一人二役で彼女をNTR
炭石R
一人二役で彼女をNTR
「君さ、良かったら一緒に遊ばない?」
付き合い始めて四年になる俺の彼女が、歩く度にジャラジャラと音を立てているチャラ男に声を掛けられた。
「彼氏居るからむり〜」
来年の春から、累実は俺よりも一年早く大学生になる。サークルの新人歓迎会、初めてのアルコール、そして合宿。大学は恋人を寝取られる場所だ。
累実の事は信じているけど、浮気ではなく寝取られとなると話は別だ。累実はたれ目が特徴的で世界一可愛い上に、厚着の上からでも分かる大きな二つの果実。少し抜けている所があって、今もコートのボタンを一つ留め忘れている。
絶対に、悪い男達に狙われてしまう。
なので、俺は従兄弟という設定で先に累実を寝取る事にした。断られたらそれで良いし、断られなかったら、しっかりと注意する。寝取り稽古である。
気にしすぎと累実には言われるだろうが、備えあれば憂いなし。転ばぬ先の杖。石橋なんて叩き壊して、鉄橋を作る方が良いに決まってる。
「あ!累実ちゃんだよね?」
「……?」
「俺は
「ふ〜ん、始めまして〜。れる君とすっごい声が似てるね〜」
「そりゃあ従兄弟だからね」
「そっか〜」
よし。納得してくれた。
声は従兄弟だから。で乗り切ったし、服と靴は新しい。その上サングラスを掛けて、髪型もオールバック。ピアス、……は勝手に穴を開けると累実に怒られるので、ピアス風イヤリングを付けた。
ここまで完璧な変装をしたから、気付かれないだろうとは思っていたが、俺達は幼馴染だからな。今日は動作にも気を付けよう。
「今から暇?」
「どうして〜?」
「れるに渡すクリスマスプレゼントを買いに行くから、手伝って欲しいなって。彼女さんなら、好みとか分かるでしょ?」
少し怪しいが、他に口実が思い浮かばなかった。まあ、ただ遊ぼうと言うよりは良いだろう。
「まあね。れる君のことなら何でも知ってるよ〜。どこで買うの〜?」
「隣駅のショッピングモール」
「それならいいけど、ちょっとだけ待ってて〜。お手洗いに行ってくる〜」
「うん、分かった」
……断られなかった。取男が本当に従兄弟かも分からないのに、下心があるかもしれないのに。
いや、累実を信じよう。
今から俺に真偽を聞くのかもしれないし、そうで無くとも、出掛けると連絡はしてくれる筈だ。
そう思っていたけど、連絡よりも先に累実が帰って来た。既に最高に可愛かったのに、唇は更に綺麗になっていて、潤いも増している。
俺以外の男と出掛ける時でも、ここまでするのか……。
「待っててくれてありがとね、じゃあ行こっか〜」
「うん」
こんな気軽に着いてくるとは思わなかった。束縛はしたくないけれど、これが終わったら連絡だけでもして欲しいとお願いしよう。
――ガタン、ゴトン
「ありがとね〜」
「別に、当たり前だろ」
揺れる満員電車。累実をドア側にして人混みから遮るのはいつもの事だし、親切心からする事もあるだろう。でも、電車が揺れる度に当たるこの柔らかさを、他の男も体験するかもしれない。そう考えただけで心がざわつく。
「取男さん、どうかしたの〜?」
いや、今は集中しよう。俺は取男。頭の中は常にゲスい妄想で満たされていて、従兄弟の彼女を寝取ろうとする。そんなクズ男だ。
「何でも無いよ」
ぼーっとしてしまったので、クズ男らしさを出す為にも頭を撫でる。人の彼女と知った上での流れるようなボディタッチは、中々にクズ男ポイントが高いのでは無かろうか。
「……や、止めてよね〜。れる君と付き合ってるのは知ってるでしょ〜?」
え、何でそんな、嬉しそうにしているんだ?
