機械仕掛けの僕ら

Kurosawa Satsuki

短編

序幕:私として

私は今日、死ぬことにした。

理由を考えればキリがないが、

それを考える事すらも億劫になるほど疲れてしまった。

いや、私はよく頑張ったよ。

誰も私を褒めてくれないから、

こうして自分で自分を肯定する。

母親と同じ末路を辿るなんて、

当時の自分が聞いたら絶対キレてただろうな。

常連客から貰ったドレスも捨てちゃったし、

結局、オーナーに退職届を出せなかった。

見下ろした先には、

プラスチックゴミが流れる濁った川。

私は、大粒の涙を流しながら空を見上げる。

「こんな世界、早く消えてしまえ」

私は、誰もいない夜空の下で遺言を残し、

橋から川に飛び降りた。

飲み込んだ川の水は、憎しみと後悔の味がした。


本編:贖罪の旅人

ここは多分、天国と地獄の狭間にある空間。

白装束に着替えさせられた私は、天使から渡された“生命活動管理委員会質問票”と書かれた紙に、

個人情報や今までの経歴を事細かに記入する。

記入し終えた質問票を天使に渡し、

コンサートホールにあるような重たい扉を開ける。

「初めまして、月島葉子さん。

私は裁判官の白猫と申します」

重い扉の先にいたのは、

見覚えのある青い瞳の白猫だった。

裁判官を名乗る白い毛玉の獣は、どこにでもいるような野良猫の姿をしているが、女の私ですら思わず惚れてしまいそうになるくらい美しい声だった。

白い毛玉の獣は、

私が先程書いた質問票を天使から受け取り、

それを睨みつけた。

「なるほど、罪状は恋人殺しですか。

そこに至った経緯はどうであれ、

またあの世界に戻っても、

貴女には、やり直しは無理そうですね」

取り返しのつかない過ちを犯してしまったという自覚はある。

罪悪感がない訳では無い。

もちろん、どんな裁きも受ける覚悟はある。

「ですから、貴女には別世界に行ってもらいます。

そこできっちり罪を償えば、

ご褒美に、貴女の願いを一つ叶えましょう」

「ちっ、なんでそんなに偉そうなのさ。

別世界ってなんだよ、地獄に行けばいいんだろ?」

「貴女の事は、上層部にも報告しておきますね。

それでは、左の扉へどうぞ」

白猫の右隣にいた天使に案内されながら、

私は左側にある銀色の扉に進む。

「そっか、ここが地獄なんだ…」

扉の先には、暗闇ばかりが広がっていた。

音も聞こえない暗闇の中を、

私は一直線に歩き続けた。

歩いている間は不思議と孤独感はなく、

寧ろ母親の母体の中にいるような温かさを感じた。

歩いていると、遠くの方から一筋の光が見えた。

「光…待って…」

光を追いかけているうちに、

段々と意識が朦朧とし始め、

そして、やっとの思いで追いついた光に触れた途端、私の意識は途絶えた。

…………………………………………

次に目覚めたのは、

知らない学校の教室の中だった。

窓の外を見ると、グラデーション掛かった綺麗な夕焼け空が広がっていた。

そして、窓に映るのは学生時代の私。

それと、目の前には、魔女の格好をした少女と、

酒瓶片手に踊っている狸がいた。

「あっ、おはようヨウちゃん」

「お〜、やっと起きたか小娘」

「ここは…?」

どうやら本当に、

あの白猫から異世界に飛ばされたようだ。

というか、少女の格好は兎も角、

なんで狸が日本語を喋ってるんだ?

