第24話

翌日から2人は亮子の監視が始まった。



時間があるごとに隣にクラスに足を運び、友人とおしゃべりをするふりをしながら亮子の様子を確認した。



梓からなんの連絡も入らなくてもこうして監視することで危機的状況を回避することができるはずだった。



「ひとりきりになることはないみたいだな」



昼休憩時間中、早めに給食を食べ終えた海斗と健は、やはり隣のクラスに遊びにきていた。



「そうだな」



海斗は頷く。



亮子は友人たちに囲まれて楽しそうに談笑している。



転校してきてすぐの頃にクラス中の女子からイジメられていたなんて、今の姿からでは想像できなかった。



「あの子とも一緒に遊ぶんだな」



亮子と一緒にカナの姿もあって健が呆れた声を漏らす。



自分を金で売るような人間、健からすれば絶交ものだ。



「優しいんだろ。だから梓のことも許して見舞いに行くようになったんだ」



そのことについては海斗は嬉しく思っていた。



友達はいないと断言していた梓に、今は何人もお見舞いに来てくれる人がいるのだから。



自分もその中のひとりだと思うと、なんだか誇らしい気持ちになる。



「でも、カナに声をかけてた男って誰なんだろうな?」



「さぁ? でも、このクラスについて詳しそうだよな。カナに目をつけたのもいいところだし、火事を起こそうとしたのなら、学校内に入り込めるような人間ってことだ」



海斗がそう言ったとき、一瞬だけある人物の顔が浮かんできた。



けれどそれはすぐにかき消した。



まさか、あの人がそんなことするはずがない。



亮子を危険な目に合わせる理由がない。



「どうした?」



「いや、なんでもない」



海斗は左右に首を振って、自分の考えをかき消したのだった。


☆☆☆


あの先生は女子生徒に興味があるらしい。



そんな噂を耳にしたのは数ヶ月前のことだった。



好みのタイプは隣のクラスの女の子。



名前はたしか……りょうこちゃん。



あれは誰が言っていた噂話だったとろうか。



誰もそんな話し信じていなかったし、今でも信じていない。



だからすぐに忘れてしまった。



でも、もし、万が一にあの噂が本当で、担任の先生がりょうこという名前の生徒のことが好きだったとしたら……?



相手にされなかった逆恨みでなにか行動を移すかも知れない。



例えば相手をひどいめに遭わせるとか、それこそ、殺してしまうとか。



そこまで考えて海斗は盛大なため息を吐き出した。



今教卓に立って授業をしている担任教師の顔をジッと見つめる。



人の良さそうな下がった眉毛に、笑ったらシワがよる目尻。



この人が亮子を殺そうとしているなんて、とても考えられることじゃなかった。



だけど、条件はピッタリだ。



学校に出入りすることができて、亮子の人間関係を知っていて、カナの経済状況も把握している。



考えれば考えるほどにこのひとしか犯人になりえないんじゃないかと思えて来てしまう。



「次の問題、深谷」



いや、でもまさか先生がそんな……。



「深谷!」



「は、はいっ!」



ビクリと飛び跳ねて立ち上がるが授業内容なんて少しも聞いていない。



海斗は「わかりません」と弱々しく返事をして、みんなから笑われてしまったのだった。


☆☆☆


それから数日間は何事もなく過ごすことができたけれど、海斗は自分の中に生まれた疑念を振り払うことができずにいた。



この疑念を晴らすためには亮子を追い詰めている犯人を見つけ出すしかない。



そう思っていた頃、梓から連絡が入った。



『予知夢を見たよ』



そんな件名で送られてきた内容は、今日の放課後学校前の交差点で交通事故が起こるというものだった。



ただ、今回も被害者の顔を見ることはできなかったので、亮子がからんでいるかどうかはわからないとのことだった。



海斗はキッズスマホを握りしめて学校へ向かい、さっそく健にそのことを相談した。



「学校の目の前か」



健は顔をしかめて呟く。



学校前に交差点があるということで、毎日のように先生が立って見守りをしてくれている。



けれど今日はちょうどその見守りがない日なのだ。



先生たちの会議があるため、代わりに地域の大人たちが出てきてくれるはずだ。



「そっか、今日は先生たちは職員室に缶詰なんだ」



海斗はポツリと呟いた。



担任が職員室から出られない日に事件が起こるのなら、担任が黒幕ということはないかもしれない。



一瞬そんな思いがよぎったけれど、前回までと同じように金を積んで誰かに頼んでいる可能性もあるのだ。



やっぱり油断は禁物だった。



授業が終わると2人はすぐに教室から飛び出した。



今日は大きな会議がある日なので、担任も2人を引き止めるような時間はなかったようで、そのまま職員室へと戻っていった。



いち早く交差点までやってきた2人は息を切らして立ち止まった。



少し早く授業を終えた下級生たちがぞろぞろと横断歩道を渡っていく。



みんな教えられたとおりに左右を確認し、手を上げて渡っている。



その様子を見て海斗はホッと息を吐き出した。

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