第32話 サイバーパンクと罠

「何が起きたっ!」

「おるあああっ!」

 突然の出来事に混乱するバッキーにバイセンが斬りつけた。イクシーに後で金を払うと約束して手にいれたチタン合金の剣は、骨と筋肉を断ち切り、縦に心臓を割った。

「テメエラァーッ!」

 バッキーの後ろの男たちが武器を構え足を踏み出そうとした瞬間、サブマシンガンの銃弾が額を貫いた。

 シャロの魔法が一瞬で数人の男を絶命させる。その程度で恐れることはない犯罪集団の人間は武器を振り上げて迫ってくる。

「展開!」

 イクシーの左腕が開いた。一枚の板となったそれを、盾のように前へ向ける。突然男たちが苦しみだした。

「ぐえええええ」

「アアアアアッ」

 イクシーが左腕には【鎮圧音響兵器ティック・ソング】が新しく装備されていた。一定方向に超大音量を響かせる装置で、普通の人間は三半規管を狂わされて立つこともできなくなる。有効距離は短いが複数人の動きを止めることができる。

 イクシーは右の太股に装着したホルダーから銃を引き抜くと、トリガーを引いた。大音量に苦しんでいた男たちが動かなくなる。

 ビームガン【シャワーヘッド】の特徴は、ビームの集束値を変動させることができる事だ。これでビームを拡散させればショットガンのようになる。もちろん一本のビームにまとめるより威力は下がるが、広い範囲に攻撃することができた。

「いいいいいっ」

 イクシーがティック・ソングを違う方向に向けると、男はやはりうずくまって動けなくなった。再びシャワーヘッドで射撃。

「おいヤバイぞ! すぐ助けに行け……」

 建物の外にいた男は、言葉の途中で地面へ倒れた。ドローンの攻撃だ。周囲にいた男たちも次々倒れていく。

「どうなってる!」

「おい、何か上を飛んでるぞ!」

 混乱はどんどん広がっていく。

「たくさんいるなあ」

 建物から出てきたイクシーは、悲鳴をあげて逃げ回る男たちを見回した。彼らは突然倒れる仲間たちに恐怖し、ドローンのパルスレーザーで同じく地面へ倒れ伏す。

「おおおおおっ」

 複数の武器を持った増援が駆けつけてきたが、背後からドローンの射撃で全員処理されてしまう。見えない場所からも悲鳴が聞こえた。

 離れた建物の陰や二階の窓からこちらを伺う者がいるが、こちらに近づこうとはしない。わざわざ危険地帯に踏み入れるような人間は、ここで長生きはできない。それでも接近してくるのは関係者だけだろう。例えば、手に武器を持った人間たち。

「ぎゃあっ」

 また一人、ドローンの攻撃で処理された。イクシーは自分でやる必要がないので楽だと思っている。

「ずいぶん集まってきやがったな」

 バイセンも外へ出てくる。剣だけでなく服と頬にも血がついていた。興奮した目で周囲を見回すと、姿をあらわした敵が突然倒れたのを見て、目を丸くした。

「お前が倒したのか?」

「ドローンだよ。正確にはフィアかな」

『ドローンを制御しているのは私ではありますが、全てではなくドローン搭載のAIに任せているものもあります』

 イクシーを守るのが最優先なので建物の周囲のドローンだけはフィアが制御し、使用する計算能力のリソースを削るために他のドローンは自律制御になっていた。

 バイセンは頭上に浮くドローンを見上げて、鼻から息を出す。

「これにそんな事ができるのか」

 ドローンは両手で丸を作った程度の大きさだ。これに一瞬で人間を殺せる攻撃ができてしまう驚きと、それをわずかに勝る恐怖を感じた。イクシーを横目で見ると、気の抜けた表情で戦闘中というのに普段通りにしか見えないのが、彼の異常さを際立たせて見せた。

 数分後には男たちの悲鳴が聞こえなくなり、建物へ近づこうとする者もいなくなった。

「終わった、かな?」

「生きてるやつはいるか。情報が必要だ」

『生命反応がある敵対者をマークします』

 イクシーの視界にだけルートを示す表示が出る。

「こっちだね」

 イクシーが先導して建物の間にある細い道を進んでいると、声が聞こえてきた。

「このクソ野郎がっ! 死ね! 死ねっ!」

「物騒な声がする。どうしよう、戻ろうか」

「ふざけるな、行くぞ」

 バイセンが角を曲がると、倒れた男を蹴っている人間がいた。

「どうだ、オラッ!」

 薄汚れた十五歳ほどの少年だった。何度も地面に伏せる男の体を蹴り続けている。

「えー?」

 この光景にイクシーは、たまにニュースになる暴力事件を起こす少年を連想した。

「おいガキ。何してんだ」

 バイセンの声に振り向いた顔は憤怒に染まっていたが、彼の顔を見ると徐々に驚きへと変化する。

「バイセンさん! バイセンさんだ!」

 少年は叫んだ。

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