しかもオッサン声だし、酔っ払ってるし。

目の前の狸を見てると、

よくうちの店に来る痛客の顔を思い出した。

「そっか、この世界での事覚えてないんだね。

じゃ、私達が一から教えてあげる!」

「お前にとっては、初めましてだな。

俺はワタヌキってんだ。

白猫に雇われてる審査員で、

今回は、お前の贖罪の審査を担当する事になった」

「私の名前は、星空優香。

私は、この世界の住人で、

ワタヌキさんとはずっと前から知り合いなんだ」

「そうなんだ…」

「突然で悪いが、お前にはこの世界である事をやってもらう」

そのある事というのは、

前世で犯した罪を償うというもの。

ワタヌキが所持している贖罪リストには、

私の罪状が大まかに七つ書かれていて、

罪状に関連する善の行いをする事で、

私の罪は清算される。

「つまり、私がこの世界で良い事すれば、

今までの罪もチャラになるんでしょ?

なら、簡単じゃん」

「簡単かどうかは、今後のお前次第だがな」

「それで、私は何をすればいいの?」

「一つ目の罪状は、

“友達を裏切ったこと”と書いてある。

お前、何したんだ?」

「あ〜それね、覚えてるよ」

小学生の時に、馬鹿だった私は、当時一緒によく遊んでいた子の秘密をクラスメイトに言いふらした。

バラした内容は忘れたけど、

職員室に呼び出されて、

相手の親に殴られた事は今でも記憶している。

「悪ガキじゃねーか」

「そうだよ。

私は今も昔もクソ野郎だ」

「それで、ちゃんと謝って和解したのか?」

「泣きながら土下座した。

そしたら、被害者の子が許してくれて、

とりあえずその場はやり過ごしたよ」

「そうか、ならいっか」

「いいのかよっ」

「二つ目の項目は後でやろう。

その前に、この世界について話さないとな」

そして、ワタヌキの説明によると、

ここは、誰もが魔法を使える世界で、

インフラ整備の為の材料を生成したり、

エンタメや芸術活動の道具にしたり、

交通手段として空飛ぶ箒等を使用したり、

日常生活の至る所で魔法が使用されているそうだ。

「そっか〜、

本当にこの世界での事覚えてないんだね。

じゃ、私達が一から教えてあげる!」

「そうだな。

まずは、魔法の使い方からだ」

「私が箒の乗り方を教えてあげる」

そう言われて渡されたのは、

おとぎ話や漫画でよく見るようなものではなく、

どちらかというと、SFチックな形状の箒だった。

「これが空飛ぶ箒!?」

「そうだよ。

これはね、私達の魔力で動いてるんだ」

「大丈夫だ。

魔力がある今のお前にも出来る」

私は緊張しながらも、言われた通り箒に跨り、

箒に意識を集中させる。

すると、箒の先端部分が発光し始め、

一切力を込めずに宙に浮くことが出来た。

「ちょ、これ大丈夫かな…」

「いいぞー、その調子だ」

「すごく簡単でしょ?