俺が頭を触ってもいいか聞いた時は、不機嫌そうに「今はいや〜」と言われたので、すぐに拒絶されるかと思っていた。
「そ、そうだよね。ごめん」
今も頬を赤く染めている累実を見て、俺は少しだけ不安になってしまった。
「何かおすすめはある?」
俺達は、ショッピングモールの二階にあるお店に入った。本当は自分向けに買う物だから聞く必要は無いけど、累実にどう思われているかは気になる。
「ん〜、まずは自分で選んだら〜?」
「でも、れるはその方が喜ぶだろ?」
「そんなことを言ったら私から渡した方が喜んでくれるし〜、物じゃなくて私が何かする方が喜んでくれるよ〜?それじゃあ意味が無いでしょ〜?」
「そ、そうだね」
直接言われると恥ずかしいけど、紛れもない事実だ。それに、電車で感じた少しの不安も消えた。こんな風に言ってくれる累実を疑うなんて、どうかしていた。
「これでいいと思う?」
「うん。いいと思うよ〜」
「じゃあ買ってくるから、ちょっと待ってて」
「は〜い」
少しだけ迷ったけど、結局いつも使っているシャーペンの色違いにした。
プレゼント選びは終わったが、ここからが本番。取男として、累実を寝取るのだ。
「お待たせ。今日は付き合ってくれてありがと」
「どういたしまして〜」
「あ、そうだ。れるの話を聞きたいから、ちょっとカフェに寄らない?あいつの事を一番知ってるのは、累実ちゃんなんでしょ?」
累実が物に釣られる事は無いが、俺の話をされると、簡単に着いて行ってしまう気がする。
特に、累実は俺の事を母親以上に理解していると自負しているし、そこを突かれると弱い筈だ。
「ふ〜ん。なら、ちょっとだけ教えてあげる〜」
やはり。着いてきてしまうのか。
「じゃあ、行こうか」
「は〜い」
このままだと危ないんだよ。そう教えるつもりで手を取ったが、累実の手に握り返されてしまい、更に不安になるだけだった。
「それで〜、れる君が勢いよく食べるからむせちゃって、涙目になった顔が可愛くて可愛くてね〜。水を口移しで飲ませてあげたの〜。したら、今度は顔を真っ赤にしちゃって。本当に可愛かったなぁ〜」
「そ、そうなんだ……」
カフェに着いて、れるの好きな食べ物って何?と聞いてから、早くも一時間が経過した。オムライスだよ〜。の一言で終わると予想していたが、続いてそのエピソードトークに入り、三十分でようやく話が途切れたかと思えば、他の食べ物の話に移った。
今は、一昨年のバレンタインに累実が作ってくれたマフィンの話をされている。自分の惚気をずっと聞かされているので、こそばゆい。
「あれ、顔が赤いよ〜?」
「なんか、暑くて。にしても……」
「にしても〜?」
「いや、何でも無い」
そんなに好きなんだね。と聞こうとしたけど、恥ずかしいし、累実の返事で更に恥ずかしくなる事が確定しているので、思い留まった。
「あ、長く話しすぎちゃったかな〜?ちょっとお手洗いに行ってくる〜」
「分かった」
危ない。累実のマシンガントークに圧倒されて、今日の目的を忘れかけていた。しっかりと寝取らなければ。
「おまたせ〜」
「……あ、ボタン留め忘れてるよ」
ロングコートの上から三つ目。累実からは胸のせいで死角になっているのか、普段からよく留め忘れている場所。
普段の俺なら指摘するだけだけど、今の俺は取男だ。胸に手が当たる事になろうとも、平然と留める。
俺はお願いだから手を振り払ってくれ。そう願いながら、累実に近寄り、ゆっくりと腕を伸ばす。
――むにっ
「お、ありがと〜。気が利くね〜」
「ど、どういたしまして」
俺は少し苦戦して、胸に手を押し当ててしまったが、振り払われる事は無かった。本当に、累実は可愛いんだから、危機感を持って欲しい。これだと、この後の誘いにも付いてきてしまうかもしれない。
「そうだ。ここは奢るからさ、ちょっとついてきてくれない?」
「どこに行くの〜?」
「秘密。ここから近いから安心してよ」
「わかった。いいよ〜」
やっぱり。今は俺だから良いけど、本当に不安だ。行き先も知らずについていくなんて、今後は絶対にしないようにお願いしよう。
ショッピングモールを出て、駅の反対側に向かう。この先は治安も悪いし、風俗街もある。もうそろそろ警戒すべきだ。
「あ、もしかしてホテルに行こうとしてる〜?」
……良かった。本当に良かった。
いきなり言い当てられるとは思いもしなかったけど、これで、累実を寝取るのは失敗だ。ネタバラシをして、今後は注意するようにお願いしよ――
「いいよ、行こっか〜」
――ん?
