第10話 サイバーパンクで子供を治療しよう
「ここがどこかって……あの【呪鎖の荒野】こと知らないんですか?」
「実は何も知らないんだよね……突然この世界に来ちゃったから。その、呪鎖の荒野っていうのがこの場所なのかな?」
きまり悪そうに笑うイクシーを見て、少年オーフは信じられないといった顔で口が開いている。
「さっきみたいな信じられないぐらい強い魔物が出てくる場所ですよ? 入ったら絶対に戻ってこれないって誰でも知ってるのに!」
「そうかー。ここそんなに危ない場所だったんだ。でもフィア、何もなかったよな」
『はい。偵察ドローンや各種センサーをで調査した際、あのような危険生物は発見されませんでした』
「そうだよなー」
オーフはフィアの声に周囲を見回すが、他の人間を見つけることはできない。フィアはAIであり肉体は無く、声はレイドアーマーのスピーカーから発せられていた。
『ラボトレーラーへ到着します』
「治療ポッドの用意はできてるよな。すぐに入れるぞ」
トラックが停止すると、少年たちを乗せたレイドアーマーの両手を地面へ下ろす。イクシーはレイドアーマーの腕の上を歩いてそちらへ向かう。
「その子を運ぶから」
「ど、どこへ?」
「治療ポッドだよ。早くしないと死んじゃうかもしれないだろ」
オーフはその言葉で倒れたままのガレを見て、泣きそうな顔をイクシーへ向ける。
「ガレを助けてください!」
「わかった」
すでに待機していた自律移動ストレッチャーにガレを乗せると、自動でラボトレーラーへと向かう。その後をイクシーとオーフは追いかける。
ラボトレーラーの医療スペースはけっこう広いが、治療ポッドなどいくつもの機器が設置してあるため、人が動ける空間は狭い。
「なにしてるんですかっ」
「服を脱がしてるんだよ。着たままだと治療ポッドに入れれないんだ」
イクシーはハサミでストレッチャーに寝ているガレの粗末な服を切り裂いて、乱暴にはぎ取る。切断された腕の包帯を外したときは、生々しい傷口に顔をしかめた。
「うう……ゲームで見慣れてたはずだけど、本物はなんかグロい気がするなぁ……あれ、これは」
イクシーはボサボサの髪の毛からわずかに見えたものを見て、手をのばす。
「これって、ケモミミだ!」
ガレの頭部には三角形の獣が持つような耳が二つ存在していた。髪の毛と同じ色の毛が生えている。
「ガレは獣人です。獣人を見たことないんですか?」
「うわー。ファンタジー異世界っぽいや。いや、ゲームでもケモミミはつけれたし、バイオテクノロジーの肉体改造かも?」
『治療ポッドに収納します』
フィアの声にイクシーが離れると、天井から複数のマニュピレイターが伸ばされ、ガレの体を治療ポッドの中へ運んだ。透明な蓋が閉まると、オレンジ色の液体が治療ポッドの中に注入される。
「うわーっガレー! おぼれちゃうー!」
「大丈夫だから! 溺れたりしないから!」
治療ポッドを両手で叩きはじめたオーフを止めると、イクシーはその体が震えていることに気づいた。顔色も悪く、カチカチと歯が音をたてている。
「ちょっと、どうした? なんで震えてるの?」
「さ、寒い……」
「寒い?」
『現在の外気温は摂氏七度です』
オーフの服装は布一枚で、薄く穴もあいているので保温効果など無いようなものだ。風が吹き付ける状態でトラックに運ばれていたため、体が冷えきってしまっていた。
「ええっ! わかった、あっちへ行こう」
イクシーはオーフの手を取って医療スペースを出る。向かったのは居住スペースにあるベッドルームだ。狭い二段ベッドが中央の通路をはさんで左右にあるだけの場所。そこへオーフを寝かせる。
「ここで休んで。あの子は大丈夫だから」
毛布をかけてやると、すぐにオーフは寝息をたてはじめた。
「ふーっ。なんとかなったか」
『ベッドルームの空調機能を稼働させました。快適な温度に調整します。センサーに危険なウイルスは確認されていません』
「なあ、フィア。さっき気温が低いって言ってたけど、俺は何も感じなかったぞ?」
『イクシーは肉体を機械化しているため、気温によるパフォーマンス低下はよほどの高温か低温でなければ起きません』
「……寒さを感じなかっただけってことか。あれ? じゃあシャロはどうなんだ」
「私は問題ありません」
急に後ろから聞こえた声にイクシーは驚く。
「シャ、シャロ! いたんだ」
「はい」
「えーっと……本当に寒くない?」
「問題ありません」
イクシーとシャロはお互いの顔を見たまま、しばし静止する。
「その、あの、シャロ。どうしたの?」
「イクシー様が私に要望がなければ、再び外で地形改良を行いますがよろしいでしょうか」
「お願いします……」
シャロがベッドルームを出ていくと、おおきく息を吐いた。そして眠るオーフの顔を見た。子供らしくあどけない寝顔を見て、思わずイクシーは笑顔になる。
「ま、異世界人とのファーストコンタクトは成功ってことかな。シャロが最初だけど、ホムンクルスだし、うん」
これからの困難を想像し、イクシーは肩を落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます