第11話 サイバーパンクで食事をしよう

「うーん。ステータスは全部低いし、スキルはなくてレベルも低い。まあ子供だしそうなのかな。そもそもこの世界でレベルの概念があるのかもわからないし」

「イクシー様。個人のレベルとスキルは魔法具か鑑定魔法で確認が可能です」

「えっ、マジで」

 イクシーはシャロの言葉に驚く。

 太陽が沈んだ現在、外は暗闇だ。まだロボットたちは働いているが、さすがにシャロまで働かせるわけにはいかない。

「じゃあ、こんなふうにステータスが見えるってこと?」

 イクシーはホログラムを指さす。そこにはガレの顔とステータスの数値が表示されている。

「それは知りません。私は見たことがないので」

「そうかー」

『オーフのステータススキャンが終了しました』

「ここに出してくれ」

 ガレのステータスの横にオーフのステータスが現れる。

「うん。同じようにレベルが低いけど、スキルがあるな。火属性魔法? ゲームには魔法スキルなんてなかったよなぁ。ESPスキルのパイロキネシスはあったけど」

 パイロキネシスは炎を操り攻撃したり、物の温度を急上昇させて火をつけたり、精密機械の破壊と動作不良を起こすESPスキルだ。

『両者ともに痩せていて、栄養失調です』

 ガレの服を脱がせたとき、その痩せた体に驚いたことをイクシーは思い出す。粗末な服装から、裕福な生活をしていないことは見てわかる。

「食料はインスタントがどれぐらいあったかな。エナジーバーとかもだけど、回復アイテムってこの世界でどういう扱いになるんだ?」

 ゲームでは料理や食料は回復アイテムとなっていた。ただし肉体のほぼ全てを機械化しているイクシーには効果がない。それなのになぜ持っているかというと、イベントなどで敵拠点を襲うと、アイテムを略奪できるので、その中に混じっていたのだ。ゲームでは腐ることはなく、インベントリはクラン倉庫であり実質無限だったので、いくらあっても問題はなかった。

 イクシーはインベントリの食料カテゴリを確認する。

「思ったより生肉が多いな。序盤の素材稼ぎで野生動物狩ってたからか。この大量にある遺伝子改良クリーチャーの肉って食えるのかな?」

『イクシー。オーフが目覚めました』

 ベッドルームへ行くとオーフがベッドの上であたりを不安そうに見回していた。

「体調は大丈夫そう?」

「は、はい……」

 イクシーは心から心配しているのだが、オーフは不安そうな顔のままだ。先ほど会ったばかりの得体の知れない相手なのだからしょうがない。しかも巨大昆虫の魔物を倒す力を持っている。恐怖するなというのが無理な話だ。

 オーフの腹から音がした。

「あっ」

「おなか減ったよね。こっちで食べよう」

 イクシーが歩きだしたが、オーフはベッドから動かない。振り返って首をかしげる。

「どうしたの。もしかして動けないとか」

「う、動けますっ」

 オーフは布団を乱暴にはね上げるとベッドから出る。

「そこに座って」

「はい……」

 オーフは恐る恐る椅子に座ると、頭を左右に振って部屋の様子を観察する。

 この部屋はベッドルームの隣にあるキッチンルームだ。中央に小さなテーブルと椅子が置かれ、狭いシンクとやたら大きい冷蔵庫が複数ある。そして動いている3Dプリンター。

「飲み物はオレンジジュースでいい? それかコーラ?」

「え?」

 イクシーは数秒考えて、プラスチックカップのオレンジジュースをオーフの前に置いた。コーラは異世界にないと考えたからだ。

 オーフは置かれたプラスチックカップを見て、どうすればいいのかわからなかった。容器の素材が何なのかわからないし、それに描かれた本物そっくりの果物の絵に驚愕して触ることができない。

「あ、そっか。飲み方わからないよね」

 イクシーが蓋の一部を上に押すとストローが出てきた。

「それで飲んで」

 しかしオーフはカップを見るだけで動かない。

「? ストローで吸うんだよ」

「ストローってなんですか」

 イクシーは冷蔵庫から同じオレンジジュースのカップを取り出すと、ストローで飲んでみせた。オーフは不安そうにストローをくわえ、オレンジジュースの味に驚くと、一気にごくごくと飲みはじめる。すぐに飲み干してしまった。オーフは残念そうに眉を下げた。

「おかわりあるからね」

 イクシーは新しいオレンジジュースを取り出す。動いていたプリンターが停止して電子音をたてる。

「お、できた。でも、ここから温めなきゃいけないの面倒だよな」

 イクシーはプリンターが出力した箱を電子レンジへ入れる。十秒で加熱が終わった。

「こんなに早く温めれるレンジは便利だよな。あ、シャロのはちょっと待ってて」

「はい」

 シャロはずっとイクシーのそばに立っていた。

「キッチンにプリンターがひとつしかないの、ちょっと面倒だなー。小型だから同時に何個も作れないし」

 イクシーは箱とフォークをオーフの前に置いて蓋を開ける。白い水蒸気といっしょに良い香りが立ち上る。中にはひき肉がたっぷり入ったソースが乗っているパスタが入っていた。オーフの鼻が自然にひくついた。

「いい匂い……」

「ボロネーゼだよ。さあ食べて」

「えっ」

 オーフはパスタとイクシーの顔を見比べる。

「もしかして嫌いだった?」

「あ、あの、どうやって食べれば」

「パスタ食べたことないの?」

「ないです……」

 イクシーはフォークでパスタを巻き取ってみせる。オーフはそのフォークを持つと、ゆっくり口へ運ぶ。見たことがない食べ物に不安はあったが、あまりにも良い香りと空腹には勝てなかった。

「っ! おいしいっ!」

「パスタもおかわりがあるから」

 プリンターが音たてる。

「シャロのぶんもできたぞ」

「イクシー様がお食べください」

「じゃあ俺と一緒に食べよう」

 イクシーはプリンターに再びパスタの出力を命令した。

 

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