第31話 サイバーパンクと目的地

 ラボトレーラーとレイドアーマーを往来の邪魔にならないように、道から少し外れた場所に停車させる。その周囲を専用車から出てきたドローンとロボットで警備させた。

「これでよし」

 地面へ刺した立て看板にはこの世界の文字で『近づくな危険』と書かれていた。文字はバイセンに聞いた。

『偵察ドローンたちを街へ移動させます』

 フィアが街の上空へドローンを向かわせた。さらに数体のロボットがイクシーたちと共に街へ行く。ロボットはもちろん武装している。

「行くぞ」

 バイセンがトラックをゆっくり発進させて街へ入る。イクシーはドアガラスの向こうを珍しそうに見る。トラックは四人乗りで前後にシートがあった。運転席にバイセン、後ろのシートにイクシーとシャロが座っていた。では助手席はというと、アンドロイドが座っていた。

 目も口もない顔の全身白いアンドロイドは、バイセンのボディーガードだった。用意した護衛ロボットたちの中には、こういった人間型のものも混ざっている。イクシーがあれば便利かもしれないと思ったからだが、半分は趣味だった。

「ゲームで、こういうアンドロイド集団を使うマフィアのボスがいたんだよね」

 その言葉を理解できるのはイクシーだけだった。

 馬がいないのに進む電動トラックに、通行人たちは揃って目を丸くする。その姿を人より少し高い位置から見下ろすイクシーは、汚れた革鎧や鉄兜を装着して腰に剣や斧があるのを見つけて、改めて自分は異世界に来たのだと感じる。

「よし。着いた」

 ほどなくして目的地に到着した。一階が石壁で、二階は板壁になっている、なかなか大きな建物だった。しかし入り口の扉や窓が壊れていて、一見誰もいない廃墟のようだ。

「本当にここなの。ボロいし」

「そんなバカな」

 バイセンが急いでトラックから降りる。助手席のアンドロイドも続く。イクシーはシャロと顔を見合わせたが、彼女は表情を変えないし口も開かない。

「とりあえず行ってみようか」

「はい」

 建物のなかへ飛び込んだバイセンは大声で呼びかける。

「おいっ! 誰かいないのか!」

 イクシーとシャロも中へ入る。窓から入る光のみしか明かりのない室内は薄暗い。室内は脚が折れた椅子や倒れたテーブル、床には酒瓶らしきものや食べ物のカスと何かの染みで汚れている。人の姿はない。

「どこだーっ」

 バイセンが何度も声をかけるが、反応はない。しかしイクシーとフィアには見えない人間の姿が見えていた。サーモグラフィー機能をオンにすれば、暗闇や壁に隠れる人間の姿が浮かび上がる。偵察ドローンのスキャン機能は地下に潜む存在もあぶり出す。

 階段から誰かがおりてきた。足音は複数だ。

「よう。何でお前はこんなところにいるんだ?」

「バッキー! なんでテメエがここにいやがる。ロックリザードの家だろうがっ!」

 にやにやとした笑顔を貼り付けた男バッキーに、バイセンが怒りに顔を赤くして叫ぶ。今にも殴りかかりそうだった。バッキーの背後には三人の大柄な男たちが立ち、こちらを馬鹿にした笑みをしていた。

「ここへ来たんなら、あいつはヘマしたってわけだ。だが人数はそれだけか? 最低限の仕事はしたってことだ」

 バイセンの歯ぎしりが聞こえた。

「誰なのこの人?」

「クソ忌々しいブレスホークの奴だよ……おい、ここにいた奴らはどこへ行ったんだ」

「ぶっ殺したよ」

 バッキーの唇がつり上がって歯が見えた。

「わかってんのか、俺たちロックリザードを相手にするって事だぞ? お前ら全員死にたいらしいな!」

「ハッ。ブレスホークはドラグニアスと手を組んだんだよ。お前ら、その下っ端とモメて潰したんだろ。元々ロックリザードはドラグニアスと小競り合いしてたしな、この機会に潰すって決めたのさ」

 バッキーとその後ろの男たちが笑う。隣の部屋から武器を手にした男たちが出てくると、イクシーたちの左右を囲む。いつの間にか建物の外にも人の姿があった。

「完全に罠にはめられたってことだね」

 イクシーは肩を落とす。バイセンは腰から剣を抜く。

『建物の周囲に多数の武器を持った人間が集まっています』

「全員敵としてマークして。バイセン、死なないようにね」

 バイセンの横に立つ白いアンドロイドが、手に持っていたサブマシンガンを連射した。凄まじい発砲音と音速を超えた銃弾が男たちを貫く。



【あけましておめでとうございます☆♡今年もよろしくお願いします】

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