今、累実は何と言ったんだ?いいよ?
「ここからだと安いとこか、大きい鏡があるとこか、高いけど回転ベッドがあるとこかな〜」
累実とは、一度も行った事が無い。なのに、何でこんなに詳しいのか。位置だけでは無く、料金や内装まで。
俺は嫌な想像に頭を撫でられて、呆気無く俯いた。
「あれ?どうしたの〜?取男さんの名前をい〜っぱい呼んであげるよ〜?」
ベッドの上で見知らぬ男と体を重ねて、気持ち良さそうに俺以外の名前を叫ぶ。そんな累実の姿が思い浮かんでしまい、脳が叩き壊される。
「ほら、早く行こうよ〜」
……信じていたのに。
「な〜んてね。私をほんの少しでも疑った罰だよ、れる君」
……え?
「今のは嘘だから、安心してね〜」
「……ほ、本当に?」
「ほんと。もう、ガチ泣きじゃん〜。ほら、いっぱい泣いていいよ〜」
少なくとも、今の累実は演技をしていたらしい。それが解った俺は、みっともなく泣いた。
累実に抱きしめられて、胸に顔を埋めて。赤子をあやすように、大丈夫だよ。ずっと傍に居るよ。そう囁かれながら、周囲の目も気にせずに。
ひたすら泣き続けた。
「その、コート、本当にごめん」
俺が泣きやんだ頃には、累実のコートは涙やら鼻水やらで大変な事になっていた。
「気にしてないよ〜。とりあえず、帰ったらお話しようね〜?」
そして、安堵すると同時に気付いた。累実は怒っている。それも、不機嫌なだけでは無い。帰ったら更なる罰が待ち受けていそうだ。
「ま、待って。累実?騙してたのは謝るから、許してくれませんか?」
「許さない」
「……はい」
これは、手が付けられない。今までに見た事が無い程、大激怒している。
「じゃあ、帰ろっか〜」
「……コート持つよ。あと寒いだろうから、これあげる。俺は平気だから」
「ありがと〜」
累実が散々な状態になったコートを脱いだので、上着を脱いで、コートと交換した。
――ガチャっ
「お邪魔します。……って、あれ?おばさん達は?」
累実の家に着いた。もう八時で、外は暗い。普段なら累実の両親が居るにも関わらず、家の中は真っ暗だった。
「とりあえず、部屋に行こうね〜?」
「はい……」
有無を言わさない圧を感じる声に、大人しく従うしか無かった。
「そこに座って〜」
累実の部屋に入ると、床に座るように言われたので、正座する。
「じゃあ、さっそく聞くけど、私は何に一番怒ってるでしょうか〜?」
この問題。間違えたら、取り返しが付かない気がする。
が、分からない。累実を試した事には怒っているだろうけど、既に罰は受けた。他に無いかと考えても、全く思い浮かばないのだ。
「……ごめんなさい。分からない、です」
「はぁ。私が一番怒ってるのは髪型と服装を変えて、安っぽいサングラスとイヤリングを付けただけで〜、私が気付かないって思われてたこと〜」
「え、もしかして最初から気付いてたの?だからあんな感じだったの?」
「当たり前でしょ〜?れる君の従兄弟はもっと年上だし〜、プレゼントを渡すくらい仲がいいなら、私が知らないのはおかしいよね〜」
「良かった……」
今日の計画は色々と穴があったみたいだけど、そんな事よりも、累実の反応が俺だったからと知って安心した。
