第18話 サイバーパンクで初訪問
「おおっ、ちゃんと動く!」
ガレは新しい自分の右腕を曲げ伸ばし、手指を動かして嬉しそうな顔になる。
切断されていた腕は元通りになった。肌の色も同じ。これはオーフが元の腕と同じ外見にするべきだと、強硬に主張したからだった。イクシーとガレは長い話し合いの末、いわゆる中世騎士の西洋鎧のような腕に決めたのだが、オーフが「そんな腕にしたらみんな怖がるし、服を着るのも大変だよ」と反対したのだ。
「うんうん、問題なさそうだね」
満足そうなイクシーと、安心した様子のオーフ。
「さて。ガレの手術も終わったし、二人を送っていかないとね」
『イクシー。話によると、二人が暮らしていた場所は武装勢力に支配されていると考えられます。調査もせずに向かうのは危険です』
「でも、人質がいるんだよ? 早く行ったほうがいいだろ」
『相手勢力の規模が不明なので、現在の戦力で問題ないのか判断できません』
イクシーは腕を組んで唸る。たしかに敵の強さがわからないのは不安だ。魔法が存在する世界なので、一撃で山を消滅させるような攻撃をされる可能性はある。巨大昆虫よりも強い魔物も存在するかもしれない。
それでもイクシーは行きたかった。シャロとオーフ、ガレに出会うことができて人恋しさは薄れた。だが、この何もない荒野にずっといるわけにはいかない。インベントリにある素材もいつか無くなるし、いつ魔物に襲われるのかもわからない場所より安全な場所へ行きたいのだ。
「離れた場所から偵察して、危なそうなら近づかなければいいだろ?」
『……せめて最低限の防衛機能を追加するべきです』
「ふぁ~」
村の入り口で見張りをしていた男は、退屈のあまり大きなあくびをする。この場所に人が訪れることはほとんどなく、魔物の襲撃もまず無い。ただ立ったまま、何もない丘陵地帯を見ているだけ。そんな毎日だ。
「ん、なんだありゃ?」
だが今日は代わり映えしない景色に異常があった。遠くに大きな土煙が立ち上っている。まるで大量の馬車が一斉に走っているかのようだ。
「変な鎧を着たやつが乗ってるのか? 馬車っぽいが、馬がいない?」
土煙をあげて走るトレーラーに乗ったレイドアーマーの中で、驚いた様子の見張りの姿を、上空の偵察ドローンカメラ映像でイクシーは見ていた。映像の男は走って村の中へ向かう。
「やっぱり銃はないか」
『はい。確認された武器は金属製の剣や斧、弓矢のみです。銃器らしき物はありません』
ドローンの映像は複数ある。村の全体をいくつものドローンで撮影していた。見張りの男が談笑していた男たちの元へ走り寄るのが見えた。
「これからどうなるのかなー? 仲良くできればいいけど、オーフたちの話を聞くと無理そうなんだよなー」
村の入口に十人以上の男が武器を持って並んでいた。顔が肉眼で確認できる距離になったところでトレーラーを停止させる。
「あのヘンテコな馬車は何だ? ってかやたらデカくねえか?」
男たちは困惑した顔で、ラボトレーラーとレイドアーマーを乗せたトレーラーを見ている。彼らの常識のはるか遠くにある光景を理解できない。なにしろサイバーパンク世界からやって来た存在なのだ。
「おい、動くぞ!」
レイドアーマーがゆっくり立ち上がると、トレーラーから地面へおりる。そして膝をついてしゃがむと、トレーラーの運転席へと手を近づけた。ドアが開き、レイドアーマーの手のひらへ飛び乗るガレとオーフとシャロ。
次にレイドアーマーはラボトレーラーの後ろへ向かう。そこには引きずってきた巨大昆虫魔物の死体があった。ラボトレーラーと繋いでいた太いワイヤーを外すと、それを掴んで村へ向かって歩きはじめる。
「こっちへ来るぞ!」
巨大な魔物を引きずってくる鎧巨人に、男たちが見るからに狼狽える。一歩ごとに大きくなる足音と振動に、今にも逃げそうになっていた男がレイドアーマーの手に乗った子供の姿を見つけた。
「なあ、あれってウチのガキじゃないか?」
レイドアーマーは、男たちの距離が十メートルほどになると足を止めた。剣や斧を構えているが、男たちの顔はひきつっている。
「お、おいっ! お前はガレとオーフだったか、何でそんなもんに捕まってやがるっ!」
勇気を振り絞った叫びに、レイドアーマーの胸部が開く。
何が起こるのかと息をのみ武器を握る手に力がこもる男の前に現れたのは、白衣を着た黒い髪の曖昧な笑みを浮かべた青年だった。
「えーっと……子供たちを連れてきましたー」
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