平穏な生活があれば私はもう満足です。

第17話 王国への道 前篇

ジキタリス帝国帝都近く西の街、アイリスと別れしたマリアンヌはすぐに街の馬厩舎に向かった。時間はまだ午後８時半くらい、街にはまだ人はいるが、夜の生活はほぼないので、人はそんなに多くない。

（この時間馬厩舎はまた人があるといいですが。）

運良く馬厩舎を片付け中の人がいた。

（良かった、）

「ごめんください、先日ギルド経由でここで馬を買った人で、マリアンヌと申します。」

「あ～、はいはい、あんたはあのお嬢ちゃんね。」

「すみませんが、今馬を引き取ることはできませんか？家の急用で今から出ないと行けないので。」

「いいぜ、すぐに出します。」

「ありがとうございます。」

馬厩舎の人は茶色の馬を引き出し、そのままマリアンヌに渡した。

「お嬢ちゃん、こんな夜中女一人で街に出るのは危ないよ、お節介ですが、冒険者ギルドで護衛を雇った方がいいぜ。ギルド多分まだ人がいると思う、俺からの紹介と伝えば、いい人紹介するぜ。」

「ありがとうございます、では街に出る前に、ギルドに寄っていきますね。」

考えもしなかった、子供から何もかもひとりで解決するマリアンヌは護衛を雇うことを全く考えもしなかった。確かにここから辺境までは馬車で約５日半で、馬では多分４日かかる。もし途中野盗に会えばひとりでは危ない。アイリスちゃんから半日の時間を稼ぎますから、安全に行くために護衛を雇ったほうがいい。

マリアンヌは早速馬を連れて冒険者ギルドに来た。この時間帯ではギルド内の酒場は未だに結構な人がいる。マリアンヌは受付嬢に護衛を依頼をした。

「あのすみません、家の急用で今からカウレシア王国の王都にいる実家に戻らないとダメなので、護衛を雇いたいですが。」

「はい、護衛ですが、少々お待ちしてください。」

「あの…お嬢ちゃんは…カウレシア王国の王都に行くの？」

隣の方から声をかけられ、その方は隣の受付嬢と話している筋肉質の大男。マリアンヌの頭一個分より高い、全身筋肉質で深茶の髪と鋭い目をしている男、軽い装備ですがなんだか強そうな冒険者です。

「そうですが、あなたは…。」

（何故かこの冒険者はわたしではなく、目線は上に向けてわたしに話した。）

「俺はジャック、丁度ここでの仕事が終わり、同じくカウレシア王国の王都に戻るつもりだ。こ、こんな時間に女ひとりで外に出るのも心配で、あなたみたいな綺麗な女性が、未だに酒場に残ってる野郎はおすすめしないぜ。お嬢ちゃんが構わないで俺と同行するか？……あ～いや、盗み聞きではなく、偶々隣で聞こえただけ、やましい事も何もないです、誓って。」

（彼は上に向けたまま、早口で説明したわ。わたしってそんなに怖い顔をしてますか？確かに急いでるが、表は出ていないはず。いけない、疑わないようにしないと。）

「うふふっ、いいえ、気にしませんよ。あなたみたいに高ランク冒険者はとっても安心できますが、ですが手持ちはあんまり多くありませんので…」

「………はぁ……! え？いいの？お、俺の事を怖がらないのか？」

「え？何故でしょう、お優しいな方と想うですが。」

マリアンヌはアイビーの睨みつけやわかままに慣れたため、ジャンクのその怖い外見には何も思わず、彼女にとってこれはいつものような対応をするつもりです。ですがジャックはこんな悪人っぽい渋い見た目と悪い目つきで、慣れた受付嬢以外にいつも他人を怖がらせる、特に女性にはほぼ無縁で、今回はガチで女ひとりの出掛けを心配して、勇気を絞って声をかけただけ。