後は、行きたい方向を決めて進むだけ。

方向転換の時は少し力がいるけど、

それ以外は大丈夫だから」

「うん、わかった」

「それじゃ、このまま帰ろっか」

学校を出て、外の景色に目を向けると、

そこには、近代風の建物が所狭しと建ち並んでいて、現実世界と相違ない風景が広がっていた。

……………………………………

二つ目の罪状は、親の過ちを言いふらしたこと。

帰り道で、ワタヌキがそう言った。

親の過ちというのは、

私が五歳の頃に、父親が闇金に手を出した事だ。

双方の祖父母から勘当されていた両親は、

何とか今を食いつないで行く為に、

闇金から多額の借金を背負った。

毎日、

低賃金の父親は首が回らなくなって、

私たちを置いてどこかへ行ってしまった。

それを大人に相談したら、

近所中にその噂が広まった。

その結果、母親は職を失って、

私も、近所の子供達からいじめを受けた。

「それは、私が悪い訳じゃなくない?」

「まぁ、この課題に関してはこれからだな。

今から会う家族に恩を返せばいい。

物よりも言葉でな」

十字路で優香と別れた後、

ワタヌキに連れられて向かったのは、

立派な一戸建ての住宅だった。

玄関の扉を開けると、見知らぬ子供が、

私に「お姉ちゃん、おかえりなさい」と言った。

その後ろには、両親と思われる男女の姿があり、

初めて目にする顔なのに優しく出迎えてくれた。

気づいたら、ワタヌキも当たり前のように家族の輪に加わっていた。

「お前もさっさと入って来い。

一応、お前の家でもあるんだから」

リビングからいい香りがして向かうと、

食卓に豪勢な食事が並べられていた。

「お姉ちゃん、早く晩ご飯食べよ!」

「で、でも私、こういうのは初めてで…」

「何言ってるの?いつもの事でしょ?」

「そうだぞ、ヨウコ」

私は、家族に言われるがまま席についた。

「頂きます」

手を合わせてから、出来立ての白米を口に運ぶ。

私は、思わず泣いてしまった。

今まで食べてきた中で一番美味しかったからだ。

この時初めて、私は家族愛というものを知った。

家族と食べる夕飯は、

ちょっぴり幸せな味がした。

夕飯を食べ終わり、自分の部屋に戻った私は、

ベッドに横たわりながら天井を見つめた。

窓を少し開けると、

心地の良い夜風が部屋に入って来た。

「どうした?」

「私、このままでいいのかなって…」

「大丈夫だ、お前を傷つける奴はここに居ない。

お前は、自分のやるべき事に集中してくれ。

贖罪は、まだ終わってないからな」

「そっか」

「さて、寝るか。

それじゃ、また明日な」

「おやすみ」

………………………………………

この世界に来てから一年が経った。

ようやく、一つ目と二つ目の項目もクリアし、

この世界での生活も慣れた頃、

ワタヌキから三つ目の罪状を言われた。

「三つ目は、“自分の体を傷つけたこと”だ。

お前まさか、リスカをしていたのか?」

「そうだよ、私は私を傷つけた」

その証拠に、

今でも腕や太ももに跡が残っている。

私にとっては、痛いけど安心する行為。

生きるために必要だったんだ。

「ねぇワタヌキ、次は何すればいい?」

「そうだな〜、

頑張った自分にご褒美を上げたらどうだ?」

「そう言われても、

具体的に何をすればいいんだ?」

「そうだ!クラスの皆も呼んで、

今度の休みに私の家でホームパーティしようよ!」

「ありだな」

「えっと、私、そういうのはちょっと…」

「ダメかな?」

ダメというより、パーティなんてした事なくて、

どう楽しめばいいのか分からない。

前の世界では、友達なんかいた事なかったから、

私がいる事で空気を乱してしまうんじゃないかとか、色々考えてしまって、

どうしても怖いと思ってしまう。

けど、この場合は断らない方が相手の為だと私はここで学んだから、思い切って同意してみる。

「もう、しょうがないな〜」

「やったー!それじゃ、今日の放課後に開催ね!

参加は、昼休みに募るとして、

帰りに皆んなでスーパーに寄ろう」

その前に、山田さんが経営する街で唯一の書店に用事があったので、学校が終わった後、

優香とは別行動を取ることに。

山田さんが経営する山田書店は、

古臭い店内で、人もあまり寄り付かない場所だが、店長の山田さんはとても優しく、

寧ろ若者の流行に敏感な人だ。

「ごめんくださ〜い」

「ねぇねぇワタヌキさーん!

ついこの間、最新のMR眼鏡買ったんだけどさ〜」

「なんだ店長、今日はやけにテンション高いな〜。

ってそれ、高いモデルのやつじゃん!

本当に書店の経営大丈夫なのか!?」

「問題ないっしー!預金崩せば何のその!」

「まぁ、本人がそう言うならいっか」

「山田さん、今日は用があって来たんですけど」

他県の古本屋から取り寄せて貰った古書を二冊と、出版社に書籍化して貰った自作の小説を三冊。

今の時代では、電子書籍が当たり前で、

辞書ですら紙媒体の物は希少なのだ。

「はーい、ちょっと待っててね〜」

そう言って、山田さんは店の奥に引っ込む。

山田さんが、戻って来るまでの間、

私は、本棚に所狭しと敷き詰められている書物を眺める。

私にとって、一番好きな時間。

私も、大人になったら書店を経営してみようかしら?

