第19話 彼女と彼女

「しほりさん、娘さんを迎えに行きましょう」

「はい」

「今日は、私の家に泊まって」

「ありがとう」


私と夕貴さんは、善を出る。

近くでタクシーを拾い、実家に帰宅した。


「しほり、もう大丈夫なの?」

「うん、ごめんね。心配かけて」

「いいけど……。何かあったなら、いつでも聞くから」

「うん。落ち着いたら話すから……。今日は、絵茉と帰るね」

「わかった。絵茉も寂しかったのよ。さっき起きたのよ」

「マーマ、マーマ」

「ごめんね、絵茉。お母さん、ありがとう。また、連絡するから」

「わかったわ。気をつけてね」


母に見送られて実家を後にする。

いつもは、一人で帰る道なのに彼女が待って居てくれた。


「帰りましょう。しほりさん」

「はい。あっ、抱っこひもつけていいですか?」

「そうね。荷物は、私が持つわ」


彼女が荷物を持ってくれて私は抱っこひもをつける。

今日、彼女がいなかったらあの家に帰らなくちゃいけない所だった。

タクシーに乗り越むと発進する。


「両親は、陽人を気に入ってるんです。だから、何て説明すればいいのかわからない」

「確かにそうね。私も同じだわ」

「まだ、伝えなくていいかなって思うの。もう少しだけ時間が必要かなって」

「そうね。ご両親に言えるようになるまで家にいたらいいわ」

「ありがとう」


タクシーは、大きな豪邸に私と絵茉を連れてくる。

やっぱり、彼女と私は不釣り合い。

タクシーを降りて家に入ると「お帰りなさいませ」と言われた。

私が生きてる間に、経験する事はない。

彼女に向かってたくさんの方が、頭を下げている。

映画やドラマと違って、初めて見る光景。


「旦那様と奥様がリビングでお待ちですよ」

「そう。しほりさん、お父様とお母様に紹介するわ」

「はい。その方が私も泊まりやすいので助かる」

「じゃあ、行こう」


絵茉を抱き締める腕に力が入る。

彼女のご両親が泊まる事を許してくれるのだろうか?

リビングを開けて中に入ると大きなソファーに彼女のご両親が座っている。


「お父さん、お母さん、お話があります」


ご両親の前に行くと彼女はキリッとした表情を浮かべている。


「今日は、コウキさんがまだ帰っていないようだけど。どうせ、あなたが何かしたのね!」


彼女の母親は、何も話す前から怒っているようだ。


「そうやってあなたは、また私から大切なものを奪うつもりなのね」

「よさないか。母さんは、いつもそうやって夕貴に酷い言い方をする。夕貴だって何か考えがあるんだよ」

「何を考えているんですか。この子の考えなど浅はか何です。あの時だって、小学校を勝手に留年してあなたはやりたい放題で」


小学校を留年した?

どういう事……。


「母さん、もうよさないか。お客さんが来てるんだから」

「お客さん……」


彼女の母親は私を見つめて固まった。


「桜ちゃん……桜ちゃんよね?」





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