第27話
海斗は頷き、微笑んだ。
花火の光で病室内も色とりどりに花が咲いたようになる。
窓の近くにいる2人はさっきからうるさいくらいに騒いでいて、ここに来ることができて本当によかったと感じた。
「また来年も一緒に見ような。今度は河川敷でさ、屋台の料理を食べながら」
窓へ視線を向けて海斗は梓に話しかける。
「そうだね……そんな未来が……来たら……」
言葉がとぎれとぎれになり、海斗が梓へ視線を向けた。
梓は口元に笑みを浮かべて目を閉じていた。
「梓?」
声をかけても返事はない。
「おい、梓?」
肩を揺すってみても梓は目を開けない。
異変に気が付いた健と亮子がかけよってきた。
「梓!!!」
海斗の叫び声が病室に響く。
そうだね。
そんな未来が来たら、きっと幸せだね……。
☆☆☆
数日後。
海斗は白い花束を手に歩いていた。
夏休みはもうすぐ終わるのに、まだまだ暑い日が続きそうだ。
「まじで暑いなー」
呟いて額に滲む汗を拭う。
熱さのせいで歩みが遅くなり、あやうく遅刻してしまいそうになった。
慣れた入り口から院内へ足を踏み入れると冷房がきいていて生き返る。
そのままエスカレーターに乗って5階のボタンを押した。
あの花火大会の日。
梓は意識を失った。
すぐに先生を呼んで対応してもらったけれど、本当に危うい場面だった。
今思い出しても全身から血の気が引いていく。
チンッと情けない音がしてエスカレーターが5階に到着したことを知らせる。
目の前の扉が開いて、ナースステーションが視界に入る。
白衣を来た女性看護師がこちらに気が付いて「いらっしゃい」と笑顔で迎えてくれる。
まるで喫茶店の常連客にでもなったような気分だった。
ぎこちなく笑顔を返して、廊下の奥の病室へと向かう。
最初に梓が入院していた病室はナースステーションからすぐ近くだったっけ。
真っ白な個室で、一瞬梓の姿が見えなかったんだよな。
そんなことを考えながら大部屋の前で立ち止まる。
ドアをノックするまえに一度深呼吸をして、そしてノックをした。
「はい」
中から声が帰ってきて、心臓がドクンッと大きく跳ねる。
その声は出会ったときよりもハッキリとしていて、力強い。
声を聞いただけですでに泣きそうになっている自分がいる。
海斗は目に浮かんでくる涙を押し込めて、ドアを開いた。
5人部屋の一番手前の右手が梓のベッドだった。
梓はすでに私服に着替えをしていて、ベッドの上にはボストンカバンが置かれている。
そして先にきていた健と亮子が「遅いぞ」と、文句を言ってきた。
「悪い。これ、買ってきた」
女の子に花をプレゼンントしたことなんて生まれて初めてで、どうしてもぶっきらぼうになってしまった。
しかし梓は両手で白い花束を受け取ると嬉しそうに微笑んだ。
「キレイ! ありがとう!」
元気に答える梓にホッとして微笑んだ。
花火大会の日に意識を失った梓だけれど、その後すぐにドナーが現れたのだ。
手術は無事に成功して、術後も問題なく過ごすことができた。
これだけ元気なら退院しても大丈夫だと、担当医からお墨付きをもらい、今日がその退院の日なのだ。
もちろんこれからも通院は続けて行くし、学校に来られる日とそうじゃない日があるかもしれない。
しばらくは生活に制限がつけられる。
それでもこれは大きな一歩だった。
梓がようやく梓らしく生きていくことができるための、第一歩。
「退院おめでとう梓!!!」
3人分の声が重なりあい、梓はピンク色に頬を染めて今までにない一番の笑顔を見せたのだった。
END
暗黒ギフト2 西羽咲 花月 @katsuki03
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