第16話 サイバーパンクで異世界人を強化二人目
「ガレの強化なんだけど、オーフみたいに魔法を強くするのはできないんだ」
「まあ、俺は魔法は使えないしな」
ガレのステータスにはスキルがひとつもなかった。脳も一般的な見た目だった。
「獣人だからしょうがねえけど」
ガレの頭の上にある獣の耳が動く。
「ガレみたいなケモミミの獣人って、いっぱいいるの?」
「ケモミミってのは知らないけどよ、獣人ならどこにでもいるぞ。村だって半分ぐらいはそうじゃねえか」
オーフも頷く。
「そうなんだー。俺のいたところは獣人いなかったから」
「お前、いったいどこから来たんだよ」
「異世界。で、まあとにかくガレを強化するには、サイバネ手術をするしかないんだ」
「なんだそれ?」
イクシーは両手を広げてガレに見せる。指から手のひら、さらに腕にまで線が浮かんだのが見えると、その線に沿って皮膚が開いた。
「「うわあっ!」」
ガレとオーフは驚いて後ずさる。オーフは姿勢を崩して床に尻をぶつける。ガレも治療ポッドの中に液体が満ちていなければそうなっていただろう。
「ゴメン。驚いた?」
「い、痛くないんですかそれ……」
「ぜんぜん大丈夫だよー」
腕の中身を見せたまま指と腕を動かしてみせる。
「これがサイバネ手術。体を機械に変えるんだ」
「機械ってなんだよ」
「うーん。君らにわかるように説明すると、鉄でできた魔法具ってところかな。ガレの右腕のかわりに、これをつけるんだ」
イクシーは自分の機械義肢を動かす。その様子をガレは真剣な目で見ていた。
「俺の腕、治るのか……?」
イクシーは腕を元に戻すと、腕組みをして唸る。
「うーん。そこなんだけど、治療ポッドに入っていれば腕は元通りに生えてくる。でも、それだと強くはなれない。だから君に聞きたいんだ。どうしてほしいのかって」
ガレは無言で今はそこにない右腕を見る。
「あの、僕みたいに魔法を使えるようにできないんですか?」
「ゴメン。俺には無理なんだ」
バイオテクノロジー技術があれば遺伝子改良を行いESP能力者に、つまり魔法使いにすることはできる。しかしイクシーはサイバネ手術スキルに全振りしたキャラクターだ。最大レベル最強クラスのサイバネ手術は可能だが、バイオテクノロジー技術は低レベルのものしか使用できず、個人の戦闘能力も高くない。レイドアーマーに乗っても、実際は中位程度の戦力にしかならない。ゲームでの大規模レイドバトルでは直接戦闘に参加せず、後方支援専門だった。
「そのかわり、俺にはサイバネ手術でガレの右腕を、普通の人間より強くできる。もし途中で嫌になったら元に戻せるからどうかな、やってみたくない?」
「……その腕になったら、あの魔物でも倒せるようになるのか?」
「いや。俺の腕はサイバネ手術用だから、攻撃力は正直低い。でも戦闘用のやつにすれば倒せる。ただレベルが低いから、そこまでは無理だけど、今よりは強くなれるぞ」
ガレは右肩を強く掴みしばらく考えた。
「俺はやる。そうすればあのクソ野郎たちの言いなりにならなくてすむからな」
「ガレ……」
心配そうなオーフを、ガレは決意をこめた目で見る。
「よし、じゃあどの腕にするか決めよう!」
「は? なんだって?」
イクシーはとても嬉しそうにいくつものホログラムを空中に浮かべた。
「これなんかどうかな。近接戦闘型多関節アーム、スネークペンデュラム! 自由に動かせるし、離れた敵にも攻撃できるぞ」
「こんな長い腕、邪魔すぎるっ。それよりもっと強そうな腕はないのかよ? お前のゴーレムぐらいでっかいやつとか」
「さすがにレベルが足りなすぎる。見た目だけそれっぽくできるけど、出力が少なすぎてまともに動かせない」
能力はコスト制限があったが、ゲーム内の外見はかなり自由にカスタマイズが可能だった。ただサイズを大きくする場合は、そのぶん重量が増える。極端に大きい場合は、サイバネ手術の強化ランクが高くなければならなかった。
「こっちはどう? 多腕型バトルアーム、トライデント・スピア! 三つある腕それぞれに違う武器をセットできるんだ!」
「そんなに腕はいらねえよ! もっとでかい剣とかくれって!」
イクシーとガレはホログラムを見ながら、意見をぶつけ合う。片方は自分の趣味である特殊なサイバネアームをすすめ、もう片方はとにかく大きく強力そうなものを求める。
すでに三十分以上も二人は話し続けていた。オーフはさすがに呆れた顔になり、シャロは無表情のまま。
「やっぱりドリルだよな!」
「おい、手はどこにいったんだよ! どうやって物を持つんだ!」
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