ずっと心の奥に潜んでいた不安が、ようやく取り払われた気がする。
「もう。れる君以外の男の人と、あんなに馴れ馴れしくする訳ないでしょ〜?それに、男の人と出掛ける時は言ってるよね〜?」
「え、本当に?じゃあ、たまに言われるあれだけって事?」
付き合い始めてから、年に数回だけ言われる事がある。その殆どがクラスの用事だったから、俺が知らないだけで行っているのだと思っていた。
「当たり前でしょ〜?れる君と一緒に居られれば充分だもん」
「そっか……。本当に、ごめん」
今日の俺は酷いな。勝手に不安になって、累実を試して、もっと不安になって。ひたすらに空回りをしていた。
「まあ不安になるのも解るから〜、とりあえずスケジュール共有と位置情報共有のアプリを入れようか〜」
「え、いいの?嫌じゃない……?」
とても嬉しい提案だけど、それではまるで束縛だ。
「いいの〜。実は私も、れる君が高校で一人なのはちょっぴり不安だったから〜。れる君のことは信じてるけど、変な女が寄り付かないとは言い切れないからね〜」
「それなら、入れる。ありがと」
安心していると、累実が俺の脚に跨った。至近距離で顔を合わせて、キスをされるのかと思いきや、違うらしい。
「とりあえず〜、れる君の不安は今日で全部吐き出してよね〜」
累実のおかげで、もう不安は無い。けど、一つだけ聞きたい事があった。
「もう大丈夫なんだけど、その、頭を撫でられるの、好きなの?前に俺が聞いた時は断られたから……」
「ん〜、どっちかなら好きかな〜。それよりも、れる君にいきなりされるのが嬉しいよ〜」
「じゃあ、聞かずにならしてもいいって事?」
「私達は付き合ってるんだよ〜?それ以外にも何でもしていいし、遠慮しないで欲しいの〜」
「……何でもって、本気?」
「うん。れる君も私にされたくないことなんて無いでしょ〜?それと同じだよ〜」
「確かに。分かった」
俺は累実に抱きついて、恐る恐る胸に顔を埋めた。今までなら事前に聞いていたけど、聞かなかった。
「うん。好きなだけ甘えていいよ〜」
累実が抱きしめてくれたので、もっと顔を押し付けて、深呼吸をする。累実の匂いと暖かさが、安らぎを与えてくれる。
「大好きだよ、れる君」
「俺も、大好きだよ。累実」
累実と向き合った状態で跨られて、抱きついて、抱きしめられて。
全身が密着していて、顔が胸に包まれているけど、不思議と劣情は無い。幸福感と安心感に満たされている。
この時間が永遠に続けばいいのに……。
「じゃあ、そろそろお風呂に行こっか〜」
「……やっぱり?」
「うん、やっぱり〜」
だが、続かない。
累実の家に両親が居なかった時点で、薄っすらと感じていた。恐らく、声を抑えなくてもいいように、両親に家を空けるよう頼んだのだろう。俺はこの後、累実に言われるのだ。
れる君のことをどれだけ愛してるか、体に教えてあげる〜。と……。
書き方を工夫したつもりですが、平仮名の名前は読みにくいですか?
誤字脱字等、何かありましたら気軽にコメントよろしくです。
一人二役で彼女をNTR 炭石R @sumiisi
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