第23話 サイバーパンクと商人と

 イクシーたちの現実離れした姿にしばらく放心していた男だったが、正気を取り戻した。

「……とにかく、お前らがブレスホークのやつらをやったことはわかった」

「それって何の名前?」

「ここらを縄張りにしてる組織の名前だろっ。そんな事も知らないのか!」

 男は思わず大きな声を出した。

「そうなんだ。オーフは知ってた?」

「知りませんでした。みんな山賊団だと言っていたので」

「俺は貴族に雇われた盗賊たちって聞いたけどな。ブレスホークって名前なんだな」

 男は手で頭を押さえる。こんな事も知らないやつらが、こんな大それた虐殺を行ったなど信じたくなかった。

「お前らは一体何者なんだよ」

「俺とオーフは、そのブレスホークってやつらに村から連れてこられたんだ。で、魔物狩りをやらされてた」

「奴隷狩りのガキだったのか。それじゃあお前は」

 男はイクシーを指さす。

「俺は、まあなんというか、魔物に襲われてるオーフとガレを見つけて助けたんだけど。それで送ってきたら、なぜか殺し合いになっちゃった感じ。そんなつもりはなかったけど、ガレが攻撃しちゃったから」

「しょうがねえだろ。あいつが殺されそうになってたんだから」

 男は頭痛がする思いだった。単なる偶然で犯罪組織の数十人が殺されている。人数は少ないが、その戦闘能力は底が知れない。

「ところで、おじさんは何で牢屋に捕まってたの?」

 イクシーの言葉に、男は顔を睨み付ける。

「気安く呼ぶんじゃねえ。俺はバイセン。ロックリザードの商人だぞ」

 イクシーたちが揃って首をかしげる様子に、バイセンの顔が歪む。

「それも知らねえのか! どうなってんだクソが!」

 叫んだあと、苛立ち紛れに地面へ唾を吐く。

「知らないんだからしょうがないでしょ」

「お前らどんな生活してたんだよ……」

 ガレとオーフは村から一度も出たことはなく、イクシーはつい最近までこの世界とは違う世界で暮らし、シャロは地面へ埋まっていた。

「ロックリザードってのはな、でかい組織の名前だ」

 まだら鱗の都市という場所がある。かなり大きい都市で、大小いくつもの犯罪組織が集まり縄張りを作っている。元々は正式な名前のある場所だったようだが、今では誰も覚えていない。

 その都市でも上位に入る規模の犯罪組織が【ロックリザード】だった。バイセンはそれに属する商人の一人で、商隊を率いて移動しているとブレスホークの集団に襲われた。

 バイセン以外の人間は殺され、彼だけがここに連行された。

「それは大変だったね。でも、どうして襲われたの?」

「ロックリザードに敵対してるやつがブレスホークを仲間にしたって噂は聞いていたが、それは本当だったらしいな。油断してたわけじゃねえが、人数が違いすぎた」

「でも、どうして一人だけ殺されなかったんだろう」

「殺されたくなかったら仲間になれって言われたさ。死んでもなるかって笑ってやったら殴りやがって。アイツも死んだか? チッ、一発殴ってやりたかったぜ」

 バイセンは殴られた顔を手で擦った。まだ痛みが残っている。

「まあいい。ブレスホークのやつらに報復しねえとな。皆殺しだ」

「みんな死んでるよ」

 バイセンはイクシーを馬鹿だと言うかわりに小さく笑った。

「ブレスホークはこの程度の人数じゃねえよ。本拠地には何倍もの人数がいる。まあロックリザードの敵じゃねえが。こんな舐めた真似してくれたんだ。潰してやらねえとな!」

 バイセンは凶悪な笑みを浮かべる。それは商人というより、犯罪組織の幹部のほうが似合う表情だった。

「ふーん。頑張ってね。俺は関係ないけど」

「お前はどうだか知らないが、ガキどもは関係ある。ブレスホークの縄張りのやつらだったら報復対象だ。やるときは徹底的にやらねえとな」

 ガレとオーフが驚いた顔になる。

「どうしてだよ! 俺たちはあいつらに連れてこられただけだし、あんただって襲ってないっ」

「関係ねえよ。ブレスホークに関係してるやつらは全員潰す。そういうことだ」

 ガレは怒りをこめた目で睨む。オーフも同じだ。

「オーフ! こいつ殺してやろうか」

「…………」

 子供の視線に、犯罪組織の一員であるバイセンが気圧される。オーフは強力な炎の魔法を使い、ガレは右腕から剣を生やしたことを思い出したのだ。

 三者がにらみ合うなか、イクシーが口を開いた。

「殺すのはやめたほうがいいと思う。そうしないと俺たちは関係ないって証明できる人がいなくなるし」

「……じゃあ、どうするんだよ」

「なりゆきでだけど、俺たちで殺しちゃったし。たぶんブレスホークが復讐に来ると思うんだよね。だからさ、本拠地を攻めようよ。全滅させちゃえば復讐される事はないし、ロックリザードだっけ? そっちには俺たちが関係ないってわかってもらえるだろうし」

 イクシーの提案に、シャロ以外の全員が言葉を失った。

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