私が住んでいる街の書店はここしかないし、

いっその事、山田書店を引き継ぐのも有りだ。

そうこうしているうちに、書物を抱えた山田さんが戻ってきた。

「ありがとう、山田さん」

「どういたしまして。またいつでも来てね〜」

山田さんから受け取った本は、

店のロゴ付きのトートバッグに入れてくれた。

「んじゃ、パーティ会場に向かうか」

「そうだな」

それから私たちは、

お礼を言って書店を後にした。

この後のパーティも楽しかった。

私は、また一つ幸せを知った。

私たちがホールケーキを頬張っている中、

ワタヌキは相変わらず、

端っこの方で煙草とお酒を嗜んでいた。

…………………………………………

四つ目の罪状は、

“蟻を指で潰して殺したこと”。

アリンコ一匹でも、尊い命な事には変わりない。

それでも私は、飽きもせずに何匹も蟻を殺してきた。

当時の私に罪悪感はなく、

小さな命は、暇つぶしの玩具でしか無かった。

私が今向かっているのは、

隣町にある小さな公園。

そこで子供の間で流行ってる遊びは、

虫や小動物を傷つけること。

校庭には、沢山の死骸が転がっているが、

その事実を知ってる大人達は、

叱ろうともせずに見て見ぬふり。

私も彼らに注意する訳じゃなく、

遊び疲れた子供たちが去った後、

無惨な姿で放置された亡骸を掻き集め、

丁重に埋葬する。

私に出来るのはこれくらいしかない。

子供たちを叱ったところで、

逆恨みをされるだけ。

こういうのは、

赤の他人よりも身内の方が効果がある。

「四つ目も終わりだ。

五つ目は、“川に溺れた野良猫を救えなかったこと”と書いてあるが…」

「どうしたの?」

「これは無しだ。

俺からしたら、罪状をうちに入らない」

「そっか」

「それよりも、ここからが本題だ」

「というと?」

「六つ目の罪状、“恋人を殺したこと”」

そうだ、ようやく思い出した。

私は、自殺を決意した日の晩に、

当時付き合っていた彼氏を地下鉄のホームから、

電車が来たタイミングで線路に突き落とした。

彼は、信じられないくらい自己中心的な性格だった。

性欲の捌け口にされたし、

事ある毎に、暴力を振るってきた。

逃げても、逃げても追ってきた。

警察に相談しても笑われるだけで、

彼に付けられた切り傷を見せても、

どうせリスカだろって言われ、

全く話を聞いて貰えなかった。

私には、逃げ場も味方もいなかった。

だから正直、後悔はない。

彼から逃げるには、

他に方法がなかったのだから。

とはいえ、今は友達の恋を応援する方が先だ。

「そろそろ、優香のところに行こっか」

「そうだな」

優香のお目当ては、隣のクラスの赤髪の男子。

その男子の名前は、桜井晃(アキラ)。

学年一の人気者であり、容姿端麗である為、

彼を狙っている女子は多い。

とはいえ、私が手伝える事は、

告白シーンのセッティングや、

本番前に優香の緊張を解すことくらいしかない。

「うぅ、緊張するよ〜」

「大丈夫、私たちもこっそり見守ってるから」

告白する場所は、三階の空き教室。

なんだか、私も緊張してきた。

そして、予定時刻から五分後、

男子達に連れて来られたアキラが優香の前に現れた。

「叶うといいな」

「うん」

結果、皆んなで立てた作戦は大成功。

実は、アキラも優香に好意があったみたいで、

両思いであることを知った優香は、

正式にアキラと付き合うことになった。

「ヨウちゃん、昨日はありがとう!」

翌朝、優香はウキウキしながら登校してきた。

彼女の首には、昨日の帰り道に二人で選んだというペアネックレスが掛けられていた。

「これは、応援してくれたお礼だよ」

そう言って渡されたのは、

私が前から欲しかった化粧箱の商品券。

優香の前では一言も口にしていなかったのに、

どこで知ったのだろう?

