第13話 サイバーパンクと異世界バトル二回戦

 星明かりしかない真っ暗な荒野を、強烈な光が切り裂いていた。走る二台の車のヘッドライトだ。一台は普通のといっても、サイバーパンクの世界ではという注釈がつくトラック。もう一台は左右にコンテナが並び、その間に体高三メートルのロボットであるレイドアーマーを乗せたトレーラーだ。

『あと一分で到着します』

「本当に真っ暗だな……」

 荒野には建物はなく、もちろん街灯なんてものは存在しない。トレーラーのライト以外の光がない世界に、自分が本当に異世界へ来たんだという実感がさらに強くなった。

 ライトに巨大昆虫の亡骸が照らされた。とくに荒らされた様子もなく、イクシーが倒したときのままに見えた。

「よし、トラックに運ぶぞ」

「私は周囲を警戒します」

 シャロはトレーラーから出ると、運転席の上にふわりと浮かんで乗り、無感情に暗闇を見る。

「シャロって夜でも見えるの?」

「魔力を探知していますので、見えなくても問題ありません」

「へー、すごいなー」

『警戒ドローンを展開します』

 フィアも警戒ドローンを周囲に数台飛ばす。魔法と科学技術の警戒網が構築された。これなら何が来てもすぐに察知できるだろうとイクシーは安心する。

 作業はレイドアーマーに乗ったイクシーだけが行う。オーフはいても助けにはならないので置いてきた。もし彼がラボトレーラーに何かしようとしても、全てセキュリティがかかっているし、破壊行為には防衛ドローンやロボット、セントリーガンなんてものがラボトレーラー内部にも設置されている。それにガレの治療が終わるまではなにもしないだろうとイクシーは考えていた。

 レイドアーマーで巨大昆虫の魔物を引きずってトラックへ乗せる。トラックの後部コンテナは、最初にレイドアーマーを乗せたときのように開いて平らになっている。そうしなければこの大きさの魔物を乗せることはできない。

『センサーに識別不明の存在を感知。接近してきます』

 巨大昆虫をワイヤーで固定する作業をやめると、レイドアーマートレーラーへ向かう。

「武器をだして」

 レイドアーマートレーラーのコンテナの上部が開き、中身がせり上がる。シルエットは横に細長い長方形。全長はレイドアーマーの身長ほどもあるスナイパーライフルだ。

「暗視モード起動! なんだあれ?」

 レイドアーマーの暗視装置によって昼間のように明るい視界に見えたのは、こちらへかなりの速度で向かってくる複数の何かだった。

 見た目は蜘蛛に似ているかもしれない。平たく楕円形に近い胴体に六本の足がある。全身が大量の体毛に覆われていて、背中に複数見える赤い光は目だ。胴体の前には大きな縦に割れた口があり、細かい牙と紫色の長い舌が見えた。

「これよりは小さいけど、結構デカイよな」

『体高は成人男性なみのサイズです』

「数をまず減らさないとな」

 スナイパーライフルの狙いをつけようとした瞬間、青い光が複数の魔物を貫いた。シャロの魔法攻撃だ。青い光は魔物を貫通し、あるいは体を両断した。

「すごく効いてるな」

『最初に戦った個体とは防御性能が違うのかもしれません』

「イクシー様。私に任せて、作業を続けてください」

 シャロは指一本動かさずに、次々と魔物を片づけていく。青い彗星が地上の暗闇を横切るたびに、魔物の悲鳴が荒野に生まれる。

「たしかに大丈夫そうだけど、一発だけ」

 イクシーは狙いをつけてスナイパーライフルを撃った。魔物は一瞬で弾け飛び跡形もなくなった。

「おお。すごい威力」

「……イクシー様」

 シャロの声に怒りが込められてる気がしたイクシーは、素早くスナイパーライフルをコンテナに戻すと、ワイヤーで固定する作業に戻った。

「そうだ。あの魔物の死体もいくつか持っていこう。何か素材がとれるかもしれないし」

「私がとってきます。イクシー様は作業を」

「はい……」

 巨大昆虫の魔物の固定が終わると、シャロが魔物の死体を魔法で浮かせてその上に乗せた。

「シャロ、終わったぞ」

 イクシーはトレーラーの上で攻撃を続けるシャロに声をかけた。

「私は攻撃を続けます。行ってください」

「出してくれフィア!」

 トレーラーとトラックが動き出す。魔物はどこからか次々と途切れなくわいて出て、しかもトレーラーより走るのが速い。

「どれだけいるんだよっ」

 イクシーはトレーラーの上でレーザーライフルを使用して迎撃する。スナイパーライフルでは威力が強すぎたので、巨大昆虫の魔物には効果がなかった武器を使用してみると、十分な威力だった。

「このままラボトレーラーまでついてきたらどうする?」

『このまま敵がいなくなるまで走り続けるか、ラボトレーラーで籠城戦をするかです』

「どっちも嫌だなーっ」

 逃げながら戦い続け、ラボトレーラーが見えてくる距離になると、魔物の姿はいつの間にか消えていた。


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