第14話 サイバーパンクと二人目の異世界人
ラボトレーラーへ戻りキッチンスペースへ行くとオーフが駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか! イクシーさんたちが強いことを知っていても心配で……」
「ああ、平気平気。また襲われたけど、最初のより弱かったし。それでこれもたぶん魔物だと思うけど、知ってるやつかな」
イクシーは先程倒した魔物の画像をホログラムで出す。急に空中に現れた魔物の画像に驚いたオーフだったが、すぐに落ち着きを取り戻すと真剣に見る。
「見たことがない魔物です」
「そうかー。ありがとう。ところでガレは起きたかな」
「まだ眠ったままです」
「たぶん明日には起きると思うから、君も寝たほうがいいよ」
「……わかりました」
オーフがベッドルームへと姿を消すと、イクシーは冷蔵庫から飲み物を取ると椅子へ深く腰かけた。背をもたれて上を見ながら口を開く。
「フィア、何が手にはいったの?」
『インベントリに収納した結果、巨大昆虫型の魔物の脚からは【魔力暴走反応集積素子】と【対高魔力因子積層外殻】が。小型の魔物からは【高魔力反応集積素子】が入手できました』
「……どれもゲームにない素材だな。あと、手にはいるアイテムの種類が少なすぎる。体毛や舌があるなら細胞もあるだろうし。インベントリの仕様がよくわからないんだよなー」
ゲームのアイテムが全部入っているが、それがどこに存在しているのかわからない。プリンターから出力できるが、その出力する前の物質が存在していない。ラボトレーラーを調べた結果、プリンターに出力する素材を貯めるカートリッジがどこにもない事が判明したのだ。そうなるとインベントリの中身は別次元の異空間にでもあることになる。
「そもそも、ゲームから異世界に飛ばされたのが訳わからないし」
イクシーは背後に控えて立つシャロをちらりと見る。
「急に主だとか言われるし、もう疲れたよ……」
イクシーはテーブルへ突っ伏すと、脳をスリープモードにした。全身にサイバネ手術を施したイクシーは、睡眠をとらなくても体調が崩れることはない。それでもまだ自分が人間であると思っているので、眠らないのは気持ち悪かった。
「……」
眠ったイクシーを見てシャロはベッドルームへ向かい、毛布を持ってきて体にかける。
「おやすみなさい、イクシー様」
『スリープモード解除』
その声でイクシーは一瞬で覚醒する。この寝起きの良さはサイバネ手術でしか味わえない感覚だ。
「おはようございますイクシー様」
「あ、おはようシャロ」
シャロはイクシーにかけられていた毛布を腕へ抱える。
「シャロがかけてくれたんだ。ありがとう」
「いえ」
小さく一礼したシャロはベッドルームへと毛布を戻しにいく。
「今日の朝メシはどうしようかな……」
イクシーは冷蔵庫のドアを開けたが、食欲はない。サイバネ手術の弊害だった。それでも自分が人間だと思っている限り、なるべく人間と同じ行動をしたかった。そうしなければ自分の何かが変わってしまう気がしている。
ゼリードリンクを手に取り、それを戻してベーグルサンドを掴む。飲み物はウーロン茶。
「オーフが目覚めていました」
「……おはようございます」
ベッドルームからシャロとオーフが出てきた。
「おはよう。朝メシは同じのでいいかな?」
シャロとオーフを椅子に座らせると、その前にベーグルサンドと飲み物を置く。オーフの飲み物はオレンジジュースだ。
「! このパンすっごくやわらかいです!」
オーフが夢中で食べるのを見ながら、イクシーもベーグルサンドを食べる。味はコンビニやファーストフード店で食べなれた味だ。
この異世界に来たときから、ラボトレーラーの冷蔵庫には食料と飲み物が入っていた。ベーグルサンドなどはサイバーパンクっぽい真空パックされたパウチに入っているが、いつ腐敗するかわからないので早めに消費しておきたかった。
朝食を食べ終えるとフィアの声がした。
『ガレが目覚めました』
「ガレ! よかった、生きてた……」
「おいオーフ! ここはどこだよ! 俺はなんで閉じ込められてる? しかも水のなかだぞ!」
治療ポッドの中でガレが暴れていた。声は口に装着されているマスクにマイクが内蔵されていて、スピーカーから聞こえるようになっている。
ずっとまくしたてているガレを見て、オーフは涙を浮かべた。
「イクシーさんたちが助けてくれたんだ」
「誰だよそれ?」
「俺がイクシーだよ。こっちはシャロ。よろしく」
ガレはそこでオーフ以外の人物がいることに気づいた。
『イクシー。私もいます』
「あー、フィアの説明は難しいからあとで」
「……お前らはいったい何なんだ」
イクシーは頬を指でかきながら苦笑まじりに言う。
「異世界からの迷子ってところかな……」
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