第22話
しかし亮子には見えていないようだ。
間に走っている川が思ったい上に大きい。
「向こう側に移動したほうがいいかもしれないな」
海斗の提案に健は頷き、2人はすぐに移動を開始した。
帰宅途中の生徒の流れを逆走して、河川敷の向かい側へと急ぐ。
亮子がいる方の河川敷はあまり手入れがされていなくて、草木が2人の胸の高さまで伸びている。
「亮子!」
声をかけながら草木をかき分けて進んでいくが、さっきまで見えていた亮子の姿が見えなくなっている事に気がついた。
「どこに行った?」
「わからない」
ついさっきまで亮子が立っていた場所に立ち、呆然と立ち尽くす2人。
まさかここまで来るまでにすでに……。
そう考えた瞬間だった。
ザパンッ!
と大きな音がして、同時に女子生徒の悲鳴が響き渡ったのだ。
その声に弾かれたように川へ近づく2人。
草木の間から川の中を確認すると、ピンク色の服が見えた。
それは川の中に沈んだり出たりを繰り返してどんどん流されていく。
赤いランドセルが少し離れたところを流れていくのも見えた。
「くそっ!」
海斗は軽く舌打ちをしてランドセを放り投げると、同時に川へ飛び込んでいた。
水泳は得意な方だった。
川で泳いだことだって何度もある。
だけど溺れている人を助けるのは初めての経験だった。
力強い泳ぎで亮子まで近づいて行った海斗は、亮子の首に腕を回した。
亮子は薄めを開けてこちらを見た。
よかった、意識はあるみたいだ。
海斗の顔を見て驚いたように目を見開いた後、大きく息を吸い込む音が聞こえる。
それほどパニックにもなっていないし、この様子だと大丈夫そうだ。
といっても川の流れは思ったよりも早いみたいで、亮子を抱えたまま河川敷へ泳ぐことは難しそうだ。
海斗は河川敷にいる健へ視線を向けた。
健は太いロープを持っていて「行くぞ!」と一声かけると、それを海斗へ向けて投げた。
人が流されるとわかっていたので、予め学校の倉庫から拝借していたのだ。
溺れている人が冷静にロープを掴むことができるかどうかわからなかったから、海斗が先に川へ飛び込む形にした。
「よし、もう大丈夫だぞ」
ロープをしっかりと手首に巻き付けて亮子に声をかける。
亮子は真っ青な顔をしていたけれど、しっかりと頷いたのだった。
どうにか亮子を河川敷へ助け上げた後、海斗と健はどうしてこんなところにいたのか質問をした。
「友達が河川敷に落とし物をしたっていうから、一緒に探してあげてたの」
「友達?」
海斗が首をかしげる。
最初から亮子はひとりきりだったように見える。
「うん。だけどその子、私が探してあげている間に帰っちゃったみたい」
その言葉に今度は眉間にシワを寄せた。
友達に探しものをさせておいて自分は先に帰るなんて、ちょっと考えられない行為だ。
「それで、どうして川に落ちたんだ?」
健が確信へ近づく。
単純に足を滑らせたのかもしれないし、あるいは……。
亮子がサッと青ざめた。
びしょ濡れに鳴ったスカートのスソをキツク握りしめる。
「信じてもらえないかもしれないけど、誰かに背中を押された気がする」
「背中を押された?」
健は聞き返した。
亮子はうつむいて、頷く。
その唇は真っ青でカタカタと震えている。
それは寒さだけのせいじゃなさそうだ。
亮子の言葉を聞いて2人はすぐに周囲を確認してみたけれど、誰の姿も見つけることができなかった。
だけど、もしも亮子の言っていることが本当だとすれば、大きな問題だった。
「もしかして、駄菓子屋での事故や家庭科室での火事も、なにか見に覚えがあったりする?」
海斗の質問に亮子は首をかしげた。
「事故が起きそうになったときは私以外にも友達がいたし、家庭科の授業では偶然私がひとりになっただけだと思う」
青い顔をしているけれど、しっかりとした口調で答えた。
「そっか。今回探しものをお願いしてきた子は誰?」
「クラスの子。家庭科の授業でも同じ班だった」
その説明に2人は目を見交わせた。
その友達に話をきくことができればなにかわかってくるかもしれない。
そう思っていたときだった。
「亮子!」
そんな声が聞こえてきて3人は同時に振り向いた。
そこには河川敷へ降りてくる1人の少女の姿があった。
「カナ!」
亮子が反応して微笑む。
「ごめんね先に帰っちゃって」
息を切らして戻ってきたこの子が、亮子に探しものを手伝わせた張本人らしい。
カナと呼ばれた子はずぶ濡れになっている亮子に目を丸くして驚いている。
「探しものってなんだったんだ? どうして亮子をひとりにして帰った?」
健がカナを睨みつけて詰問する。
その厳しい表情にカナは一瞬たじろいで後退した。
「ひ、人に頼まれたの」
「人に頼まれた?」
予想外の言葉に海斗は眉間にシワを寄せる。
「うん。亮子を河川敷に呼び出してくれって」
「え……」
亮子は本当になにも知らなかったようで唖然としている。
「それなら捜し物に付き合えなんて嘘つかなくてもよかったんじゃないのか? どうして人が呼んでるって素直に言わなかったんだ?」
もしかしたら、亮子をここへ呼び出した人物が川に突き落としたのかも知れないのだ。
「そ、それも言うなって言われてたの」
カナが怯えた様子で健から離れる。
健は大きくため息を吐き出した。
「もしかして、家庭科の授業のときも誰かになにか言われた?」
亮子とカナは家庭科の授業でも同じ班だと言っていた。
それなら、なにかあってもおかしくはない。
カナは気まずそうに視線をそらしたが、この状況では逃げられないと悟ったようで小さく頷いた。
「家庭科の授業中に班から離れろって言われた」
「誰に!?」
海斗の声がつい大きくなる。
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