第8話 サイバーパンクでファンタジーとバトル
「うわああああ」
「走れっ、オーフ! クソっ、やっぱりこんなところに来るんじゃなかった!」
巨大な昆虫に似た生物に追いかけられていたのは少年二人。年下の少年は恐怖で大粒の涙を流しながら走り、もうひとりは顔をひきつらせながらも困難に立ち向かおうとする想いが瞳にあった。
少年たちは必死で走っているが体格の差は歴然だ。昆虫の化物はもうすぐ追いついてしまうだろう。獲物を捕らえられることへの喜びなのか、昆虫が石を擦りあわせたような声を出す。
「ギシュシュシュシュ」
声を聞いた年下の少年の涙がさらに増える。
「ひいぃぃぃ~」
「こんなところで死んでたまるかー!」
その時、青い光が高速で昆虫へ衝突すると凄まじい音が発生した。その衝撃は昆虫の体が横に揺れるほどだ。少年たちを追いかけていた動きが止まる。
「ギイィィ」
青い光は一度だけでなく次々と昆虫へ向かい、当たるたびに大きな音と閃光が弾ける。
『攻撃の効果はあまり無いようです』
フィアの報告に、シャロは無表情で青い魔法の光を昆虫に向けて発射した。
「威力がありそうな攻撃なのにダメなのか」
イクシーはレイドアーマーの中で、拡大された映像を見ながらつぶやいた。巨大な昆虫は魔法が当たると体が揺れるのだが、その外見に変化はない。かなりの防御力を備えている。
イクシーはトラックの上に立つシャロを見る。風で髪の毛は横に流れ、走行するトラックは舗装されていない地面のせいで振動が激しいのに、その体は直立したまま姿勢が崩れない。
「あれも魔法なのかな?」
シャロの魔法攻撃は大型のビームライフルのようだと驚いたが、巨大昆虫の防御性能もイクシーには驚きだった。
「この武器、効果あるのかな?」
『まもなく攻撃可能距離です』
フィアの声にイクシーは慌てて前を見る。巨大昆虫がこちらへ顔を向けて突撃していた。こちらを敵だと認識したのだ。
「ターゲットロック。よし、撃つぞ」
レイドアーマーが両手で構えたライフルの銃口が光り、レーザーが発射された。
『命中。効果は見られません』
「くそー、威力が足りないのか。でもこれが使える最大レベルだからなー」
イクシーは自己強化をサイバネ手術スキル特化にしているため、最大レベルの武器を使用できない。レイドアーマーもゲーム内では中位レベルのものだった。
「どうしよう?」
『まだ実弾兵器を試していません。物理的な攻撃は効果があるかもしれません』
「確かにそうかも。でも、慌ててたからこの装備しかないし。今から戻ってスナイパーライフルでも取ってきて……」
『前方の敵から未知の高ESP反応を検知』
巨大昆虫の全身の関節が赤色の光を放ち、体の周囲に同じ色の光が複数発生する。
「なにかやばそうだ! 回避回避ー!」
複数の赤い光が一度上へ飛び上がり、そこからイクシーに向かってきた。トラックが進む方向を変えると、上空から来た赤い光は地面へ突き刺さり大きな土煙をあげる。
「危なかったー」
「イクシー様。私が行きます」
シャロの体はトラックの上から浮かび、そのまま巨大昆虫へと向かって飛んでいく。
「シャロって空を飛べるの! というか追いかけないと。フィア!」
イクシーの言葉でトラックのスピードが上がる。一直線に巨大昆虫へ向かっていく。
「ジィィィ」
巨大昆虫の意識は空中を飛ぶシャロへ向けられていた。先程の攻撃が彼女のものだと理解しているのかもしれない。
赤い光がシャロへと高速で飛来するが、魔法で作った青い光の壁に衝突して消える。さらに赤い光は上下左右から次々と襲ってくるが、シャロは体を包む球形の魔法シールドで防いだ。
シャロは違う魔法を使用する。周囲の地面が円錐形に隆起すると、空中へ複数浮かび上がった。円錐の鋭い先を巨大昆虫へ向くと高速で発射された。
「ギギギ」
土の円錐を赤い光が撃ち落としていく。土色と赤色は途切れることなく空中で激突し続ける。
『物理攻撃を妨害しているということは、効果的である可能性があります』
「シャロがヘイト稼いでいるうちに近づくぞ!」
巨大昆虫の横腹へ向けてイクシーを乗せたトラックが直進する。
「近くで見ると本当にでかいな!」
巨大昆虫の体高は、三メートルあるレイドアーマーと同じほどもあった。全長はさらに長く、十メートル以上ある。体の大きさに合わせたように、脚の数が多い。
「これならどうだっ」
トラックから飛び降りたレイドアーマーは、至近距離からショットガンを連射する。このショットガンはトリガーを引きっぱなしにすればマガジンの弾を全て発射する。一秒未満で弾切れ。
「ガギィィィ」
巨大昆虫の脚が数本吹き飛び、体液が荒野に撒き散らされた。しかし普通の昆虫よりも多い脚は、まだまだある。
「くらえ!」
マガジンを交換して再び連射。また脚が千切れ、巨体を支えられなくなり大きな音とともに地面へ腹が落ちた。
そこでイクシーを脅威と感じたのかそちらへ向けた顔へ、シャロが発射した土の円錐が激突する。二つある触角が千切れ、頭部の外骨格がひび割れた。巨大昆虫が悲鳴をあげる。
その隙にイクシーは頭側へ接近していた。ショットガンを左肩部の装備ホルダーに収納すると、右肩ホルダーの武器を手にする。折り畳まれた柄が伸びると、ハルバードにも似た長柄の斧が完成した。
「どりゃー!」
両手で振り下ろした超振動ブレードアックスは、巨大昆虫の首関節へ深々とめり込んだ。切断することはできなかったが、半分以上も首を切り裂き、その命を奪った。
イクシーは異世界初戦闘に勝利した。
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