それとも、ただの偶然なのか?

「でも、どうして?

私は、大した事してないのに」

「愛には、見返りが必要だからね。

大きさは関係ない。

それが、親子であろうと、兄弟同士であろうと、

友人であろうと、恋人であろうと、

対価もなしに何かして貰えると思っていたら、

ありがとうも言えなくなってしまったら、

私の元から人はいなくなるって思うんだ。

だから、もらった分はちゃんと返さないと」

「そういうものなのかな?」

「けど、恩着せがましい輩には要注意。

私は、この前それで痛い目を見たからさ。

恩を仇で返す奴は世の中に一定数いるのよ。

だから、ヨウちゃんも気をつけてね」

「うん、気をつける」

……………………………………

場面は、森林の中に切り替わる。

この場には、私とワタヌキの二人だけ。

私の目の前には、緑色に発光している樹木がある。

私のモノも含め、色んな人の記憶がここに大切に保管されているそうだ。

他人の思い出には興味が無い。

私が生きた事実も、

なかった事にできないだろうか?

「七つ目の罪状、これが最後の贖罪だ」

七つ目の罪状、“生まれてきたこと”。

光る樹木に触れた瞬間、

嫌な記憶が一気に脳内で蘇る。

私は、親の間違いで生まれた子だった。

私たちを置いて失踪した父親と、

鋭利な刃物で自身の首を斬った母親。

私を産んだばかりの二人は、まだ未成年だった。

六歳の冬に母親から恨みの眼差しを向けられながら言われた、お前なんて産まなきゃよかったという言葉は、私にとって、見えない足枷になった。

「貴女のせいで私の人生滅茶苦茶よ。

私に迷惑かけたくなかったら死になさい」

何が、“産まなきゃよかった”だよ。

私だって、私だって産まれたくなかった。

私がいるから私の周りは傷ついて、

私がいなかったら皆が幸せなんだ。

初めから私の存在なんて、

誰も望んでなかったんだよ。

だったら私にどうしろってんだ!!

どうして欲しかったんだよ!!

生きても叩かれ、自殺しても叩かれる…

人の気も知らないくせに好き勝手言いやがって…

痛みを知らない奴の戯言なんか聞きたくない…

「誰かを憎むのは、もう終わりにしませんか?」

脳内に響く、煩わしい白猫の声。

耳を塞いでも、鮮明に聞こえてくる。

「貴女の願いはなんでしたっけ?

本当の愛を知りたい、でしたよね?

いい加減気づいてください。

これまでの貴女が見てきた景色に、

貴女に見合った答えはありましたよ」

うるさい、うるさい、うるさい…

「それに、私も痛いのですよ。

止めるのか、続けるのか、

そろそろはっきりしてもらわないと、

私たちが報われないじゃないですか」

手が震え、呼吸が乱れる。

頭が真っ白になりながら、

私は、狂ったように泣き叫ぶ。

私はただ、悔しいのだ。

私は、私を取り巻く全てが憎かった。

「さぁ、願いは叶えましたよ。

罪もこの一件でチャラになりました。

まぁ、贖罪リストなんて茶番なんですけどね。

兎に角、最後くらいは貴女が選んでください」

「私は…それでも私は……」


終幕:忘却

絶望しながら目覚める。

ここは、病室なのか?

私は、救われてしまったのか?

全身に包帯が巻かれ、

ベッドから起き上がれない。

夢での光景を思い浮かべながら、

届かない電灯の光に手を伸ばすら、

誰一人見舞いに来ない。

また戻りたいと願うが、

いくら目をつぶってもあの世界には行けない。

孤独感とともに、私の瞳から涙が零れる。

心電図モニターから発せられる音に耳を傾けながら私は思う。

「どうして……」

視界がボヤけ、徐々に意識が遠のいていく。

心肺停止を知らせる音が、

病室内に虚しく鳴り響く。


END

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