第12話 サイバーパンクと異世界情報
「あの、美味しかったです!」
「おかわりは本当にいらない?」
「はい」
パスタを食べ終えたオーフとイクシーは、テーブルをはさんで向かい合って座っている。シャロはイクシーの横だ。
イクシーは食事をしなくてもいいのだが、オーフだけが食べているというのも落ち着かないだろうと考えたからだ。
「あのっ、ガレは大丈夫なんですか」
「そっか気になるよな。いっしょに見に行こう」
医療スペースへ向かい、透明な医療ポッドの中で充填された液体に浮かぶガレを、オーフはじっと見つめている。
「ガレは生きてるんですよね?」
『対象者の生命活動に問題はありません』
「この声は?」
「名前はフィア。声しか聞こえないけど、この治療ポッドとかを管理してるAIなんだ」
「えーあい?」
「あー、説明が難しいな……とりあえず、この子が入ってる治療ポッドを動かしてるやつだから」
「は、はい……」
目を閉じている、右腕がないガレの姿を並んで見る。
「君たちのことや、他にもいろいろ聞きたいことがあるんだけど」
「ガレを助けてくれるなら、知っていることは全部話します」
キッチンルームへ戻ると再び向かい合って座る。
「そうだなー。そういえばこの場所が呪鎖の荒野だって言ってたけど、それについて教えてくれるかな」
「呪鎖の荒野は、この山に囲まれた広い土地のことです。木や草がなくて生き物もいないのに、中に入るとどこからかとても強い魔物が襲ってくるって言われてます」
「へー。昔からそうなの?」
「たしか何百年以上も前からです。すいません、詳しいことは知らなくて……」
「いいよいいよ。それでさ、魔物ってなに?」
イクシーの言葉にひどく驚いた顔になるオーフ。
「魔物を知らないんですか!」
「いやー。俺が住んでたところには魔物なんていなかったし」
オーフは口を開いたまま呆然とする。魔物がいない場所など聞いたことがない。冗談で魔物がいない土地へ行きたいなど言っていたが、本当にそんな場所があるなんて思っていなかった。
「魔物がいない場所なんてあるんですか!」
「すっごく遠い場所にね。だからもう戻れそうにないけど……」
遠い目をするイクシーを見て、オーフの顔が曇る。
「あなたもここへ運ばれてきたんですね」
「え? どういうこと」
オーフはうつむきがちに話す。
「僕たちは売られたんです」
「誰に?」
「親と村にです。でもそうしないと、その地域を支配してるやつらにみんな殺されてしまう。だから毎年、何人か連れていかれます」
「ええー? そんな野蛮な場所なのかよ。厳しすぎるだろ異世界」
イクシーは思わず額を片手で押さえる。
横暴な支配者を倒して理想的な国を作るというのはよくある展開だが、イクシーとしてはそんなことをやりたくはなかった。ゲームでもクランの拡大や抗争は他人にまかせていて、自分はひたすらサイバネ手術をしているだけでよかったのだ。
「はあ……えっと、君たち二人はそこから逃げ出してきたってこと?」
「いえ違います。僕たちは魔物を狩ってこいって命令されたんです。そうしないと仲間を殺すって脅されて」
「ええっマジで?」
オーフは何か思い出した様子で顔を上げると、イクシーへ真剣な表情で言った。
「あのっ! 倒した魔物の素材をわけてくれませんか! 少しだけでいいんです。呪鎖の荒野の魔物はとても珍しいから、それできっと大丈夫なはずです!」
身を乗り出すオーフに押されて、イクシーは体を後ろに引く。
「わ、わかった。フィア、あれの死体ってどうしたっけ?」
『あのまま放置しています』
「よし、取りに行こう。トラックに乗せればいけるよな」
『相応のサイズのトレーラーがあれば完璧ですが、所有しているトラックでも固定すれば引きずることもできるでしょう。ただそのための作業ロボットがないので、迅速に行うにはイクシーがレイドアーマーを使用する必要があります』
「よし。やろう」
『固定用の器具とワイヤーをプリンターで出力します』
椅子から立つイクシーを見て、オーフは思わず言った。
「いいんですか? また魔物に襲われるかもしれないのに」
その言葉にイクシーは腕を組む。
「フィア。レイドアーマー用のトレーラーはできてる?」
『つい先ほど完成しました』
「それなら大丈夫だな」
歩き出すイクシーをオーフも追いかける。
ラボトレーラーの外に出ると、そこには奇妙な形の大型車があった。車体左右にコンテナがあり、その間の空間もやたら広い。そこだけコンテナが抜き取られたかのように見える。
『レイドアーマー専用トレーラーのコンテナには、すでにイクシーが指定した武装がセットされています』
「ナイスだフィア。これでいけるな。でも、正直また戦うの面倒だな……フラグかこれ?」
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