第23話
「知らない人」
「知らない人? そんなわけないだろ。お前は知らない人間の言うことをなんでも聞くのか?」
健からの質問にカナはキュッと唇を引き結んだ。
今にも泣いてしまいそうな表情になって健をにらみつける。
「手伝ってくれたらお金を渡すって言われたの」
「お金?」
ますますわからない。
誰かが亮子を陥れようとして言えることは事実だとしても、それは同年代の子供じゃないんだろうか。
お金にものを言わせて子供を従わせるなんて、人としてどうかと思うが。
「うちの家、お父さんがいないから……」
カナが消え入りそうな声で言う。
「それで金を貰って亮子を殺そうとしたってことか」
健の言葉にカナはハッとして顔を上げた。
「殺そうだなんて思ってない!」
確かに、カナからすれば家庭科の授業で班から離れただけ。
亮子を河川敷に誘導しただけということになる。
家庭科の授業では元々コンロかなにかに細工がしてあって、あれだけの火柱が立つようになっていたのだろう。
そのとき、亮子が大きなクシャミをひとつした。
「亮子、早く帰らないと風邪ひくよ」
「うん。そうだね」
亮子はカナの言葉に素直に頷き、歩き出す。
お金のために自分を危険な目に合わせたカナと、寄り添うようにして歩き出す。
そんな2人の後ろ姿を見送って、健と海斗もあるき出したのだった。
☆☆☆
一度自宅に戻って着替えをした海斗は、健と2人で梓の病院へ来ていた。
「今日の出来事はちゃんと報告したほうがいいよな」
「そうだな」
梓に余計な心配はかけたくなかったけれど、黙っておくこともできない。
これから先予知夢を見るにしても、もしかしたらまた亮子が被害に会うかの知れないのだ。
梓の病室が見えてきたとき、そのドアが開いて黒スーツの男が出てきた。
声をかけようかと一瞬迷ったが、男が逆方向に歩いていくのを見て声をかけるのはやめておいた。
「あいつ、ちゃんと見舞いに来るようになったんだな」
健はこころなしか嬉しそうに呟く。
海斗もそれに関しては同意だった。
梓の不安そうな表情を見なくてすむのは嬉しかった。
執事が出ていってすぐにノック音が聞こえてきたため、梓はなにか忘れ物をしたのだろうと思って返事をした。
「よっ!」
しかし、入ってきたのは元気印の2人組で、つい笑顔が溢れる。
ついさっきまで体を起こしていたから、今日は横になったままで2人の話をきくことにした。
「でさ、今日ちょっと深刻なこともあったんだ」
健が楽しい話をしてくれて散々笑った後、海斗は少し深刻そうな表情を浮かべた。
「なに?」
梓は首をかしげて聞く。
先に沢山笑わせてもらったから、どんな話しを聞いても大丈夫だと、ベッドの上で居住まいを正す。
「実は……」
海斗がおずおずと今日の出来事を話してきかせると、元々青白い顔をしている梓は更に顔を青くした。
さっきまでの笑い声は鳴りを潜めてしまい、やっぱり伝えるべきじゃなかったかもしれないと後悔した。
しかし梓は最後まで話を聞いてくれた。
「そんな、亮子が……」
その反応に海斗と健は目を見交わせる。
ずっと病気をしていてあまり学校に来れていない梓は、友人がいないと言っていた。
「亮子のことを知ってるの?」
聞くと、梓は小さく頷いた。
「前に話したよね、転校生をイジメていたときのこと」
聞かれて海斗は頷いた。
なかなか友人ができなかった梓は転校生としてやってきたクラスメートのイジメに参加した。
そうすることでイジメ友達ができて、孤独から開放されることができたからだった。
だけどそんなことでできた友達は本当の友達じゃなかった。
梓がまた学校へ行けなくなってしまったとき、イジメ仲間の彼女たちは誰1人として御見舞にこなかった。
その程度の関係だったのだと、梓は身を持って痛感したのだ。
「亮子のことなの。転校生って」
「え……」
海斗と健は目を見開いて驚いた。
亮子が転校生だったということすら知らなかった。
「だけど、亮子は今お見舞に来てくれたりしているんだよ。2人に過去のことを話した後、どうしても謝らなきゃと思って、連絡をとったの。そしたら亮子すんなり許してくれて、まるであんなことなかったみたいに接してくれて……」
そこまで言って胸が詰まったように言葉を切った。
梓の瞳には涙が浮かんでいる。
それくらい大切な友人になれたということなんだろう。
そうだったのか。
海斗たちは初めて聞かされたことだった。
「梓の友達なら絶対に助けないといけないな」
海斗は力強く言ったのだった。
☆☆☆
梓の友人を助けるためにできること。
それは予知夢を見たらできるだけ早く連絡してもらい、動けるようにすることだった。
男にギフトを渡してもらうよりも確実に、そして早く。
そう考えた時にできることは互いに連絡先を交換することだった。
海斗がキッズスマホを取り出すと、梓は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった。持ってたんだね」
「一応は」
ドギマギしながら番号交換をして、大切そうにスマホをズボンのポケットに入れた。
「なんだよ、いつの間に買ったんだ?」
病院を出てから健に聞かれて海斗は舌を出した。
男に連絡先を教えてもらってから、何度も両親におねだりをしていて、ようやく買ってもらうことができたのだ。
できれば梓の番号を一番最初に登録したかったのだけれど、両親の連絡先を入れるのが先になってしまった。
「でもこれでひとまず安心だな」
「あぁ」
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