第6話 サイバーパンクとファンタジー少女

「あなたが私の主ですね」

「いや……違うんだけど……」

 イクシーと治療ポッドの少女は見つめ合う。

「あなたは私の主です。その証拠に私の構築魔法因子に、主の魔力が登録されています」

「知らない単語がいくつもでてきたな。というか、魔法があるの?」

「私は使用することができます」

「……なにか危なくない魔法を見せてもらうことってできる?」

 頭上の空間に突然浮かんだのは、球形の光だった。

『ESP能力の出現を確認しました』

「え? 魔法ってESPスキルになるの?」

 イクシーはしばらく浮かぶ光を見上げていたが、さすがに眩しくなり顔を戻した。

「……もう消してください」

「これで私が魔法を使用できるとわかってもらえたでしょうか」

 光は消え、少女はまばたきすることなくイクシーを見ている。その無感情な視線から逃れるように、イクシーは体の向きをわずかに変えた。

「ところで、俺が君の主ってどういうことなのかな」

「私は主の魔法によって造られたホムンクルスです。ホムンクルスは創造者の主を助けるために存在します」

「ホムンクルスぅ?」

 イクシーがホムンクルスについて知っているのは、アニメやゲームのなかの知識で、魔法などで作られた人造人間であるといった程度のものだ。

 重要なのはイクシーは魔法は使用できないので、彼女の創造者ではないということである。

「その……俺は魔法なんて使えないから、君を造ることもできないし……勘違いしてるんじゃないかな」

「いいえ。私の主はあなたです。今も私の肉体を修復しながら流れてくる魔力は、構築魔法因子と同一のものです」

「意味のわからない単語がまた出てきた……フィア、治療ポッドは魔法なんて使ってないよな」

『魔法というのがESP能力であるならば、治療ポッドにそのような機能は存在しません。仮説としては、肉体の再生はバイオテクノロジー技術で行っているので、ESP能力は同技術であるため彼女が魔力と呼ぶ何かしらの存在を感じているのかもしれません』

 イクシーは腕を組んでうなるが、何も考えが浮かばない。

「はあ……とにかく治療が全部終わってから考えよう。俺の名前はイクシー。君の名前を教えてくれるかな」

「私の名前は……シャロです」

「なるほど。シャロ、君は地面の下に埋まっていたんだけど、どうしてそんな事になっていたのか教えてほしいんだ」

 シャロはしばらく黙った。

「……申し訳ありません……覚えていません」

「え? そうなのか。じゃあ今いるこの場所はどこかわかる? 国の名前や街の名前とか?」

「……なぜでしょう? 思い出せません」

「まいったな。記憶喪失か」

 最低でも数日間も土の中にいたうえに四肢を失っているので、そのショックで記憶喪失になってもおかしくないなとイクシーは思う。

「申し訳ありません」

「気にしなくていいよ。ケガが治ればそのうち思い出すかもだし。とにかく、まずは体を元通りにしよう」

「わかりました」

「うん。俺はちょっと外にいるから、何かあったらフィアに言って。フィアっていうのはAIだって言ってもわからないのか……えっと、体はないけど喋れるし、君が入ってる治療ポッドを管理しているのもそうだから。うん」

『シャロ。要望があれば可能な限り応えます』

「わかりました」

 ラボトレーラーの外へ出たイクシーは、顔を手で覆いながら大きなため息をついた。

「魔法かー、まあ、もしかしたらって思いはしたけど……」

 周囲では建築ロボットたちが忙しく動き回っていた。ベルトコンベアは絶えることなく土を運び、ラボトレーラーの近くまで来るとインベントリの中へ消える。

 ベルトコンベアで運ばれるのは土だけではなかった。傷つき折れた鉄の剣や槍、殴られ凹んだ兜、切り裂かれたり大きな丸い穴が目立つ鎧などもある。

「中世ヨーロッパみたいな剣と鎧だし、それに……」

 イクシーはベルトコンベアへ近づき、流れてきたものを手に取る。

「これとか明らかに魔法使いが装備する杖っぽいやつだ。先についてる赤色の宝石も、よくある魔石ってやつなんだろうな。しかし、なんで武器がこんなにたくさん出てくるんだ。ここで何があったんだろ? シャロが思い出してくれないかな」


 シャロは左手の指を何度か折り曲げ、左足も動かす。

「大丈夫です。問題ありません」

 シャロの左腕と左足は銀色に光っている。麻痺して動かない腕と足を、イクシーがサイバネ手術を行い機械化したのだ。

「ですが、私は主のものなので自由にしていただいてよかったのですが。あの最高性能だというものに今からでも」

「いやいや! しなくていいから!」

 シャロの詳細なステータスを調べると、バイオテクノロジーとサイバネ技術ともに強化可能レベルがかなり高いのがわかったのだ。ゲームでは二つ同時に上げるのは絶対に不可能だった。

 ただしバイオテクノロジーのESP能力の強化は、イクシーにはできなかった。彼はサイバネ手術スキルしか所持していないからだが、レベルは最大だ。

 イクシーはそのサイバネ手術スキルでシャロを機械化したのだが、ここで問題があった。基本的に強力なサイバネ義肢というのは大きくなる。人の胴体ほどの太さがある機械の腕、身長よりも長い複数関節を持つ腕、鳥のような膝が逆関節になった脚、足首から先がホバークラフトのようになって地面から浮かんでいるなど、人間からかけ離れた見た目になってしまう。

 イクシーはそういう明らかにバランスの悪いサイバネ手術をするのが、大好きだった。しかし外見は普通の少女であるシャロを、そんな姿にしてしまうのはさすがに気が咎めた。手術をする際にそれらの説明をすると「主の自由にしてください」と言われ、正直やってしまおうかとは思ってしまったが、なんとか踏みとどまった。

「ですが、主」

「シャロ。主じゃなくてイクシーと呼んでくれって言っただろ」

「……はい。イクシー様」

 シャロは無表情だが、少し口元がほころんでいるように見えた。

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