この場面を見て、一番驚きなのはジャックと話しているな受付嬢、彼女はジャックの顔を見てすぐに隣の受付嬢と何（・）か（・）を（・）話（・）し（・）た（・）。その後、受付嬢はマリアンヌにこう伝えた。

「あの、護衛の件ですが、こちらのジャックさんはいかがでしょうか？こんな見た目ですが、有望でギルドでも信頼しています。ランクは銅ですが、彼のランク上げには護衛任務を達成しないとダメとつい先程説明している途中なので、安くなりますので金貨１枚でいかがですか？」

「え？彼は銅ですか？確かに安いですが…」

「大丈夫です、銅ランクといってもただ新人なだけですから、実力は確かです。こいつ馬（・）持ってるし、一緒に乗れば馬車より速いですよ。」

「あ、なるほど。実はわたし馬持ってるので、ちょうどもし馬があればと思います。」

ジャックは受付嬢に何かを話してるつもりですが、話す前に受付嬢が先に彼に質問した。

「お…おい！ちょ…！」

「何よ、嫌なの？別にいいですが、他の人に譲りますか？」

「あ…いや…いい、お嬢ちゃんが俺を雇うと…やります。」

「ごめんね、こいつこんな見た目ですが、まだ２８歳で独身ですよ。しかも女性苦手で、ホントに万が一彼に何かをされたら、カウレシア王国王都の副ギルマスに話すといいわ。まあ、する勇気もないですけどね。」

「おま…！…あ、いや…違う、俺はやましいこと全く考えたことないよ。」

ジャックさんは慌ててマリアンヌに向けて否定しました。ですがマリアンヌはもし今すぐに出ると走れる時間を計算中、聞いてなかった。

「わかりました、ではジャックさんでお願い致します。わたしはマリアンヌと申します、今すぐに街を出たいですが、大丈夫でしょうか？」

「え！…ホントに俺を雇うの！いいの！」

「ジャックさんが馬を持ってる、それにギルドに信頼された、逆にこっちからお願いするくらいです、ホントに金貨一枚でいいの？」

「いい！いい！一枚でいい。すぐにでも行けます！」

「ではカウレシア王国の王都までよろしくお願いいたします。」

手続きが終わり、マリアンヌとジャックはギルドで食料や必要品を用意し、すぐに出発しました。

受付嬢２名、ニヤニヤで今後の報告を楽しみと考え、元の仕事に戻りました。

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マリアンヌたちは馬に乗り、街の城門をキリキリ閉じる前に街から出た。外はわずかの月の光以外は真っ暗なので、護衛もあるし、マリアンヌは魔道具から光をだし、馬を走らせた。

「ジャックさん、ごめんなさい。急いでいるので、出来れば早めにカウレシアの王都に行きたいです。休みたいな時はお伝えてくださいね。」

「大丈夫だ、慣れた事だ、そのまま走って大丈夫…ま、マリアンヌ嬢。」

「そう固くしなくでいいですよ。」

「あ～いや～、ま、マリアンヌ嬢の言葉使いが思わず。」

「あら、ごめんね、仕事で慣れますので、気にしなくでいいですわ。」

「お、おう、そうして貰おう。」

「辺（・）境（・）では馬車約一週間で、馬では何日かかるでしょうか？」

「辺（・）境（・）…ですか、毎日野営では馬で走り続ける４日くらいだ。」

「そうですが、では野営は構いませんか？」

「お…おう！構わないぜ。」

２人は黙ったまま、馬を走り続けた。次の街に行くには一直線だから、暗くても迷いはない。そろそろ深夜、良い野営場所を見つけ、二人はそこで焚き火を起こして休んだ。休んでいる時ジャックはマリアンヌにこんな質問をした。

