第21話 side 陽人
「ついてくんなよ」
「俺が、一緒にいたいから……」
「あんな言われ方したのに、普通来ないだろ?」
「それでも、俺はやっぱり陽人がさ」
「じゃあ、してた時に毎回言ってた言葉はマジだったわけ?」
別に嫌われたって構わなかった。
俺にとって、コウキはただの不倫相手だ。
コンビニに入り、やめていた煙草とビールを買う。
「付き合うよ。待って」
「だから、ついてこなくていいって」
「一緒にいさせて。陽人」
捨て猫みたいにウルウルとした瞳に逆らえずに「勝手にしろ」と呟いた。
「煙草、やめてたよね?」
「もう、やめる理由がなくなったから」
「奥さんが夕貴を好きだって、本気で思ってないよね?」
「思ってるよ。しほりのあの顔は、マジな奴」
公園を見つけて入ってくとコウキも後ろからついてくる。
「前も話しただろ?妻だけED」
「聞いたよ。出来ないんだろ?」
「【家族】とは出来ないだろ。コウキは、母さん抱けるか?」
「それは、絶対無理だよ。だけど、奥さんは陽人のお母さんじゃないよな?」
「同じだよ。しほりがさ、絵茉を産んだ瞬間に立ち会えたんだ。スゲーー、唸り声あげながら叫んでさ。命がけで産んでくれた」
「うん」
「神秘的だなって思ったよ。出産は、すごいなって……。だけど、同時にしほりを受け入れられなくなったんだ」
煙草に火をつけて、ビールを開けた。
「何で?」
「俺もこうやって産まれてきたんだーーって思ったら、急にしほりが母さんになったんだよ」
「お母さんに……」
「そう。母さんに……。立ち会い出産を経験したら、親になる感情が早いとか奥さんをもっと好きになるとか言われたから立ち会ったんだけどさ……」
俺は、ビールをグビグビと流し込む。
この言葉は、絶対に口に出しちゃいけないと思ってずっと我慢していた。
「うん」
「俺は、しほりを母さんとしか思えなくなった。しほりへの好きは、一気に冷めていくのを感じた。あーー、俺は立ち会いしちゃいけない側の人間だったんだって。その時に気づいたんだ」
「それは、もう戻らないの?」
「戻らない。抱きたくないし、キスもしたくない……。だけど、欲しがるから頑張って無理してするしか方法がなかった。だから、コウキに誘われた時。正直嬉しかったんだ」
煙草の火を消して、またつける。
「嬉しかった……なら、よかった」
「嬉しかったよ。ようやく、この呪縛から逃げれるって思ったから。絵茉と離れるのは寂しいけど。しほりと二人目を作るぐらいなら離婚したかったから……。今日は、今日でよかったよ」
「陽人……。俺達も終わりだよな」
「何で、そんな悲しそうな顔すんの?」
「するに決まってるだろ。愛してるんだから」
「無理だよ。両親が生きてるうちは、男とは付き合えないよ」
煙草の火を革靴の底で消す。
しほりと離婚するからって、誰かを作らなきゃいけないわけじゃない。
それに両親にわざわざ恋人を紹介する事なんてしなくていい……。
なのに、俺は……。
コウキの存在を否定したかった。
散々、体を使わせてもらったというのに最低だ。
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