所。


 兄妹デートをするにあたり、過去の妹キャラたちのデートイベントを洗ってみたのだが、美優は俺が普段行く所がいいと言っていた。


 それなら、その気持ちに応えてやらねばならない。


 そう、昔を思い出せるような楽しいと思えるような場所。そこに美優と共に行こうではないか。


「おかしいおかしいおかしい、ここは絶対に違うよ。お兄ちゃん」


「美優?」


 そして、俺がいつも行っている場所に美優を連れて行こうとすると、美優に階段を上ろうとする俺の服の裾をいつもよりも強く引かれてしまった。


 淡い水色のフリルを拵えてある半袖のブラウスと、白色の膝上10センチくらいのスカート。


そんな夏を感じせる姿で、美優は必死に俺を引っ張って、上りかけていた階段から俺を引きずり下ろした。


「……はっ! 危ない危ない、いつものルーティンで入ってしまうところだった」


 舞台は秋葉原。


 俺がよく行く場所というのを考えたときに、初めに浮かんできたのが秋葉原だったのだから仕方がない。


 俺の背景に目を向けたときに、一番際立つのは妹オタクであること。


 それなら、秋葉原に行くしかないと思って美優を連れてきたのはまだよかった。


 しかし、駅に着くなり足は勝手にいつものルートを巡ろうとしてしまい、気がつくと俺は二階に店を構えるえっちなゲームを扱うお店に向かおうとしていた。


 一階は一般ゲームを扱っているため、つい油断してしまった。


「いつもって、お兄ちゃん……」


「危なかった、もう少しで美優に白い目を向けられるところだった」


「いや、もうアウトだよ。お兄ちゃん」


 美優はこちらにジトりとした視線を向けながら、ぴっと人差し指で階段に張られたポスターを指さした。


 そこに貼られていたのは、可愛らしい二次元の女の子の姿と発売日が書かれている広告ポスター。


 そして、その横には『十八歳未満立ち入り禁止』の文字が。


「ここって……えっちなゲームが置いてあるところだよね?」


「……妹物を極めると、最終的に誰もがこの場所にたどり着いてしまうのだ。ふっ、これを宿命と言うんだろうなぁ」


「なんで今の状況で遠くの方見れるかな?」


 初めは軽い気持ちで足を踏み込んで、気がつくと泥沼の中にいるなんてのは全てのジャンルにおいて言えることだ。


ただ、その中でも終着駅が決まっているジャンルというのは多くはないだろう。


世間の目や倫理観を問われるとぐうの音も出なくなってしまう実妹派は、それでも実妹コンテンツを追い続ける。


そんなとき、ふいにネットの中で可愛い妹と出会うのだ。そして、それを辿っていくと、一つの終着駅にたどり着く。


そこは実妹キャラが多くいる夢の桃源郷。しかし、そこ向かう往復切符はなく、片道切符のみ。


そうだと分かっていながらも、男たちはそこへ向かうのだ。実妹を求めて!!


その桃源郷というのが、えっちなゲームなのだが、どうやら美優にはその深さが分からないようだ。


 ……ジトっとした目が時間経過と共に強くなっていくし、早く離れないとまずい気がしてきた。


「美優はどこか行きたい所とかあるのか?」


「行きたいところ? うーん、秋葉原なんて普段来ないし、せっかくならそれっぽい所とか行きたいかな?」


「それっぽい所か……」


 そうなると、アニメショップかフィギアショップとかになる気がするが、美優がどれくらいオタクに染まっているのか見当がつかない。


 オタクじゃない子をアニメショップに連れて行っても、多分楽しくはないよな?


 秋葉原っぽくて、秋葉原でしかできないような体験。できれば、そんな思い出を共有したいものだがーー


 そこで、ふと視線を向けた先に広がっていた光景を前に、俺は一つの可能性を見出した。


 秋葉原にのみ生息すると言われている、フリフリの服を着てビラを配っている女性たち。白と黒のコントラストと、短すぎるスカート丈が男たちの目を引き、気づいた時にはビラを受け取ってしまう秋葉原の名物。


「美優よ。お兄ちゃんにご奉仕してみないかい?」


「……え?」


 即興にしては中々良いアイディアだと思い、俺は決め台詞のようにそんな言葉を口にしていた。


「~~っ」


 それから数秒後、美優の顔はぽんと音を立てたように真っ赤に染め上がった。


 頬の熱によって揺らされた瞳は熱を帯びていて、驚いたように見開かれた瞳はいつも以上に潤っていた。


 そして、美優はこちらを見つめることも恥ずかしくなったのか、そっとその瞳を俺から逸らした。


「……それって、どういう意味?」


 不安と少しの期待が入り混じってそうな瞳の色。そんな瞳で上目遣い気味に見つめられて、その熱がこちらにも伝染してきたのが分かった。


 そして、俺はその受け取った熱をそのままに、握りこぶしをしながら口を開いたのだった。


「秋葉原/(エロ×アニメ・漫画)×妹……つまり、メイド妹だぁ!」


 次回、メイド妹。


「……それって、どういう意味?」


 俺の熱い返答を聞いた美優はと言うと、微かに熱の引いた目でこちら見ながら小首を傾げていたのだった。


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