第22話 サイバーパンクと捕まっていた男

「殺したって、お前みたいなナヨっちい男と、ガキでか? もっとマシな嘘を言ってみろ」

 中年男性はイクシーたちそれぞれを威嚇するように細めた目で見ると、忌々しげに吐き捨てた。

「信じてくれそうにないや。だったら見てもらうしかないな。どうやらこのひとって、あいつらの仲間じゃないみたいだし。ねえ、この牢の鍵ってどこ?」

 ガレとオーフは首を横に振る。

「すいません。どこにあるか知らないです」

「じゃあ壊すしかないか」

 イクシーは人差し指を伸ばした手を鉄格子に近づける。その指に亀裂が入り割れたのを見た牢の中の男は、目を丸くした。

「なんだぁっ!」

「お、簡単に切れた」

 イクシーの指先には、手術用レーザーメスが内蔵されていた。手術だけではなく、出力を上げれば近接武器としても使用できる。

 指を動かすと鉄格子は何の抵抗もなく切断されていく。

「下のほうを切るのけっこう面倒だな」

 指先のレーザーメスの有効距離は長くない。イクシーはしゃがんで鉄格子の下側を切っていく。一分もかからず鉄格子には人が通れる大きさの空間が完成した。

「よし。これで出られるでしょ」

 男は床に転がる切断された鉄格子を、信じられない思いで見ていた。

「お前、魔法が使えるのか?」

「俺は違うよ。とりあえず外へ出よう」

 イクシーたちは背中を向けて歩き出した。男はどうするべきかと考えたが、ここに残る理由もないのでその後を追った。

 階段を上ると部屋のなかにいる子供たちが、不安そうにこちらを見てきた。男は眉間にシワを寄せた。

「なんでガキがこんなにいる」

「一時避難って感じ? それよりおじさん、いろいろ聞きたい事があるんだけど」

「うるせえっ! おい、あいつらを殺したって言ってたよな。本当なのか?」

 イクシーは肩を落としてため息をつく。

「わかった。証拠を見せるよ」


 村の外へ運んだ死体を前に、それぞれが別の顔をしていた。

 イクシーは嫌そうに顔の片側を歪め、オーフは腕で肩を抱いて怯えた顔を伏せてなるべく見ないように。ガレはもう一度殺してやろうかという怒り。シャロは無表情。中年男は目と口を開いた驚愕の表情。

「これを……お前らがやったっていうのか……?」

「そうだよ。あっ、オーフ。この死体を魔法で燃やしてくれない?」

「ぼ、僕ですか!」

「うん。ずっとこのままにはできないし、確か病気の原因になるんだよね」

「わかりました……」

 オーフが両手を広げて死体へ向ける。

「えいっ!」

 オーフの手から大蛇のような炎が飛び出した。炎は死体を盛大に燃え上がらせる。イクシーが適当に運んだ死体は置かれた範囲が広く、オーフは炎を出し続けながら体の向きを変え、全ての死体を燃やす。

「これでよしっと」

 中年男はあまりの驚きに声が出なかった。これほど強力な魔法使いは見たことがなかった。炎の魔法は一般的だが、普通は火の玉を発射する程度で、こんなに激しい炎を長時間出し続けるなど無理だ。しかも使用しているのは、まだ十歳ほどの子供だった。

「どうなってんだこりゃぁ……」

「これで信じてくれた?」

「あのガキの魔法で殺したんだな」

「いや。魔法はシャロも使えるよ。ちょっとこの人に見せてあげて」

「わかりました」

 シャロは指一本動かすことなく、青い光の魔法弾を発射した。近くにあった木の幹を簡単に貫通し、木は倒れて大きな音をたてた。

「なっ……」

「俺も俺も! 俺も戦ったんだぜ!」

 ガレの右腕が割れて、金属の歯車の激しい音とともに飛び出す。

 男は顎が外れそうなほどに口を開いて固まった。

 強力な魔法使いが二人に、腕が割れて中から武器が飛び出す二人。あまりに現実離れした光景に、脳が理解できずにいる。

 一機のドローンがイクシーへと接近してきた。

『周囲に敵の存在は確認できませんでした。引き続きドローンは周辺警戒を続けます』

「ありがとうフィア」

 空を飛び言葉を話す見たこともない鉄の塊であるドローンを見た男は、自分が夢の中にいるのではないかと思えた。

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