第19話 サイバーパンクで村へ訪問

「返事がないなぁ」

 こちらをただ見ているだけの男たちに、イクシーはどうするべきかわからず眉間にしわを作る。レイドアーマーの手に乗るガレとオーフへ目を向ける。

「ねえ、ガレ、オーフ。君たちからも言ってくれない?」

「は、はい。あのっ! この人は僕たちが魔物に襲われていたら助けてくれたんです! それと魔物を狩ってきました!」

 オーフは巨大昆虫魔物の死体を指さす。その言葉に男たちが顔を見合わせて話し出す。

「おい、どうする?」

「どうするってもよ……あんなゴーレムと見たことねえ変な馬車を持ってるやつだぞ」

 イクシーは話が通じたと思いレイドアーマーを進める。

「お近づきのしるしの魔物でーす」

「待て待て! 止まれー!」

 男が慌てた顔で叫ぶ。

「そのゴーレムを近づけるなっ」

「でも、そうしないとこの魔物を運べないよ。ラボトレーラーは通れそうにないから」

 村の周囲は低いうえに雑な木製の柵に囲まれ、入り口はそこだけ柵が切れている。その幅はラボトレーラーよりも狭い。村の道幅も同じぐらいで、ラボトレーラーが進めば建物をなぎ倒してしまうだろう。

「魔物とゴーレムはそこに置いていけ! お前らだけついてこい!」

「どうしようかな」

『危険です』

 フィアの言葉は正しい。こちらはたった四人だけ。あいては武器を持った男が十人以上。村のなかにはさらにいるだろう。

 イクシーはガレとオーフ、シャロへ目を向ける。ガレとオーフは人質になっている仲間が心配だろうし、シャロは魔法があるので安全だろうと思う。そして自分は。

 ガンメタルに輝くサイバネ手術された自分の腕を見る。

「フィア。いざって時は頼むよ」

『お任せください』

 レイドアーマーはしゃがむと手を地面へ着けて、ガレたちを降ろす。イクシーも胸部ハッチから飛び降りた。

「じゃあ行こうか」

「はいっ」

「おう!」

 シャロは無言。

 イクシーたちが近づいていくと男たちは左右に分かれ、包囲する形になる。いきなり戦いになったりしないだろうかと心配していると、体格の良い男が口を開いた。

「ついて来い」

 イクシーたちは男たちに周囲を囲まれたまま村の道を歩く。ガレとオーフは緊張した様子で前を向いているが、イクシーは珍しそうに左右を見ている。シャロは無表情。

「へー。本当にRPGみたいだ」

 ここはまさに寂れた村といった様子だった。人気はなく、荒れて廃墟となった建物もいくつか見える。建物の間に鶏に似た鳥がいたが、ここで放し飼いにされているのかもしれない。

「なあ、みんなはどこにいるんだ?」

「この先だ。ちょうど上役がやってきててな。一緒にいるぜ」

 ガレの言葉に、先導している男が振り向かずに言う。

『どうやら村を支配する集団の上位者が来ていたようです。オーフたちの情報より人数が多い理由が判明しました』

 イクシーにだけ聞こえるフィアの声。サイバネ手術によってインプラントされた通信機能だ。

 事前に偵察すると村にいる男の人数が多かったので質問したが、二人とも理由がわからないと言っていた。

「偉いひとがいるなら、すぐ話し合いができるかな」

 イクシーはのんきにそう思っていた。

 しばらく進むと広い場所に出た。馬車が数台停まり、木箱が積まれて置かれているので、ここは荷物の集積所なのかもしれない。

「みんな!」

 オーフが思わず声を出す。幼い子供の男女が二十人ほど地面へ座らされていたのだ。

「ああん? 何だそのガキは」

 子供たちの前に立っていた男が振り向く。その手には剣が握られていて、刃は赤い血で濡れていた。

「おいっ! 大丈夫かっ!」

 ガレが叫ぶ。男の足元に血を流す子供が倒れていた。

「ううっ……」

 ガレと同じ年齢に見える少年は、左肩を押さえて呻いていた。流れる血で左腕は赤く染まっている。

「へい。このガキは魔物を狩りに行かせたやつです。呪鎖の荒野へ行ったらしいんで、とっくに死んでると思ってたんですがね」

「で、そっちは」

 男はイクシーとシャロへ目を向ける。

「こいつらがガキどもを助けたらしいんで。あとデカイ魔物を持ってきました」

「へー」

 男の視線がシャロを観察する。

 彼女の顔は間違いなく美しい。貴族のなかにもこれほど美しい少女はまずいないだろう。体つきはいささか幼いが、十分高く売れる。そう考えた男は、酷薄な笑みを浮かべた。

 男が近づいてくるとガレが叫ぶ。

「なんでアイツを斬ったんだ! 俺はちゃんと魔物を持ってきたぞ!」

 男は面倒そうに髪をかき上げた。

「遅ぇんだよ。ただでさえ最近は魔物の数が少なくて、上から言われてんだよ。あいつらは一匹も狩れなかった。だから、お仕置きだ」

「ふざけんなっ!」

 男の目が細められる。

「……見せしめに殺すか」

 体の向きを変え、倒れて呻く子供へと足を踏み出す。

「なっ! ふざけんなっ!」

 ガレが飛び出した。男はそれを知っていたかのように振り向くと、口を吊り上げた凶悪な顔で剣を頭上に掲げた。

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