第20話 サイバーパンクの威力確認
「死ねよクソガキ!」
男は剣を振り下ろす。対するガレは何も持っていない右腕を振り上げた。
「オラァッ!」
ガレの右腕が、縦に割れた。硬い金属の歯車が噛み合う耳障りな音が鳴り、腕から刃が飛び出す。そして斬りかかる。
腕から生えたチタン合金製のブレードは、男の手入れもろくにされていない鉄の剣を簡単に叩き折り、そのまま体を縦に切り裂いた。
「は?」
男はこんな子供がなぜ剣を折ったうえに、自分の体まで勢いを失うことなく斬れたのか理解できなかった。
サイバネ手術で新しくなったガレの右腕【汎用アタッチメントアーム・スチールギア】は、ゲーム開始時にでも使用可能な初期装備だ。特徴は腕に内蔵された歯車型の接続機構で、これによっていくつもの武器を装備可能だった。剣だけでなく銃やビームなどの射撃武器も装備できるので、ゲーム初心者が使いたい武器を使えるため人気がある。初期装備なのでコストも低く破壊されても安くすむのも理由だ。
そんな初期装備でも電力で動く機械の腕は一般的な成人男性の倍以上の力があり、ガレでも簡単に剣を叩き折ることができた。
血を吹きながら男が地面へ倒れると、周囲にいた男たちは一瞬混乱したが、すぐに怒りに顔を染めると武器を構えた。
「テメェ、やりやがったな!」
斧を持った男が背後からガレへ走る。
「ガレっ」
オーフが腕を前へ突き出すと、球形の炎が発射された。
「ぎゃあっ」
ガレに襲いかかった男は、オーフの魔法で全身を炎に包まれた。叫びながら両手をでたらめに振り回していたが、すぐに叫び声も消えて倒れて動かなくなる。
「ま、魔法だと!」
オーフは振り向くと、動揺している男たちへ腕を横に振る。その動きに合わせて、炎が扇状に広がった。
「熱ぃ!」
炎が男たちの顔を焼き、服だけでなく髪の毛まで火をつける。
「くそがっ!」
「殺せ殺せー!」
周囲にはまだまだ男たちがいた。無事だった者がガレに向かい、オーフに武器を構えて睨みつける。何人かの男が増援を呼びに走る。
イクシーはガレに斬られた男と、オーフが燃やした男を見て視線を外し、周囲から向けられる殺意に頭を抱えたい気持ちだった。
「どうしてこうなるんだ……フィア、プランBだ!」
『了解』
男たちの何人かが急に悲鳴をあげた。
「どうした!」
そう言った男も地面へ倒れる。
頭上を複数の物体が高速で横切った。いつの間にか村の上空、いたるところに何かが浮いている。イクシーが事前に待機させていたドローンだ。
「ぎゃあっ」
増援として呼ばれた男が路地裏で倒れる。ドローンは空だけでなく、建物の屋根上や路地の陰、樹木や草のなかなど人目につかない場所にも隠してあった。このドローンにはパルスレーザーが装備されていて、普通の人間の肉体程度なら貫く威力があった。
ただ、これほど威力があったのはイクシーの計算違いだった。
「えっ、弱すぎない?」
ドローンのパルスレーザーは一番威力が低く設定されていた。最初は最大出力にしようかと思っていたが、人を撃つと死んでしまうかもしれないと怖くなり、威力を落とした。それでもパルスレーザーは簡単に男たちを殺してしまった。
イクシーは最初の戦闘が巨大昆虫魔物であり、そこが基準となってしまった。シャロの魔法も強力であり、この世界の人間はみんな強いのではないかと考えていたのだ。それは間違いだったのではないかと、今は思っていた。
「ちくしょう! ガキを人質にするぞ!」
「まずい、シャロ! 子供たちを守って」
「はい」
地面に座ったまま怯えていた子供たちを、ドーム状の青い光が包む。シャロの魔法シールドに男は武器を叩きつけるが、簡単に跳ね返される。
「てめー何してんだよ!」
青いドームを攻撃していた男を、ガレが斬る。
「わああああ!」
オーフが炎を連続で放つ。建物に当たると燃え上がり、そこに隠れていた男たちは逃げだし、ドローンのパルスレーザーに倒れる。
「あーもう、ムチャクチャだ……」
周囲には血を流した男たちが倒れ、いくつもの建物が燃え、頭上をドローンが飛ぶ。イクシーは呆然とあたりを見回し、建物の二階の窓から弓を構える男を発見した。狙いはガレかオーフのどちらかに向いているように見えた。
「っ!」
イクシーは反射的に右手を向けていた。手首から二本の棒が突き出ると、細いワイヤーが繋がった針が発射される。二本の針は男に刺さると、ワイヤーから高圧電流を流し込まれ、即死した。
この武器はゲームでは強い武器ではない。精密機器を電流でショートさせたり、敵をしばらく行動不能にするだけで直接的なダメージはない。だがそれは、あくまでゲームのなかではそういう設定だっただけだ。現実になってしまえば、サイバーパンク世界のセキュリティロボットを行動不能にできる電流は、普通の人間を即死させる。
「イクシー様。大丈夫ですか」
「うん……」
おそらくあの男は死んだのだろう。そうわかっているのに、特に衝撃を受けていない自分にイクシーは戸惑っていた。
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