第15話 サイバーパンクで異世界人を強化してみよう

 イクシーはガレとオーフに、自分が魔物も魔法も存在しない世界から突然この場所に放り出されたことを説明した。

「魔物がいない場所が本当にあったのか!」

「この大きな鉄の馬車とイクシーさんが乗っていたゴーレムみたいなのも、魔法具だと思ってました」

「魔法具ってなに?」

「魔法で動く馬車や、魔法が使えなくてもいろんな魔法が使える杖とかです」

 この世界では魔法を動力に使う技術があるのかと、イクシーは興味がわく。もしかしたらサイバネ手術にも使えるかもしれないからだ。

「その魔法具って今持ってないのかな」

「俺らが持ってるわけないだろ、あんな高いモン」

 治療ポッドのガレは馬鹿にする口調だ。

「それよりもだ! 俺はなんでこんなものの中に閉じこめられてるんだよっ!」

 ガレは治療ポッドを内側から何度も叩くが、わずかに音がするだけ。その強度は防弾ガラス並だ。

『あなたを治療するためです』

 フィアの声にガレはあたりを見回す。

「だれだよ。どこにいるんだ」

「どこにっていうと、目の前にいるみたいなものだな。フィアはラボトレーラーそのもの、この乗り物が体みたいなものなんだ」

「意味わからねえよ」

 イクシーは肩をすくめて疲れたため息を吐く。魔法が存在する世界の人間に、電子技術で作られたAIを説明するには時間がかかりすぎる。

「とにかく、君を治療しているのはフィアだ。もう腕は痛くないだろ?」

 ガレは右腕の切断面を触って驚く。

「痛くねえ!」

「……ところで、提案があるんだけど」

 ガレはイクシーが浮かべた表情に、眉をしかめる。明らかに胡散臭い笑みを浮かべていた。

「嫌だね。あのクソみてえなやつと同じ顔しやがって」

「まあまあ。これは君にとっていい事だと思うよ。それと、オーフにとってもね」

「僕もですか?」

 オーフのステータスを調べるため全身をスキャンすると、脳がESP能力者と似た構造になっていた。ゲームの設定では遺伝子改良によって脳に新たな部位が発現し、それによってESP能力を使用できるようになっている。微妙な違いはあるが、オーフの脳はESP能力者と同じだとすれば、ESP能力者用のアイテムを装備できるかもしれなかった。

「オーフは火の魔法が使えるんだろ」

「え? それ言ってましたか? はい。小さな火が出せるぐらいですけど」

「その魔法を強くできるかもしれないんだ」

 オーフだけでなくガレも驚いた顔になる。

「レベルを上げてくれるんですか?」

「え? 違うけど」

「は? オーフのレベルを上げずにどうやって強くするんだよ」

 イクシーとオーフはお互いに首をかしげる。ガレは怒りの表情。

「もしかして、こっちの世界ってレベル上げるとステータスも上がる仕様なのか」

 イクシーがプレイしていたサイバーパンク世界のゲームでは、レベルというのは【自分を強化できる限界値】を決めるものだった。レベルを上げても攻撃力や防御力などのステータス値は変化せず、サイバネ手術やバイオテクノロジー技術による遺伝子改良をすることで強化できた。

 レベル上げのためにモブ敵を倒しクエストを進め、同時に強化素材を集めて自分を強くする。ちなみに素材集めはソロだと過酷で、やっと素材が集まったときには、レベルが上がりすぎているということもゲームではよくあることだった。

「はー。レベルが上がれば強化されるの羨ましいなー。素材集め、本当にキツかったから……」

 過去を思い出して遠い目になったイクシーを、ガレとオーフが訝しげに見る。

「あっ、ゴメンゴメン。ちょっと辛かったことを思い出して。それでさ、オーフの魔法を強化できるアイテムがあるんだ」

 イクシーは棚に置いてあった物を手に取る。

「これは、ESP強化外部ブースター。着けてみてよ」

 ESP強化外部ブースターは白色の機械的なチョーカーだった。

「この出っ張ったほうを首の後ろ側にして」

「え、え?」

 オーフの了承を待たずにイクシーは装着した。ESP強化外部ブースターがわずかな音とともに自動でサイズを調整する。

「これでよし。ちょっと魔法を使ってみてよ」

「は、はい。わかりました」

 オーフは半信半疑で魔法を使う。いつも全力を出して指先に小さな火が点る程度なので、同じように力をこめる。するといつもとは違う、多くの魔力が体内から指先に向かって流れていく。

「わ」

 今まで感じたことがない感覚にオーフが声を出した瞬間、火柱が指先から天井へ向けて伸びる。火柱が天井に達する寸前、青い光の壁が行く手を阻む。シャロの魔法シールドだ。

「あぶなっ。ありがとうシャロ」

「いえ」

「えっえっ……これって……」

 オーフは呆然と自分の指を見ている。信じられない威力の魔法だった。弱い魔物なら簡単に燃やしてしまう火の勢いだ。本物の魔法使いの魔法と比べても遜色ない。

「一番弱いやつでこれか」

 オーフは本人のレベルが一桁という低さなので、最低ランクのものしか装備できない。一応何かあった場合を考えて、そのなかでも一番強化値が低いものにした。それでもこの威力。

「すげーぞオーフ!」

 ガレは興奮した様子で腕を振り回している。

「これで強くなれるってわかってくれたかな。そしてオーフだけじゃなくガレ、君も強くなれるんだ」

「俺も?」

「うん。ただちょっと、オーフとは違う方法になるんだけど……」

 イクシーはガレの切断された右腕を見ながら、目を怪しく光らせる。

「その目、なんか気持ち悪いな……」

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