第5話 サイバーパンクで資材確保
「生きてはいるんだよな?」
『はい。生命活動は継続しています。ただ問題がない訳ではありません』
医療ポッドに浮かぶ四肢の無い少女を前に、イクシーとAIのフィアは会話をする。円筒形の医療ポッドは透明で、中は淡いオレンジ色の液体で満たされている。少女は裸なのだが胸と股部分はぼやけて見えないのはゲームと同じだった。
「問題って何があるんだ」
『この遺伝子改良生命体はESP能力に特化した調整をされています。その後遺症で左半身麻痺を起こしています』
ゲーム内でプレイヤーは体をサイバネ手術で機械化するか、バイオテクノロジーで生身の肉体を強化するかの選択をしなければならない。どちらもメリットとデメリットがあり、バイオテクノロジー強化のメリットはESP能力を使用できることだ。ESP能力はいわゆるサイコキネシスや発火能力、瞬間移動など超能力スキルのことだ。
「バイオテクノロジー特化か。俺じゃ強化できないな」
イクシーはサイバネ手術スキル特化型なので、バイオテクノロジーのスキルを一切使用できない。
「つまり俺じゃ半身麻痺を治療できないってことか」
『いえ。左半身麻痺の原因は遺伝子改良の結果、異形発達した脳にあります。そして不思議なことに、左半身の動きを司る脳部位はサイバネ手術と親和性が見られました。強化可能範囲は最大レベルです』
「それって、サイバネ機能とバイオテクノロジー機能の両方が強化できるってことなのか? ゲームではできなかったはず……」
ゲームではサイバネ手術とバイオテクノロジー強化は初期レベルでは併用可能だが、上位レベルになるとどちらか一方しか強化できない。
「ゲームじゃなくて異世界だからな……設定と違うところもあるんだろうな。調べるの大変そうだ」
『失われている左腕と左足を機械化しますか?』
「……いや、やめておくよ。本人に決めてもらったほうがいい。治療が終わるのはいつになる?」
『およそ六日といったところです』
「最高レベルの医療ポッドじゃないもんな。時間がかかるか。意識が戻るのもそのぐらいかな?」
『それはわかりません。脳の治療を最優先にしているので三日後に治療は終わりますが、意識がすぐに戻るのか、あるいは永遠に戻らないのか、どちらも予測不可能です』
「とにかく待つしかないか。俺は疲れたから寝るよ」
『お疲れ様でしたイクシー。ゆっくり休んでください』
翌日からイクシーは周辺の異常に硬い地面をひたすら掘削していった。なぜなら貴重な資材になるからだった。
「フィア。この土がどれだけの量で資材になるんだったっけ?」
『およそ三百キログラムで一単位分です』
「少なすぎるだろ……」
レイドアーマーのコックピットでイクシーはため息。
土をインベントリに収納するとおよそ三百キログラムで【特殊強化セラミック・レベル八】がひとつ手に入る。資材にはレベルがゼロから最大の十まであり、レベルが上になるほど貴重になり、作れる装備や施設も高機能になる。特にレベル八以上は専用の精製プラントが必要になるので、貴重だった。
『まだ在庫はあるといっても、無限にあるわけではないのです。今のうちに集めておくべきです。精製プラントが存在しない現在、この先入手できるか不明なので特に重要です』
「わかってるけど……効率悪すぎるんだよ」
特殊強化セラミック・レベル八を使用するということはかなり上位レベルの装備と施設などを作るため、消費する量も膨大だった。一回で数万、数十万個を消費するのが普通だった。
ゲームでは精製プラントを建設すれば自動でインベントリに貯まっていたが、この現実になってしまった世界ではそうもいかない。イクシーはレイドアーマーで硬い岩盤を掘削し、大きな建築機械と多数の工事用ロボットで地面を掘り、設置したベルトコンベアでせっせと土を運ぶしかないのだ。ラボトレーラーの近くまで運べばインベントリに収納できるのが救いだった。
「……ちくしょー! 偵察ドローンは街も人も見つけられないし、ずっと穴を掘るしかないのかよ……」
イクシーが穴を掘り続けて四日後、少女の意識が戻った。
「あなたが私の主ですね」
それが最初に少女が発した言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます