第8話 大事ですよ?
「お待たせしました。」
散々待たされた挙げ句、後ろからの声掛け。
歓迎されてないのは、間違いない。
「盛山さん、もう用済みの様ですから帰りましょう!」
「ああ、そうだな。帰ろうか。」
「えっ、あっ、とっ、そっ……………………お待ちくださいっ!」
それでも、契約済みで着手金まで受取済み。
残念ながら、簡単に帰るわけにはいきません。
「あぁ、社長様とアポ取りしたはずですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「………………………………社長の暁は間もなく戻りますので、暫しお待ちを。」
………………………絶対、嘘だね。
片山と目を合わせたら軽く頷いたので、
「では、このままこちらで待たせてもらいます。」
「えっ、あっ、とっ、そっ……………………わかりました。お待ちください。」
お〜、慌ててる。
どこまでコイツの判断で対応してるのか、それ次第でこの案件は終了だな。
社長様が知らなければ知らないなりに、それこそ問題だしな。
『今のアイツ、誰だかわかるか?』
チャットアプリで片山に問い掛ける。
『例の監査役ですよ。』
『社長様、すぐ来ると思うか?』
『無理でしょうね。銀行のアポ、遅らせときますね。』
待たされているのが簡素な椅子とテーブルが観葉植物で区切られたスペースなのも、我々に対する対応としては最悪だしな。
見る人が見ればわかってしまうコンサルティング会社が出入りしていると外部に知られるのは、最小限な方が良いに決まってるしな。
「片山、コーヒーでいいか?」
隅にあるコーヒーマシンを指さしながら聞いてみると、
「アッチのラテがいいです〜!」
表通りのカフェを指さす。
………………………………まあ、ラテ位でやる気を出してくれるならお安いかな?
モバイルオーダー対応店舗だったのでサッサと注文してからすぐに受け取って帰って来る。
「ほらよ、好きなの選べ。」
焼き菓子2つ追加で買ってきたので選ばせようとすると、
「わっ、嬉しいっ!どっちにしようかな?選べないな〜?」
………………………コイツ、いつも選べないと言いつつ、両方持ってくんだよな。
でも、今日はどっちかだぞ。
ウンウン唸りながら、上目遣いに俺を見上げてきたので、
「どっちかだぞ。早く選べ。」
「え〜、う〜、フニャ?」
「そんなふうに甘えても、可愛くないぞ?」
「ぶ〜、じゃ、コッチ!」
「よろしい。じゃ、ご褒美な。」
残ったクッキー生地のケーキを半分に折って片山の前に差し出した。
「盛山さん、一生着いて行きますっ!」
「おいっ、ケーキ半分くらいで一生の事を決めるんじゃない!」
「食べ物の好みは、大事ですよ?一生を決めるくらいには。ある意味、性格よりも大事です。」
そりゃそうだろうけど、今叫ぶような事じゃ無いぞ。
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