10月19日「ルービックキューブ」「川」

 眼下に広がるいくつもの色の付いた四角。時折ぐらりと蠢いて回転して別の面が上になり、違う色になる。

 誰かが言った、元の青になる事はもう二度とないだろうと。

 誰かが言った、今は一つ一つの四角が意志を持って蠢いていると。

 誰かが言った、あれは意志を持った色彩の怪物だと。

 かつて緩やかに穏やかに、この地に豊かさをもたらしていたこの川は、人々の憩いの場だったそうだ。自然の川が整備されて運河になり、周囲に村できて、人々が集まり町になり、城が建って国になった。観光や川から取れる副産物により大いに栄えたこの場所に、ある旅人がルービックキューブを投げ入れた。気まぐれだったのかもしれないし、意図的だったのかもしれないし、事故や事件だったのかもしれない。一面も揃っていなかったその小さな立方体が、水面に音を立てて落ちたその時、幾つもの色が川に流れ出た。音も立てず、緩やかな河の運びにただ身を委ねて、めくるめく色は拡がった。やがて自分の好きな方へと進んでいた色は身を寄せあって固まり、タイルのような正方形となって揺らめいた。隣の色が溶け出すことも無く混ざり合う事も無く、揃わないルービックキューブの一面のように、幾つもの四角で作られた川になった。

 それが時々蠢いて色を変えてはまた静かにそこに揺らめいている。科学者や魔法使いが調べても毒性も特別性も無く、ただただ色のタイルが広がっているだけらしい。動植物に与える事もできるし、人間が飲むこともできる。何の変哲もない、色水。

 国を縦断する運河。めくるめくその色は国の外へと流れることは無かった。国の中だけそう見える幻覚なのか、何かしら閉じ込めるような力が働いているのか、国の領土を越えた途端普通の川に戻ってその深い青で大陸をなぞっている。


 この国へ訪れなければ見ることが出来ない。

 興味を持たなくては出会えない。

 揃わず巡る、立体パズル。

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