「ジャックさん、すみませんが、見張りの交代な時は起こしてください。」

「あ～その前にひとつ聞きていいか？」

「はい、何でしょう？」

「あんた、追われるのか？」

「！！」

マリアンヌはすぐに距離をとって、太ももからナイフを出して構え、警戒態勢にした。対してジャックは何の構えもない、ジャックは自身の実力に自信があった、マリアンヌに対して構えなくでも倒せる。

数分の沈黙。

「俺は何もしない、ただ知りたいだけだ、犯罪者の手助けをしたくない。出来れば君と対話したい。」

ジャックは焚き火を見ながらマリアンヌに話した。敵意は全く感じられず、マリアンヌも少しずつ警戒レベルを下げた。

「……あなたは何処の国の人？」

「俺？安心しな、俺はカウレシア人だ。…お嬢ちゃん…もしかして高位貴族のメイドか？」

「……」

「目的地より真っ先に辺境を目指す、綺麗な姿勢、礼儀正しい、髪や肌も綺麗、服も新品、そしてそのナイフの構え方、護衛が必要な…結構上位の貴族だな。しかし俺はこんな綺麗な平民なお嬢ちゃんは見たことないぜ。それと俺を見ても驚かないその反応…俺の目では違和感だらけだ。全部とは言わなくていい、何故追われているが…まぁ、おおよそその雇い主の貴族様に嵌められただろ、よくある話だ。俺に話してくれないか？話によって別の道を使わないとダメなんだぜ。」

「はぁ…」

ほぼ全部当たり、マリアンヌも諦めてナイフを下ろした。幸いジャックは帝国人ではない。マリアンヌはちょっと考えて、話せる範囲を彼に話した。

「つまりマリアンヌ嬢はとある貴族のメイドで、その貴族から毒を渡された。その貴族の娘の夕食に毒を入れろと命令され、毒を入れるが、入れなくでも殺されるだから、結局その貴族の娘と共に屋敷から逃げた…ってそのお嬢様は馬車で先に行ったってことか。」

「はい、おおよそこんな感じです。」

「なんでマリアンヌ嬢は一緒にその馬車に乗らないのか？」

「お嬢様と目的地が違いますので、乗っていませんでした。…信じてくれますか？」

「そうだな、マリアンヌ嬢は嘘を言ってないことは見（・）れ（・）ば（・）わかる。」

「ジャックさんはすごいですね、こんな短時間で全部バレたのは、わたしも思わなかったわ。」

「いや～仕（・）事（・）で必要だからね。」

「…冒険者ですごいですね。わたし的には完璧にしたつもりですが。…はぁ、今考えるともしわたしひとりではアソコから逃げられるとは思わなかったわ。」

「いいえ、聞いた話ではメイドひとりが事前にあの貴族の計画に気付き、誰にも気づかないまま準備し逃走成功。プロの間者ではなくここまでできるのはすごいぞ、他人の目ではマリアンヌ嬢はただのちょっと金持ちなお嬢ちゃんと思うだぜ。」

「でもわたしではなく、うまく逃げたのも結局はおひ…お嬢様の力です。」

「そのお嬢様にも是非お会いしたいが。でもな、正直代わりに俺の場合では無理だ、力づくで正面から逃げる以外は全く考えられない。自信を持て良いぞ。」

「うふふっ、慰めてくれてありがとうございます。やっぱりジャックさんはお優しいですね。」

ジャックはマリアンヌに向けて精一杯の笑顔を向けたが、逆にマリアンヌの返した微笑みで撃沈。

「あ…う…いや…。マリアンヌ嬢は早く寝な、ここは俺が見張ってる。」

「ではお言葉に甘えて、先に休みます。交代の時間になったら起こしてください。」

「お、おう。」

（マリアンヌ嬢が言ったことはホントのことだろう、もし目の動き、ウゾの仕業も隠せるのでは、こんな下手な変装するわけない。いいや、俺は彼女を信じたい。）

その夜、魔獣も出ていない、ですがジャックはマリアンヌと交代することも無く、そのまま朝になった。当然そのあとマリアンヌに怒られた。